世界のエネルギー事情 ドイツは、これからどうするの!?
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
こんにちは。エネルギー・文化研究所の前田章雄です。
脱炭素化が叫ばれるなか、世界のエネルギー事情はどうなっているのでしょうか?
環境先進国のイメージが強いドイツをみてみたいと思います。
1.ドイツの再生可能エネルギーの主力は、なに?
ドイツは太陽光発電の導入が進んでおり、環境先進国である。
そのようなイメージが強いのではないでしょうか?
確かに、ドイツは南部地方を中心に太陽光発電の導入を年々伸ばしています。
太陽光パネルの導入容量は2020年の時点で、ドイツは世界4位です。ちなみに、日本は世界3位です。
導入容量を人口で割って一人当たりでみると、ドイツが中国やアメリカを抜いて1位に浮上しますが、2位になる日本とそう大きな違いがあるわけではありません。
じつは、ドイツの再生可能エネルギーで、もっとも導入が進んでいるのが風力発電です。
イギリスの北海やドイツ北部周辺のバルト海は、一年中同じ向きの強い偏西風が吹くため、風力発電に適しています。
オランダやデンマークも風力発電が盛んですが、昔から風車の国でした。ドン・キホーテはスペインの物語ですが、30基以上ある風車を巨人の大軍だと思い込み、風車に突っ込んでいきました。
川が多い日本では動力源として小さな水車が活躍していたように、偏西風が吹くヨーロッパでは風車が多く利用されてきたのですね。
このようにドイツは、北部の風力発電と南部の太陽光発電の導入に注力してきました。
2.ドイツは近年まで石炭大国だった!?
ドイツが再生可能エネルギーの導入に積極的になった理由、それはドイツが石炭大国だったからです。
ドイツは国内で石炭が大量に埋蔵されています。それも、褐炭といって水分が多く低品質な石炭なので、輸出にむかないため国内で消費されてきました。
ドイツの電源構成を詳しくみてみましょう。
まず、原子力発電が減ってきています。ソ連時代のチョルノーブリ(チェルノブイリ)事故を目の当たりにしたドイツ政府は原発削減を進め、さらには東日本大震災を見て原発ゼロ政策に転換したのです。
一方で、石炭発電が全体の半分近くを占めていました。
もちろん、再生可能エネルギーの導入に力を入れてきましたから、石炭の割合も年々減らしています。
ところがある年、天候不順により再エネ発電が減ったために石炭発電が増えてしまって、二酸化炭素の排出が前年より増加するという悪夢のような事態が起こります。
そこで時の首相メルケルは、石炭も30年かけて全廃するという大胆な政策を掲げることにしたのです。
原発もやめる、石炭もやめる。
その削減スピードに再エネ導入が追いつけばよいのですが、過渡期はどうしてもエネルギー不足になってしまう。
そこで出てきたのが、天然ガスです。
3.ドイツのエネルギー政策は昏迷状態?
ドイツは、ロシアから天然ガスをパイプラインで供給を受けています。
バルト海を通ってドイツへ至る海底パイプラインでは、ロシアと直接つながっています。
近年、このノルド・ストリームと呼ばれる海底パイプラインに併設して、ノルド・ストリーム2の敷設工事がおこなわれました。しかし、ロシアのウクライナ侵攻によって、ノルド・ストリーム2が稼働する見込みは完全になくなってしまいます。
さらには、既存のノルド・ストリームで今までロシアから受け入れていた天然ガスも、いつまで供給が可能か未知数な状態です。夏の間に備蓄を増やす目論見もありましたが、ロシアからの供給削減でどうなるかわかりません。
そのためドイツは、ロシア産天然ガスの代わりに液化天然ガス(LNG)を緊急輸入することが急務になりました。しかし、LNGの受け入れ基地は建設に数年かかります。
また、ロシア産の天然ガスは発熱量が低いのですが、もし熱量が高いLNGを輸入することになれば、新たな課題が出てきます。
LNGの緊急輸入対策や再エネ導入のさらなる加速だけでなく、原発の延命利用や石炭削減計画の減速など、なりふり構わぬ対応が求められるようになるのかもしれません。
一方で、そうした対応に産業界が待てなくなってしまった場合、エネルギーを多消費する製造工場が国外へ移転することもありうるでしょう。
理念をもって突き進むことも大事ですが、エネルギーの安定供給にはエネルギー源や供給ルート等の多様性の確保も重要だということを、私たちも学ばなければなりませんね。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。
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