1回目 『竜とそばかすの姫』
映画を語ろう。
なぜここで記事にしようと考えたかというと、Twitterでは「ネタバレ」を書きにくいから。
書いてもいいのでしょうが、各方面の「ネタバレ」に関しての呟きを見ていると「知りたくなかった」がメインになるし、いやあの「ネタバレ」嫌なら「見ない」という選択肢もありますよ??? と言いたいタイプだけど、なんというかSNSが日常に溶け込みすぎていて、どうやら「見ない」という選択肢はもはや存在しない世界に生きているのだなあ我々は、と思ったもので。
そういう訳で「ネタバレしてます!」を大々的に前面に出し「だからネタバレ嫌なひとは避けてくださいね」というスタンスで、ネタバレありの映画語りをしたくなりました。
前置きが長い。
気を取り直して、記念すべき1回目は『竜とそばかすの姫』を語ろうと思います。一度観ただけなので曖昧な箇所があります。もし間違っているところがあったらぜひご指摘くださいませ。
この作品のファンにとっては不快な内容が含まれている可能性があります。(追記:2021年9月1日)
以下ネタバレがふんだんにあります。
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『U』における『As』
仮想空間『U』では、自分の分身『As』の姿で別の人生を生きることができる。
これはある意味、すでに実現している世界観。おもしろいなと思ったのはボディシェアリング・デバイスを通じてユーザーの生体情報が認識され『As』が生成されるところ。生体情報を認識するから、ひとりにつきひとつの『As』しか持てない。さらに本人の内にある才能や感情が強く表に出る──というのが、最大のポイント。
外見については、おそらくだけど「自分の憧れ」が具現化して、そののちに認識した生体情報が加味され完成ということなんだろうな。そう考えると「ベル」や「竜」の『As』の姿にも納得はできた。
現実世界では大きな心の傷のせいで満足に歌えないすずが、『U』では自然に歌えて、なおかつその歌が瞬く間に大人気になるのは「ベル」という『As』が、すずの持つ「歌いたい気持ち」や「歌唱力」を大きく引き上げたからだろうと想像したけれど、後の展開で「おや?」と違和感を持った。この点についてはあらためて後で詳細を書くけれど、個人的には「物語内での設定にある種の破綻があるのでは」と感じた点でもある。
『U』には、平和や秩序を守るという名目で「ジャスティス」と呼ばれる集団がいる。現実世界なら「運営」と呼ばれる立場のひとがすることを自主的にやっているユーザーたちの集団──の、ようでした(実はよく理解できなかった)。現実世界のSNSにこんなのがいたら怖いし迷惑だ。だけど『U』ではどうやらヒーロー的な立ち位置で、さらに困惑したのはリーダー(という呼び方が適切かは解らないけれど)のジャスティンの持つ「武器」。それを使うと「アンヴェイル」されて『As』ではいられなくなるってことなんだけど、これも「ううむ」な点。ジャスティンにはスポンサーがいっぱいいて人気者なのは解ったけど、ユーザーがこんな権力持ってていいの? それってジャスティンが暴走したらどうなるの? 運営がやることだよね? などと、余計なことを考えてしまった。
ちなみに個人的には、身バレよりもアカウント停止の方が怖いし、今やSNSは本名でやるものらしいので「アンヴェイル」ってそんなに大きな脅威なのか? という印象だった。
『As』という「分身」で生きられる仮想空間『U』。
設定としてはめっちゃおもしろいのに、後付けだったのかなーなんて、ちょっとだけ疑っている。
「ベル」と「竜」
「竜」についてはうろ覚えなのだけど、「ベル」のライブに乱入してきたときに「突如格闘場に現れて、勝つためには手段を選ばないのでジャスティスに目を付けられている」と紹介? されていた気がする。物語上「ベル」と「竜」が出会うのは必然だとしても「ライブに乱入してめちゃくちゃにする」というのが、どうもなあ、というところ。「竜」は無法者って扱いなので、無法者ならライブに乱入くらいするか、と思う反面で、自身のフィールドから出る必要ないのでは? という疑問が湧く。それこそ「竜」が「ベル」の歌を気に入って拐いに来たならまだ解るけど。ライブをめちゃくちゃにされたことを怒ったひろちゃんが「『竜』の正体を突き止めよう」と提案するけど、そんなことするかな、とも思った。「関わらない」って選択肢も当然、あるはずなのに。
とは言え、物語上、「ベル」と「竜」に関わりがないとどうにもならないのでね。
他者を拒絶している様子の「竜」が「ベル」だけ受け入れるというのは、物語上の都合、ととれなくもない。「ベル」が「竜」に心を寄せるきっかけもよく解らなかったし、一番の謎は、何故「ベル」は「竜」の城を突き止めて「竜」と対面できたのかってこと。「天使(クリオネみたいな、おそらくAI)」に導かれて「ベル」は「竜」と会えるのだけど、それは孤独な「竜」の深層心理が「誰かの手を待っていた」ということでいいのかしら。
ひろちゃんとしのぶくん
親友・ひろちゃん。
すずを『U』に誘い、「ベル」のプロデューサーでもある(ようだ)。
どうやら最初からプロデュースしていた訳ではない模様。「ベル」の歌を気に入ったユーザーが勝手にアレンジして勝手に拡散したことで徐々に人気が出始め、何に詳しいのか解らないけどネット関連に詳しいらしいひろちゃんがプロデューサーを買って出て、一儲け企んだのかなって感じ。「ネット関連」に詳しいだけであれほどのプロデュースができるとは思えないし、プロデューサーなんていないのに「ベル」が人気者になっちゃって、あわあわしてるすず、という図式の方がリアルな気もした。
この作品の中で最もうぞうぞしたのは、ひろちゃんの科白だった。
素顔で歌を歌える子じゃないよ?!
──正確ではないけど、こういう意味のことを、間違いなく彼女は言って、めちゃくちゃに傷ついた、わたしが。
ひろちゃんがすずに『U』を紹介した真意は解らないけどきっと、すずに変わって欲しかったからだろう。母親を亡くしたことが心の傷となって歌えなくなったすず。でも音楽から離れられないすずに、もしかしたら『U』なら、という思いがあっただろう。きっとあれは間違いなくひろちゃんの本心だし、これ以上すずを傷つけたくなくての科白だってことも解るけど。せめて、言い方。
幼馴染み・しのぶくん。
ひろちゃんとは逆に、すずを心配しまくっている反面で無条件に近く信頼しているように見えました。「ベル」の正体にも気づいていたけれど、なぜ気づいたのかは語られないので不明。ただ、どうやらしのぶくんは『U』のユーザーではないので、「ベル」を認識する前に「ベルの歌声」を聴いたんじゃないかな、と。声は変わってないみたいだし(歌唱力は解りませんが)、あれだけすずのことを気にかけていたらきっと「歌声」で気がついたに違いない。
ヒロインが幼馴染みの男の子に恋をしていて、そしてその男の子もヒロインに恋をしているって図式(両片想い)は、もうあっちこっちに転がってる設定だからいいんだけど、すずがしのぶくんを好きになるのはよく解るとして、しのぶくんの内面が描かれて無さすぎて、舞台装置として存在してるだけという印象だった。ひとりの創作者として作りやすい設定なのは理解できる。そしてわたしも、ついついこういう人物書いちゃうから、ひとのことは言えないのですけども。視点がすずに固定されるから簡単ではないけど、もうちょっとしのぶくんを掘り下げて欲しかったかなあ。
なんならカミシンの方が生き生きと描かれてよかったよ。
総論
以上を踏まえての総論。
「アンヴェイル」後の「すずの歌」、そこからの展開について。
すずがすずとして歌えたことには大きな意味がある。「竜(=恵)」を助けたい、という気持ちが、自身の心の傷を乗り越えうるほどの動機になるのか、という部分については、すずにしか知り得ないことだから、そこはすずの決断を受け入れるべき。
それよりもわたしが気になったのは『As』はどれくらい「オリジン(本人)」の「オリジナリティを超える能力を引き出すのか」という点。
父親からの虐待に苦しんでいた恵が「竜」になったときの強さは、恵がそれほどの強い感情を持っていたことの現れなので「あり」だと思う。一方のすずはどうなのか。彼女は本当に「歌いたかった」のか。現実世界では「歌おうとすると吐く」くらいの心の傷になっていて、だからこそ「ベル」という『As』を手に入れたすずが最初にしたのは「歌えるかどうか確かめること」だったのかもしれない。そう自分自身を納得させることにしたとしても、次に気になるのはすずと「ベル」の間に存在するであろう「差分」なのである。
結局、すずが「ベル」になったことで変わったのは「見た目」だけだったのか? すずの「歌いたい気持ち」が増幅されたから歌えたのではなかったのか? 「ベル」とすずの「歌」にはどれほどの違いがあったのか? すず本人の「歌唱力」に、全世界50億ユーザーの多くを納得させ、心を動かす力があったのか? こういった疑問が次々に湧いた。
すずよりも「ベル」の方が歌唱力が優れていなければ「竜」の強さを説明できないし、じゃあ「アンヴェイル」されたすずの歌がどうして多くのユーザーの心を打ったのか? おそらくここは「ベル(=すず)」が「竜(=恵)」を助けたいと強く思ったから、と観るのが「正解」なんだろうし、物語としては王道中の王道だけど、ちょっとご都合主義過ぎじゃないか? と。
さらに「ベル」でなくても歌えるだけの「強い気持ちで乗り越えたすず」を描くなら『U』におけるボディシェアリングって結局何? 50億のうちの「たったひとり」を助けるためだけにあそこまでするか? という印象になってしまった。
こういう疑問を持たせないための背景が「恵と智の兄弟が実は、父親からの虐待を受けている子どもで、すぐに助けなきゃいけない」ってことなのだとしたら、それもなあ、と思ったのも、事実。
すずが「ベル」であることを恵に信じてもらえて、実際に東京まで助けに行くんだけど、ここはもう、アーソウナルンデスネって醒めた目で観ている自分がいました。通報があっても48時間? の縛りがあってすぐにはどうにもできないって事情があったとして、女子高生ひとりで行きます? 行かせます? 現地に? そして現地に到着したすずが雨の中住宅街を走り回ってたら智、続けて恵が外に出てくるとか。正直なところ、外に出られたの君たち? ってなった。そこからすずと恵と智の父親との対決は──おとなでもあそこまでがんばれる? というところで。終盤からラストは、ドラマティックではあったけれど物語的ご都合主義があまりにも……という印象が残りました。
それから非常に個人的な感想は「ベルのヴィジュアルがめっちゃディズニープリンセスだった」ってことと「竜とベルが心を通わせる様子は美女と野獣そのまんまだった」ってことでしょうかね?
あともうひとつ、わたしにはどうしても「すずの母」というひとが理解できなかった。
わたし自身、離婚してお子さんたちを手放しているので「あんたも似たようなことしてるじゃん」と言われそうですが、それは違うのですよ! 当時のわたしは精神を病んでてぼろぼろで、仕事もなくもちろん収入もなく、お子さんたちを育てる自信がまるでなかった。くわえて、手元にお子さんたちを残しておいて、ある日突然自死を選んでしまうかもしれないという恐怖があって、つまり自分自身の「命」を保証することもできないのに、お子さんたちの「命」を預かることができるのか? という状況だったのです。仮にそうなってしまったら、それってお子さんたちを手放すよりももっとひどい「育児放棄」になると考えた訳です。
だから、自分の娘を放っておいてよそ様の子どもを助けるっていう感覚がね、どうもね……。よそ様の子どももだいじだろうけど、そこは自分の娘が最優先ですよね? ってなった。そんなんされたら、子どもだって歌えなくもなるだろうし、実際にはもっと重篤な症状があっただろうとも想像した。だって目の前で母に見捨てられたのと同じで、さらに母はそれで命を失っていて、ネットで叩かれるという二次被害にもあっている訳だから。そりゃもうズタボロだろうさ、と。よく高校に通えてるなと思った。
なので仮にすずの内面に「お母さんもそうしたのだから」という動機があったのだとしたら、正直気持ち悪い。恵がどんな事情を抱えていたとしても「お母さんのように」誰かを助けたい、って思えるだろうか……。
それからTwitterに「世界観は新しいけど価値観が古い」と書いた理由は、あらゆる設定が「ステレオタイプ」に見えたから。すずの「そばかす」、ひろちゃんの「めがね」
、女子にモテモテかっこいい幼馴染みのしのぶくん、みんなの人気者の可愛いるかちゃん。虐待をする恵と智の父親はシングル。虐待されてるかわいそうな子ども。そういう意味ではカミシンは面白いキャラクターでした。
ありきたり、が悪いとは思わないけれど『U』という面白舞台装置を作ったのだから、そういう「ありきたり」をぶっ壊すお話であってほしかった。
すずの「そばかす」の作画は、もう少しどうにかならんかったか? って思ってる。うちの桃吉もそばかすがあるけど、めっちゃかわいいですよ? 梅吉も小さいときはあったけど今はどうかなあ? もちろん梅吉のそばかすもかわいかったよ。個人的にはそばかすってチャームポイントだと思う部分なので、もうちょっとかわいい作画にしてほしかったなあ……。
さいごに
物語として面白かったのは本当です。
でも、期待して観た分、がっかりもしました。
個人的には「アンヴェイル」されたすずの歌は誰にも届かず、でも恵と智は信じてくれたという展開を推します。
こういう書き方がよくないのは承知の上で書くけれど、やっぱり『サマーウォーズ』は超えられなかったか、という印象です。『サマーウォーズ』にもご都合主義はあるし、古い価値観も多数あるけれど、物語としての完成度は高い。だから何度も夢中になって観てしまうのだと思います。
最後の最後に蛇足ですが。
同じ上映回で鑑賞していた見ず知らずの若い女性は「どうしてすずが歌えなくなったのか解らなかったー」というような感想を、一緒に鑑賞していたらしい女性相手に話していて「ほーん……?」となりました。明確に語られてはいなかった部分ではありますが、それにしても、です。
ここ、鑑賞したすべてのひとにすとんと落ちなかったら、ある意味失敗なんじゃないかなあ。
以上、「映画を語ろう」1回目として『竜とそばかすの姫』について、でした。
あくまでもわたしの感想ですので、異論も反論もあるでしょう。ご意見などありましたらお知らせいただけたらうれしいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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