【LOMO LC-A+】ありがとう、ロモの助。
このnoteは、ブログ「コトバコ」のしむさんによるアドベントカレンダー、「【1st Roll】カメクラが沼へ誘う Advent Calendar 2020」への参加記事です。
昨日11日の担当は、同じFUJIFILM(そして、GFX)仲間のタケウチさん。
写真を撮ること、地元を愛すること。
なんで僕の前日担当なんですか。写真の質が圧巻です……。
明日13日の担当は、TRPG仲間のあおいちゅんさんです!
フィルムに恋した2020年
素敵なフィルム写真たち。はやく一緒に撮りに行きたい。
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「そういえば、もうトイカメラは使っていないの?」
先日友人に、電話越しに尋ねられた。
そうだね、しばらく、ずっと。
「へえ」と軽く相槌を打たれ、会話は別の話題へと進んでいった。
「小黒といえば、トイカメラだと思っていたのにな」
ロモグラフィー社製のトイカメラ、「LOMO LC-A+」。
「LC-A」として1980年代にロシアで作られ、その後、一旦製造休止に。しかし、熱狂的なファンたちの後押しもあって復活。「+」の文字と、少しの改良が加えられて、現在も販売が続いている。
この機種を初めて手にしたのは、社会人1年目の冬。
大学時代から使っていた他のトイカメラが故障したため、それと入れ替わるかたちで、僕の元へとやってきた。
その本体重量は、フィルムを合わせて300gに満たない程度。
東へ西へ、ポケットに入れて持ち歩いた相棒だった。
長く使いたいものには名前をつけるクセがあったので、僕は「彼」を「ロモの助」と呼んでいた(なんてネーミングセンスだ)。
彼の目(レンズ)は、焦点距離32mm、F2.8。意外とシャープな写りをするが、周辺はそれなりに落ちるし、なかなか歪む。
ピント合わせも、「0.8m」「1.5m」「3m」「∞」の、4段階の切り替えレバーで操作するしかない。露出はオートだが、しばしば破綻する。
それでも、「まあ、トイカメラだからな」と、全部許せてしまう。
そんな彼と、僕は20代の多くの日々を過ごし、様々な景色を一緒に見てきた。
デジタル一眼はもちろん、フィルムカメラであっても、撮影時には完成した写真をある程度イメージできるものである。
ところがどっこい、トイカメラである彼は、そうもいかない。
良くも悪くも、毎回、意図しない出来上がりになる。
ただそれは、かつての僕にとってはとても好都合だった。
撮影時の想いを彼が自由に解釈し、一緒にセッションをしているような、そんな気持ちでシャッターを切っていた。
自分自身がコントロールしきれない何かに、大きな楽しみを見出していたのだ。
ただ僕が転職で新潟を離れたころから、彼を持ち出す機会は大きく減った。
毎日のようにポケットに入れていたはずなのに、2週間に1度、1ヶ月に1度と触れることは少なくなり、ついには全く撮らずに今、1年が過ぎようとしている。
それは、仕事で写真を撮り始めたことも大きいのかもしれない。
しっかり構図やライティングを考え、思い通りに写真をつくりこんでいく。
その深みと楽しさを知り、極めたいと思うようになってから、次第に「コントロールできないこと」を避けるようになってしまった。
少しずつボディは古くなり、塗装はどんどんと剥がれ落ちていく。
それだけ使いこんできたことを除けば、彼自身は何も変わっていない。
ただ僕が見たい景色と、彼が見せてくれる景色は、きっともう重なることはないのだと思う。とても身勝手な話だと、痛感しているのだけれど。
けれど間違いなく、当時の僕は彼が必要で、ずっとその写真に助けられてきた。
「小黒といえば、トイカメラだと思っていたのにな」
そんな風に友人が言ってくれるほど、彼は僕のアイデンティティのひとつだった。
彼がいなければ、僕は今、ここにいなかったかもしれない。
そう強く感じるほど、彼には感謝しかない。
かつてどんな気持ちでシャッターを切っていたのか、残念だけれど僕はもう、ほとんど思い出すことができない。
それでも、一緒に見てきた景色は、消えることはない。
ありがとう、LOMO LC-A+。
君と撮った写真を糧に、僕は少しだけ、先に進むよ。