🚲【ゲストコラム】自転車トライアル元世界チャンピオン・有薗啓剛さん#3〜エンターテインメント編〜

オージーケカブトはオートバイ／自転車関連の各方面で活躍するご本人によるレポートやコラムなどを掲載中。今回は自転車トライアル競技の元世界チャンピオンで現在は自転車パフォーマーのかたわら、子供たちのストライダー教室やMTBの普及活動などを行う有薗啓剛さんに執筆いただきます。

（#1〜自己紹介編〜はこちら）

📺メディア出演で芽生えた“想い”

　前回#2は選手活動の話を書きましたが、大学時代は選手以外の活動が増えました。その中の一つとしてメディア出演の仕事をいただく機会が増え、そのほとんどが東京での撮影だったので毎月のように関西⇄関東を往復する生活を送っていました。
　情報の多くはマスメディア（新聞／テレビ／ラジオ）や雑誌(本)で得ていたので、当時テレビはその頂点的存在。そんな中、ゴールデンタイムの某テレビ番組に出演したことで注目されるようになりました。番組内のチャレンジ企画で、いくつかの難関セクションを全てクリアすると賞金がもらえるというザ･昭和な内容ですが、老若男女みんながドキドキしながら見てくれていたのではないかと思います。視聴率もよくて数年にわたり何度か出演機会をいただくことに。放送後は自分のホームページ閲覧数が大幅に伸び、さらにはいろんなところから出演依頼をいただくようにもなって、多くのチャンスに結びつきました。

　さまざまな番組への出演は、異業種の人たちとの出会いとなり自転車競技しかやってきていない私としては、とても新鮮で刺激的な経験となりました。そんな大学生活を送る中で、自分のやっているトライアル競技をはじめ「自転車」のいろんな魅力を、もっと多くの人に知ってもらいたい！という想いが芽生えたのです。

🚴プロの自転車ライダーになる！

　大学生活を終えた私は拠点を東京に移し「自転車のプロライダー」として生計を立てることを決め、選手活動を継続しつつメディアにも積極的に出演して自転車の魅力を露出することに注力しました。
そんなある日、メディア関係者から舞台オーディションのお誘いをいただいたのです。競技一筋だった自分に突然舞い降りた「舞台」という新たなフィールド。自転車の魅力を伝えるには絶好のチャンスと捉えました。
　この舞台が人気テレビ番組から派生した「マッスルミュージカル」でした。「筋肉で音を奏でる」がコンセプトで、さまざまなジャンル、カテゴリーのアスリートが集結し、個々の身体能力を活かしたパフォーマンスで魅せる、当時国内では稀なスポーツエンターテイメント。しかもオーディション風景や稽古の様子など、舞台の進捗を毎週ゴールデン番組で放送し、つまり告知から本番まですべてがエンターテインメントという、当時プロセスをも見せるパターンのハシリだったと思います。

国内の一流アスリートで造りあげた舞台「マッスルミュージカル」

　こうして“舞台人”としての有薗啓剛がスタートしたわけですが、競技についてはあくまでも「休業」という形をとるつもりでした。しかし舞台は日本全国どころか海外でも興行があり、スケジュールのほとんどが舞台中心となっていきます。

　ところが、私はバイクのスペシャリストとして参加したにもかかわらず、バイクに乗る時間がない！というまさかの事態が待っていました。舞台特有の専門用語が飛び交い、例えば「群舞」ほか多くの演目にも出演しなければいけなくて、その稽古がとにかく苦痛MAX。というのもじつは私、リズム感が皆無。正直、稽古開始二日目で「辞めよう」と思ったのは事実です😅舞台内容は超絶ハードなものから軽いジョークの効いたものまで、稽古が進むにつれ立ち位置なども割り当てられましたが、リズムに乗り切れない私は最後尾列の端っこ、一番目立たない袖幕に半分隠れるようなポジション😅
　結果としてトライアル競技に戻ることもできなかったので、いま考えるとよく辞めずに耐えたなと思います。
　そこには「自転車の魅力をいろんな人に伝える」という使命のようなものを感じていたからこそだと思います。

舞台上では軽々やってのける、転倒しない前提でヘルメットなしで演じました😅

🕺🏼感覚派の相棒、現る

　そんなリズム音痴な私でしたが、舞台では自転車のスペシャリストとして個人演目を任されました。
　演目「バイク」は、劇場内が私１人vs 観客1000人以上の状況。この感覚は競技とはまた違ったもので、自分自身に集中し楽しむ感覚の「選手」として、観客もシリアスな感じに対して舞台では「演者」であり、観てる側を楽しませることに集中する感覚…?うまく表現できませんが、乗ってて感じる空気感がまったく違うんです。舞台では技術を大きく見せ、観客もそれに応えるように拍手やどよめき、時には笑いが起きます。舞台袖でスタンバイしている間は超ド緊張でしたが、舞台に上がってしまえば自分の世界感をもって演じることができるのです。この感覚が、回を重ねるごとに快感へと変わっていきましたね。

客席を利用したパフォーマンスで盛り上げました

　作品は年間４作品。四季に合わせて新作を仕上げていました。舞台では同じ作品をロングラン公演するのが普通ですが、テレビから派生した舞台ということもあって、本公演を行いながら次回作の新たな演目の計画が立てられ、プロデューサーや演出家、大道具さんや照明さんと打ち合わせをおこない、試作セットで試しては修正・改良を積み重ね、次の演目を作っていました。新しい舞台をテンポ良く展開していく様が、まさにテレビっぽかったですね。

舞台はどんどん進化していきました

　そして作品が新しくなるにつれ、当たり前のように進化が求められます。ごまかしが効かないライブ空間。難度はどんどんエスカレートしていきます。正直、危険を感じることは何度もありましたし、メンタルをやられることもありましたが、そんな日々に変革をもたらすオトコが出現するのです。　それが現在活動を共にしている守上大輔です。彼はマッスルミュージカル3年目になる頃、オーディションを通過して入ってきました。

右が守上大輔

彼の持ち味はとにかく感覚派。考えるより勢いで乗り越えるタイプです。
私とは真逆のタイプで、一緒にいると真面目に考えることがバカらしくなって、とにかく楽しくなってくるのです。４m以上の高所から飛び降りたり、自転車で宙返りをしたり、球体に乗り玉転がしをしたり、毎公演さまざまなことにチャレンジしました。
いつしか二人で個人演目「バイク」を任され、いろんな意味で負担が半分になり、競技からは離れましたが、まさに毎回一緒にチャレンジ、「トライアル」してる感覚を呼び覚ましてくれて、思い切り楽しめるようになっていました。
そんなマッスルミュージカルは、2004年から2008年まで出演させていただきましたが、私自身はさらに次のステージへ進むことになるわけです。

🤡世界一のサーカス集団に参加！

　私の次のステージとなったのは「シルク・ドゥ・ソレイユ」です。せっかくなのでその舞台裏（まさに！）をお伝えします。

“世界一のサーカス集団”がラスベガスでロングラン公演しているレジデントショーや、日本にやってくるツアーショーを観て、シルク独特の世界観には当時非常に魅力を感じていました。私が出演依頼をいただいたのはニューヨーク公演“Wintuk”という作品。実際にアーティストとして参加してみると、そこには世界中の国籍も文化も違うアーティストたちの「働きやすい環境」がしっかり用意されていました。

貴重な体験ができました

　フィジカル、メンタル、ケータリング、ヘルスケアなど心身ともにベストな状態で仕事に望むための基本的なこと、たとえば住居や家族との生活、子供の教育面まで、ありとあらゆることが手厚くサポートされていました。舞台のことで言うと、舞台装置などハード面の充実はもとより、スタッフの数と役割、すべてが細部にいたるまで徹底されていて、大道具、小道具、衣装、メイク、オーケストラ…、規模感といいオペレーションといい、さすがエンターテインメントの世界最高峰として圧倒的なものを感じました。

アーティスト仲間と

　公演にあたり、稽古は本拠地であるカナダ・モントリオールの本社でおこない、あらかたの完成形が作られて本番10日前にニューヨーク入り、本番同様のリハーサルを行いました。

“Wintuk”では警官役で犯人役を追い詰めるという演技を

　会場はNBAの聖地でもあるマディソン・スクエア・ガーデン。あのマドンナやマイケルジャクソンなど数多くのアーティストのライブがおこなわれた会場としても知られています。
　参加中にアメリカを感じたことで言えば、シルクはよくVIPを招待します。
期間中には大統領やハリウッドスター、メジャーリーガーやNBA選手など誰もが知るゲストが招待され観劇していました。
　私は“Wintuk”の中で泥棒を追い詰めるバイクに乗る警官役を務めました。

ディスプレイパネルにも！

　とにかく、仕事場がニューヨークなんて夢のような話！ マンハッタンの高層階に住まいを用意してくれて、通勤はメトロやタクシー、休日はセントラルパークでのんびりすることもあれば、橋を渡ってニュージャージーやブルックリンを探索したり、アートに触れてみたり、、、とにかくNY生活を満喫。そんな生活を3年間過ごしました。

パフォーマーとしてニューヨークで3年間過ごしました

そして選手時代に思い描いていた「自転車教育」の普及… これこそが次のステージであり現在の活動の中心となります。
次回は、感覚派の相棒・守上大輔とともに行っている現在の活動を中心に書かせていただきます。