今どきの出産・育児事情【復職後】
こんにちは。エネルギー・文化研究所長の金澤成子です。
エネルギー・文化研究所は、深刻化する少子化問題を受け、働きながら出産・育児をする女性たちの本音を探り、新たな課題を発見するため、一昨年夏に「新米ママラボ」を立ち上げました(※1)。マタニティ期~出産・育休期~復職に至る期間での調査(※2)をもとに、その課題と未来について考察していきます。今回は、情報誌「CEL」133号の「未来ブラリ」(2023年9月1日発行)より抜粋し、復職後を中心に、ご報告させて頂きます。
※1女の欲望ラボ(山本貴代代表)と共同発足
※2アンケート調査:新米ママラボ会員22人(30代中心)、2023年4~5月実施
1.復職して変わる仕事への意識
復職した新米ママたちの働き方は、会社の制度を利用して、時短をとる、フレックスを活用、在宅勤務を活用など、様々なパターンが見られました。復職後の日々をひとことで表してもらったところ、「怒涛の1日」「毎日が戦い」「毎日精一杯」「瞬く間」「ヘトヘト」「ストレスの玉手箱」と悲鳴が聞こえてきます。復職後の日々の大変さは想像はしていたものの、やってみての実感が伝わってきました。ただし、働くことで「母であるだけでなく自分である」「社会とのつながり」「周囲への感謝」を感じ、充実感もあるようです。約30年前に新米ママだった私の時も、慣れない初めての育児に奮闘しながら、仕事に復帰した後は、育児で物理的に制約がある中で、時間的には仕事を家に持ち帰り、睡眠時間がさらに減るといった、体力が消耗し、精神的にも余裕のない毎日でしたが、それでも、育児休暇中の孤独感もあり、仕事を辞める選択肢はなかったのも事実です。今のママたちは、環境が激変する中でも、働き方も自己犠牲ではなく、「優先順位の低いものは思い切って切り捨てる」「帰宅後の余力を残す」「より良い環境を求めて転職する」など、上手に時間の断捨離や選択肢をもって、ワークライフバランスも意識していることは、非常に頼もしいと感ました。
2.新米パパも仕事と育児との両立を
育児との両立に欠かせない夫の「育児協力」についてみてみると、もともと協力的な夫が多いほか、以前より協力的になった家庭も3割あり、夫婦で子育てに取り組んでいる様子が窺えました。しかし、新米ママたちからは、「ママばかりが損をする。昇進できない」「職場の理解がなく転職した」など、まだまだ母親に負担が多いのが現状です。
私の息子も、共働きで、2歳の孫を保育所に預け、夫婦で家事と育児を分担と言いながらも、夜勤もある医療関係の多忙な仕事にヘロヘロになっていることもあり、同じく医療関係に従事するお嫁さんに頼らざるを得ない状況です。一方、お嫁さんはさっさと転職して働き方を変え、家庭も自分のこともバランスよく選択している状況をみるにつけ、逆に息子のほうが心配になるくらいです。前回も書きましたが、男女平等社会の理想の育児は「どちらも主体」。どうやら働き方に対する夫の意識改革も課題のようです。
男性の育児休暇制度取得に関しては、まだまだ課題がある中、復職した新米ママたちだけでなく、新米パパたちも働き方やワークライフバランスを変えざるを得ない状況にあることには違いなく、引き続き、育児休暇制度だけでなく、夫婦ともに自己の成長を実感でき、仕事へのモチベーションをアップできるよう、国や会社は、職場の環境改善を検討していく必要があると思います。
3.新米ママと新米パパが考える少子化対策とは?
まだまだ国の政策では、解決の糸口が見えない少子化対策について、新米ママ、新米パパたちにも意見を聞いてみました。新米ママたちからは「妊活支援」「託児室の完備」「リモートワークの定着化」など。新米パパたちからは、「時短勤務への補助」「父親の育休義務化」「教育費の無償化」など。新米ママからは、復職後の心身共に働きやすい環境、新米パパからは職場の理解や経済的支援、子供をもつことの良さの社会への啓発など、夫婦ともに働くことへのモチベーションが維持されるよう環境改善がポイントであり、国の政策や企業の制度などまだまだ改善の余地はあり、それらがクリアされれば、少子化対策にも希望が持てるのではと思います。
4.新米ママから未来のママへのメッセージ
新米ママたちから、これからママになる後輩たちへのメッセージは、「怒涛の日々もかけがえのない時間」「世界が広がって楽しくなる」「自分1人で抱え込まないで」「自分の子供たちが働きやすい世の中になるよう私たちでできることはやっていこう」「両立は大変だけど、子供は可愛い、子育ても楽しいので頑張って」「自分らしくいられる優先順位をしっかり考えて」など。そこには、「自分へのエール」とも思える、初めての妊娠、出産、育児を経て、不安と闘いながらも逞しく成長した新米ママたちの姿がありました。
新米ママたちにとって、孤立しがちな妊娠、出産、育休期は、不安や喜びの中で、今後の人生についてもあれこれと考え、転職や退職も選択肢として、一度立ち止まり人生を考え直す時間でもあり、非常に貴重な経験と成長の機会であるように思いました。
5.今どきの出産・育児事情をふまえて
これまで2年半にわたって、22人の新米ママたちの妊娠、出産、育児を追いかけてきましたが、彼女たちの貴重な経験と成長の場として、企業や自治体が選択肢に残るためにどうすればいいのでしょうか。
企業は、男女ともに育休を取得する従業員が転職せずに会社に残れるように、積極的に休暇への経済的支援やキャリアアップのための資格取得支援などを実施し、自治体と共に、応援していく環境(制度)を整えていく必要があるのではないでしょうか。
先日、東京都が、年収に関係なく高校の授業料を実質無償化する方針を打ち出しましたが、人口減少社会に、自治体も子育て世帯を誘致するために、様々な支援を提供しています。コロナ禍でのリモートワークが増え、自治体も企業と提携するなど、新たな働き方・住まい方への対応として、職住近接・一体の生活圏の形成に向け環境整備をしていく必要もあるのではないかと思います。
企業だけでなく、地域も含めて、社会全体で育児支援していけるようになれば、子育て世帯も育児期間に限らず、安心して生活できる世の中になるのではないかと思います。
なお、今回の報告は、情報誌「CEL」133号の「未来ブラリ」でもご覧いただけます。過去の「未来ブラリ」も様々なテーマでレポートしていますので、ぜひご覧ください。
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