アパレル企業は何を目的にして「デジタルファッション」に取り組むべきか?|"売上"以外の3つの目的をご提案
本noteは、デジタルファッションの導入を検討しているアパレル企業の方や、デジタルファッションの提案を行う支援会社の方向けに、「デジタルファッションは、何を"目的"にして取り組むべきなのか」をテーマに解説していきたいと思います。
結論からお伝えすると、デジタルファッションを販売することによる「売上」を目的にするのではなく、「サステナブル」「ロイヤリティ向上」「プロモーション」などを目的に取り組むのが筋が良いのではないかと考えています。
以降、上記結論の理由を詳しく解説していきます。
前提
デジタルファッションは大きく以下の4つに分類できると思っているので、この分類を前提にした上で解説を進めていきます。
<デジタルファッション4つの分類>
①人間が実際に着用するもの(NFCチップ付きのアパレルなど)
②人間がデジタルを通して着用するもの(ARファッションなど)
③アバターなど人間以外が着用するもの(ウェアラブルNFTなど)
④観賞・コレクション用(NFTアートなど)
なぜ売上目的だと良くないのか?
理由は2つあって、1.市場のパイが狭いため、2.レピュテーションリスクの懸念があるためです。
1つ目の市場のパイの狭さに関してですが、世界のアパレル市場は約1兆ドルと言われているのに対し、デジタルファッションの市場は2021年時点で5億ドルと、現時点では全体の0.5%の市場規模しかありません。
売上を狙うのにパイの狭い市場を狙うのは、得策とは言えないでしょう。
また、2つ目のレピュテーションリスクに関してですが、前提でお話した②③④は、現状デジタルファッションのプラットフォーム同士の相互運用性がないため、デジタルで着用するファッションを購入してもフィジカルなアパレルのようにいつでもどこでも着用したり、他プラットフォームを跨いでコレクションを展示することができません。
どのような状態か、現実世界に置き換えると分かりやすいのですが、ZARAで買った商品はZARA上でしか着用できない・展示することができないといった状況です。かなり不便であることが分かるかと思います。
これらのことから、デジタルファッションを売上目的で販売した場合、購入した顧客は、ブランドに対して利益重視かつ使えないデジタルアイテムを販売する企業なのだと感じるようになり、仮に単発で売上は作れたとしても、レピュテーションリスクが波及してしまう懸念が考えられます。
では、何を目的にすれば良いのか?
売上以外の目的だと、アパレル企業は何を目的にデジタルファッションに取り組みを行えば良いのか。現状だと「サステナブル」「ロイヤリティ向上」「プロモーション」などを目的とするのが良いと考えているので、事例を踏まえて解説いたします。
1. サステナブル
現在、アパレルは世界の二酸化炭素排出量の10%、年間9,200万トンの繊維廃棄物、廃水の20%は布地の染色と処理に由来していると言われていて、アパレル業界全体の課題として挙がっています。
一方で、DRESSXの調査によると、デジタルファッションの製造はフィジカルなファッションに比べて二酸化炭素排出量が97%少なく、水や繊維も使用していないため、上記の課題に対しての解決策の一つとして、デジタルファッションは有用であると考えられています。
デジタルファッション業界をリードする「DRESSX」は、サステナブルの観点でデジタルファッションを提案しているプロジェクトで、DRESSXで販売するアイテムは、ARでの着用や写真の着せ替え、ビデオ通話などのバーチャル上で、デジタルファッションを身につけることが可能です。
▼実際のDRESSXのデジタルファッション(パッと見、本当に着用しているように見えますよね!)
大手アパレル企業だと、H&Mはサステナブルの要素を取り入れたコレクション「Innovation Stories(イノベーション・ストーリーズ)」を定期的にリリースしていて、第8段目に、ARで着用可能な3Dのデジタルコレクションを発表しました。
サステナブルの観点でデジタルファッションの取り組みを行う企業を調査した際の気づきとして、ただデジタルファッションをリリースするだけでなく、「なぜデジタルファッションなのか」といったストーリーを消費者へ伝えることが重要だと感じました。
「デジタルファッションに置き換えることでサステナブルに繋がる、だからデジタルファッションを取り入れよう!」といったブランド側からのメッセージがないと、冒頭で解説した通り、一般の人にとってデジタルファッションを購入しても用途が少なくメリットを感じないためです。
具体的には、現状のファッション業界において「SNSで数回着用して返品・廃棄する」といった課題が挙げられると思うのですが、ブランド側が「SNSでの着用が目的ならデジタルファッション」といったメッセージを訴求することで、消費者はデジタルファッションのメリットを感じ、サステナブルを意識する新たな顧客へのリーチも可能になるのではないかと考えています。
2. ロイヤリティ向上
アパレル業界において、新規顧客の獲得だけでなく、顧客の育成といったロイヤリティの向上も重要な指標として挙げられると思います。
Web3業界のパイオニアであるGmoneyが創設したブランド「9dcc」が、フィジカル×デジタルを上手く組み合わせたロイヤリティを高めるための取り組みを行っているのでご紹介します。
9dccは、デジタル上で着用するアイテムの販売ではなく、フィジカルなファッションアイテムにNFCチップを組み込む形でデジタルを取り入れてアパレルの販売を行っています。(前提でご説明した①に該当します)
定期的に9dccのアイテム保有者限定のイベントを開催していて、顧客のロイヤリティを高めているのが見受けられます。
例えば、NFCチップ部分にスマホをかざすと、個別にパーソナライズ可能なPOAP(NFT)が配布可能になっていて、アイテム保有者限定のオフラインイベントを定期的に開催し、POAPを最も多く獲得した人・最も多く配布した人に賞品を与えるといった企画を行っています。
また、ニューヨークで行われた「Treasure Hunt」と呼ばれるイベントは・宝探しやスタンプラリーのような要素が取り入れられていて、指定の場所へ行くとPOAPや限定のピンバッジを得ることができました。
▼アイテム保有者がTreasure Huntを楽しんでいる様子
その他にも、NFCチップを読み込むことでオンラインでもゲームに参加できたり、これらのイベントへ参加することでポイントが付与され、ブランドへの貢献度に応じてランク付けされ、ランクの高いメンバーには追加で特典が与えられます。
▼ランク上位にはTwitterのチェックマークやロゴバッジが付与された
このように、アイテム保有者同士で自然と交流が生まれるようなイベントや、NFCチップ付きのアパレルで、読み込むとPOAPの配布やゲームが可能といったSNSで思わず自慢したくなるような先進的な取り組みを行うことで、ブランドへのロイヤリティが高まり、継続した購入にも繋がっていくのではないかと感じています。
3. プロモーション
新商品のリリースなどで新規顧客をターゲットとしたプロモーションを目的としてデジタルファッションを取り入れたい場合は、「ARミラー」が効果的なのではないかと考えています。
ARミラーとは、ミラーに自分を投影させると、数秒のうちにバーチャルファッションが体にフィットに、まるで試着しているような体験が可能になるものです。
▼Tommy HilfigerがARミラーを導入している
ARミラーは店内での設置だけでなく、お店の前に設置して、ブランドに関心はあるけどお店で商品を購入したことのない層に対して、試着や入店のハードルを下げることができます。さらに、ターゲットが多く通る別の場所に設置すれば、より多くの見込み顧客へリーチできる可能性が広がります。
▼Coachはお店の前にARミラーを設置し通行人が手軽に試着できる機会を提供している
また、店舗を持っていないオンライン限定のアパレルブランドともARミラーは相性が良いと思っていて、ARミラーで試着体験が可能なので、オフラインのデメリットである「試着ができない」といった課題を解決することが可能となります。
オフラインで店舗を出さずとも、ターゲットが多く通る人通りに設置すれば、試着体験も可能で、SNSで投稿したくなるようなAR体験を提供すれば、口コミ投稿でミームが生まれ、プロモーションとしての効果も最大化できるのではないかと考えています。
総論
前提として、私はアパレル企業の方のデジタルファッションへの取り組みに否定的ではありません。私自身も今後来るであろうデジタルファッションの未来を信じて日々リサーチを行っているので、むしろどんどん取り組みを行ってほしい派です。
ただ一方で、「NFTやデジタルファッションの販売で売上を上げたい」といった企業様も多く見受けられたので、現状だと売上目的よりも他の目的で取り組みを行った方が、期待値を上げすぎずに継続して取り組みを行うことができるのではないかと思い、このようなご提案をさせていただきました。
「デジタルファッションやっても売上上がらないじゃん!辞めよう!」だとデジタルファッションの可能性を信じている私にとっては、勿体無いなと感じてしまいます。
また、いざ時流が来た時に目的を売上にしてしまったことで「過去失敗している」といった悪印象によりデジタルファッションへの取り組みのスピードが遅くなり、結果、競合と大きな差を付けられてしまった、となってしまうのを危惧しています。
ですので、別の目的で継続したデジタルファッションの取り組みを行いつつ、時流が来たときにすぐにその波に乗れるような形を作っておくことが、今後デジタルファッションで売上を上げるためにも良いのではないかと感じています。
もしご意見ある方がいましたら、ぜひTwitterやオンラインミーティング等でもディスカッションさせてください!
本日はここまで!今後も、さまざまなデジタルファッションのプロジェクトをご紹介していくので、引き続き「FASHION X」をチェックしてみてください!
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