🚲【ゲストコラム】ギネス記録の超ロングライダー・落合佑介さん「アメリカ西海岸1500㎞レースへの挑戦」～走行編（後編）～（最終回）

2022年12月8日 18:57

オージーケーカブト公式noteです。
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いまKabutoが応援する、各シーンで頑張っている「人」を通じ、その方が関わる世界をより深く知っていただきたく、ご本人によるレポートやコラムなどを掲載しています。

今回は、自転車での日本縦断最速ギネス記録を保持し、世界の長距離イベントへ挑戦する落合佑介（おちあい・ゆうすけ）さんに執筆いただきます。（全4回を予定）

（▼第１回自己紹介編）

（▼第2回準備編）

（▼第3回走行編～前編～）

第４回は、アメリカ西海岸1,500kmのレース「Race Across the West」の走行編（後編）です！

2022年6月に開催された、Race Across the West（以下、Race Across the West）というアメリカ西海岸1,500㎞のレースに出場しました。そして、2023年6月に開催されるアメリカ大陸横断5,000㎞を走るRace Across AMerica(以下、RAAM)の出場、表彰台を目指して日々練習しています。RAW、RAAMについては第1回の自己紹介編に簡単に紹介していますので、ご覧いただければと思います。

今回は、実走編後半ということで、アメリカ西海岸1,500㎞のレースをどのように走ったのかについてお伝えしていきます。

🚴スタート～序盤

アメリカ西海岸1,500km、RAWのスタート前、レースの展開について私は世界的に豪華なライダーが出場しているということもあり気後れしてしまい、最下位から徐々に順位を上げていくつもりだと公言していました。

1分間隔にスタートする方式だったため、走り出してからも多くのライダーが視界に入る中で、異次元的な速さで私を抜いていったライダーが2人いました。今回優勝したスロベニアのマルコ選手とブラジルのファビオ選手です。
抜かれたときのスピードの速さから、この2人に勝つことは困難、1,500kmも維持できるスピードではないと感じました。それでも、私は休憩時間が少ないため、他の選手が休んでいる間に抜いて、走行している間に抜かれる、ということを繰り返していました。

時間が経過するにつれて、疲労のために休憩時間が長くなりますが、その間走り続ける私は徐々に順位を上げて２日目に入った頃には総合３位まで上がっていました。
ほとんどの場合、休憩中の選手を抜いていくので順位の入れ替わりはわかりづらいのですが、クルーから発信される情報を共有し、状況の把握はできていました。
順位が変動したからといって走り方変えることなく、私のスタイルを貫いて走り続けます。

🎶束の間の休息日

2日目は前後のライダーとの距離差が2、3時間に広がり、視界に入ることさえなくなりました。

レースであるにも関わらず、かなり気を緩めてリラックスして走ることができ、緩めすぎて街並みを楽しみすぎてしまい、コースミスをしてしまいました。幸いにもクルーがすぐに声をかけ、ミスをした距離は10ｍほどですみました。
今度は、あまりにも単調な道が続きすぎて時間を持て余し、クルーと遊びだします。サポートカーには拡声器が付いているのですが、ラジオDJ役をお願いして、砂漠のど真ん中で日本のラジオ風に話しかけてもらい、BGMまで流してもらいます。

クルーはクルーでボトル受け渡しの合間にコント番組さながらにYouTubeLIVEを流していたようで、レース中とは思えない雰囲気で盛り上がっていたようです。来年のRAAMはゴールまで10日間ほどありますので、このようにしてクルーやライダーの雰囲気を良好に保つこともチームとして大切なことなのです。

🌙深夜の追走！直ぐに終了……

3日目に入った深夜、850㎞を越えた山岳地帯で前方にサポートカーが見えてきました。サポートカーを複数使用しているチームもいましたので、気にかけてはいなかったのですが、サポートカーの前にライダーがいることがわかりました。総合２位のファビオ選手を視界に捉える距離まできたのです。“ラジオDJ”が車中でお休みだったため、情報が共有できていなかったのです。

ファビオ選手は私とはまったく異なるスタイルで、休憩を長く取りつつ、走る際には爆発的な速度でここまで走っていました。そんな彼が、1時間半の休憩を終えて、走りだしたときに追いついたのです。そこは登りでしたので、体格の良いファビオ選手よりも体重の軽い私の方が有利なのですが、射程圏内になってから、すぐに頂上を越えて下り始めたため、その距離は一気に広がり、見えなくなってしまいました。

その下りの途中で、今回2回目のコース変更地点に到着しました。下りの速いファビオ選手の姿はありませんが、すぐさま車に乗り込みます。
通過予定とされていたフラッグスタッフという町の先で山火事が起こり、通行止めになってしまったための迂回。90㎞先まで車で移動し、本来のコースとはまったく別の場所から走り出すことになっていたのです。

迂回路が90㎞もあるという経験したことのない大移動でしたが、１時間ほど移動に時間がかかるため、睡眠を取れたのはラッキーでした。この間は車の制限速度もあり、追い越すことはルール上不可能。私は休憩ができるといううれしい反面、本来は必要としていなかった休憩であったため、「他の選手も1時間休憩できてしまうのか……」と、少し複雑な気持ちでした。

🥈総合2位が🥉総合３位を追走？？？

到着したのは、田舎町の郊外。
真夜中で街灯もなく、車のヘッドライトに照らされて、アスファルトの一直線の道と、周囲は砂漠という場所で降ろされました。睡眠明けだったので方向感覚もわからずスタートをしますが、見えるのはどこまでも続く道と砂漠のみ。

こういう風景に憧れてアメリカを横断する人たちがいるだろうなと思う一方、眠りから目覚めたばかりの私の頭のなかでは、アクション映画の人質が覆面をされて連れていかれ、突如砂漠の真ん中に降ろされ、窮地に立たされている主人公か、はたまた敵役か！？というありえない展開という認識です。幸いにも車と食料と水はあり、遭難することはなく、命の保証があるのでマシだったと思います。

再スタートを切ると総合２位に上がっていると聞かされました。ファビオ選手はこの迂回路の情報を取得できていなかったのか、従来コースを途中まで走るというミスをしていたのです。

ところがその後、コースに復帰し、ミスを取り戻すかのような爆発的な速度で追いかけてきた彼に追い越され、3位に後退してしまいました。そうかと思いきや今度はお昼休みを1時間半取っていた彼を再び追い抜くことに。彼との２位争いはさらに続き、今度はちょうど日が暮れた田舎町で、私がトイレ休憩を取っている間に、再び抜かれてしまいました。この頃には1,200㎞を走り切り、残りは300kｍほどだったのですが抜きつ抜かれつを繰り返したことで、落ち着かない心境になっていました。

💤早く楽になりたい

総合2位、Under50カテゴリー優勝としてゴールするのか、それとも負けてゴールするのか。どちらもゴールして解放されて楽にはなれるのですが、来年のRAAM出場を考えると、その結果の違いは想像以上に大きいのではないか―――。
クルー達と「ゴールは秒差になるかもね」と冗談交じりに話していましたが、本当にそうなれば、プレッシャーで押しつぶされるだろうなとも思いました。

加えて、RAWはタイムトライアルであり、私がファビオ選手より4分先にスタートしているため、先行するだけでは勝てない。勝利を確実にするためには、ロングスプリントも覚悟しなければならない。とはいうものの、すでに1,200km走った後では、体力的にも身を削るような走りは厳しい。いろいろな気持ちが入り乱れます。

💥勝負をかける！

そしていよいよ“事件”が起こります。頭のなかでぐるぐると考えながら、いつも通りに走っていたのですが、なぜか追いついてしまったのです。追いついたのだから、そのまま追い抜こうと横に並んだ時でした。それまでは追い抜く時に、こちらに笑顔を向けるクールガイだったファビオ選手が、スプリントするかの如く、勢いを付けて走り去ったのです。

これはどういうことを意味しているのか―――。

レース経験の少ない私の中で一生懸命考えて、至った結論は「何がどうあれこれは勝ち負けのかかったレースだ。もう勝負するしかない！」ということでした。いろいろな気持ちは一気に吹き飛び、熱くなるなか、クルーが私を落ち着けさせ、走りながらの作戦会議に移ります。

これまでの走りを見ていても、ファビオ選手の平地での走行速度は早く、明らかな差がありました。さらに相手はRAWにもRAAMにも出場し、ゴールしているベテランレーサーです。
でもいま私がいるのは山岳地帯。この上り区間では、すでに1回追い付きました。
ゴールまでの130㎞は、約100kｍの区間でダラダラと1,000ｍ登り、残り30㎞を600m下るというコースレイアウトでした。作戦会議で自分が置かれている状況を確認したことで、心境もコースレイアウトも私の方が有利に立っている可能性が十分にあると考え、勝負を仕掛けることにしました。

勝負を決めたことで気合も入り、1時間後に再び追いつきました。今度は私がスプリントするかの如く勢いを付けて追い抜き、そのまま離しにかかります。しかし、思うように差が開かずに追走されます。ドラフティング効果は受けてはならないため、一定の差はありますが数秒差のようでした。その差がじわじわ広がっているとは聞くものの、後ろを振り返ってもサポートカーのヘッドライトで何も見えず、目視はできません。クルーの言葉を信じて進むしかありません。

行く手を邪魔するかのように、突風が吹き荒れます。ひたすら頑張ってペダルを踏んでちょっとは差がついたと期待を込めてクルーに時間差を聞くのですが、いつまで経っても、同じタイム差が読み上げられ、膠着状態が続きます。それでも何とか山頂では14分ほどに差は広がりました。そしてゴールのデュランゴに向けて残り30㎞を安全に、少し急いで下ります。

ようやく1,500kmを走り終え、Under50優勝、総合2位でゴール。歓喜の瞬間は朝4時であったため、現地での声援はありませんでしたが、日本では夜の７時頃であったため、オンラインで繋がっていた日本の視聴者と、その喜びを共有することができました。現地応援はとてもハードルが高いですが、SNSを通じて走行中もゴール後も応援コメントをたくさんくださり、とてもうれしかったです。

一方で、スタート直後に、ファビオ選手の速く力強い走りに、「この人には負けるだろうな」と勝手に予想していた自分を後悔しました。勝負を仕掛けてくれたファビオ選手には、RAAMに向けて貴重な経験をさせてくれて、感謝の思いでいっぱいです。

🛫2023年RAAMに挑戦

最後に、今後の挑戦についてです。私が目指しているのは世界最高峰の過酷なレース、RAAMです。

今回のRAW1,500kmは、私が目指しているRAAMの5,000㎞のレースと比べると距離は短いです。

しかし、大半が砂漠地帯であるアメリカ西部を走り切ったことは、砂漠走行経験のない私には、貴重な経験になりました。
来年の6月までトレーニングを重ね、日本人男性部門で初の表彰台を目指したいと思っています。皆様、応援どうぞよろしくお願いいたします。

落合佑介

🚴使用機材

バイク：Code 3 Cr-mo x carbon（macchi cycles）、DEROSA SCANDIUM
ステム：Redshift ショックストップステム（Alternative Bicycles）
ホイール、ハブ：GOKISOワイドフランジハブ、クライマーハブ、GD2 50mmハイトクリンチャー（株式会社近藤機械製作所）
サドル：インフィニティーシートE3（Alternative Bicycles）
タイヤ：ASPITE PRO（アイ・アール・シー井上ゴム工業株式会社）
バーテープ：CICLOVATIONバーテープ（ACTION SPORTS）
サイクルコンピューター：TYPE-S、パワーマウント（LEOMO, Inc.）
ライト：VOLT800、GVOLT70、TIGHT（株式会社キャットアイ）
ヘルメット：IZANAGI（株式会社オージーケーカブト）
アイウェア：301DPH（株式会社オージーケーカブト）
ウェア：クールメッシュジャージ、PROパフォーマンスジャージ、スタンダードビブパンツ、ウィンドベスト、レインウェア半袖（サンボルト株式会社）
ソックス：ZEROFIT SOCKS（株式会社日直商会）
シューズ：SIDI ERGO 5 MATT

潤滑剤：チェーンルブリキッド（エクストリーム、パワー、ラスペネ）（株式会社和光ケミカル）
スキンケア：プロテクトJ1（株式会社アースブルー）、Aggressive Design（株式会社和光ケミカル）
サコッシュ：grupettoサコッシュ（grupetto）
飛行機移動：Qbicleバイクポーター（ACTION SPORTS）
サプリメント類：リカバリープロテイン、グランフォンドウォーター（ACTIVIKE）BOOST SHOT（株式会社ZYTECO SPORTS）
衛生関連：BOOST Nano AG（株式会社ZYTECO SPORTS）
ツールケース：R250 ツールケーススリムロングタイプ（有限会社ワールドサイクル）

おわり

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