🚲【ゲストコラム】ギネス記録の超ロングライダー・落合佑介さん（第3回）「アメリカ西海岸1500㎞レースへの挑戦」～走行編（前編）～

2022年11月25日 18:57

オージーケーカブト公式noteです。
オートバイ用／自転車用ヘルメットのメーカーとして、各ジャンルのライダー、アスリート、個人やチームをサポートしています。
いま各シーンで頑張っている「人」を通じて、それぞれをより深く知っていただきたく、ご本人によるレポートやコラムなどを掲載しています。
今回は、自転車による日本縦断の最速ギネス記録を保持し、世界の長距離イベントへ挑戦する落合佑介（おちあい・ゆうすけ）さんに執筆いただきます。（全4回を予定）

（▼第１回自己紹介編）

（▼第2回準備編）

第３回は、いよいよ1,500kmレース「Race Across the West」の走行編です！

オージーケーカブトnoteをご覧の皆さんこんにちは。
2022年6月に開催された、アメリカ西海岸を走るRace Across the West（以下、RAW）という1,500㎞のレースに出場してきました。
そして現在は2023年6月に開催されるアメリカ大陸横断レース=5,000㎞を走るRace Across America(以下、RAAM)の出場、表彰台を目指して日々練習しています。
（RAW、RAAMについては、第1回の自己紹介編に簡単に紹介していますので、ご覧いただければと思います）

　今回は走行編ということで1,500㎞のレースをどのように走ったのかについて、主に作戦面、苦労した点を交えてお伝えしていきます。

🚴チームの作戦はライダーのために

まず、前提としてRAAM（=5,000km）もRAW（＝1,500km）もタイムトライアルレースです。
1日15分のライダー同士の協力時間を除き、単独で走らなければなりません。ロードレースのように集団で走ったり、サポートカーの後ろに付いて走ったりするドラフティングは利用してはいけません。

また、ロードレースがスタートしたら止まらないのと同じように、このレースもひとたびスタートしたら止まりません。
オーガナイザー（主催者）から止まれと指示されるのは、ルール違反を侵したとき、コース上に障害が生じて、コースなどが変更されるときです。それ以外は走り続けることができます。

しかし、全く止まらず1,500ｋｍを走れる人がいるかと言えば、私の知る限りいません。今回はサポートカーが1台のみで、ライダーへのサポート、買い出し、給油、トイレ、バイク交換などの対応をする必要があり、その間は休むことができました。

このようなレースにおいては、走行中だけでなく、休憩を含めたレース開始前からゴールまでのマネジメントが必要になります。といってもゴールスプリントをするような1秒単位の争いになることはほぼありません。

過去RAAMで最も早い記録を持つクリストフ・ストラッサー選手のゴールタイムは2014年に記録した7日15時間56分。（2014年のルートは4860km）
大会が設定しているゴールの制限時間までは4日以上もあり、その差は105時間にもなります。
それでも、前後の選手との時間差を確認しながらタイムマネジメントをするため、GPSによるライブトラッキングシステムを利用して、相手の位置情報を確認しつつ、レースを進めていく必要もあります。

📝作戦は「できるかぎりとまらない」

私のチームマネジメントでは、ライダーができる限り止まらずに走る、ということが作戦に挙げられました。なぜなら私は、スピードは決して速くないのですが、少ない休憩時間で長く走り続けることができるという能力を持ち合わせているからです。

ライダーの能力は選手によって様々で、休憩時間を長くして、時速30㎞以上で何日も進み続けるようなライダーもいますが、その走りでは私の巡航スピードが遅くて対抗できません。ですので、RAAMやRAWなどの超長距離を走るレースは、私の能力に対する理解と、それに応じたサポート体制に加えて、レースが始まる前から休憩を含むゴールまでのマネジメントをする総合力が問われる競技なのです。

ちなみに今回の停車時間は、主に股ズレ防止のお尻のケアとトイレ休憩がほとんどでした。食事は時間節約のために走行中に手渡されていました。睡眠時間については、マネジメントが必須で途中で短い睡眠を取るようにしています。これは、記録を狙う走り方であり、決して一般的ではありませんので、真似するような走り方ではありません。結果を見ますと、他のライダーと比べると極端に休憩も睡眠も少なかったです。
ゴールまでの63時間のうち1時間15分が停車した時間で、実に98%は走っていたことになりました。

🌎RAWに出走した世界の逸材ライダーたち

アメリカ西海岸1,500kmレースRAW、私のスタートは、6月14日12時22分。
1分おきにライダーがスタートしていく方式で、初参加のルーキーとしては最後の出走となりました。

私の後ろにはこのRAWや大陸横断RAAMを何度も完走しているベテラン勢が待ち構えていました。ウルトラロング※を走る世界の中では豪華なメンバーで、ブルベの最高峰パリ･ブレスト･パリの優勝者、RAAM総合優勝者、各国のウルトラロングの大会での優勝者、ウルトラロングのコーチといったそうそうたる顔ぶれ。豪華なメンバーの中に混ざって世界的にあまり実績のない私が挑戦することになりましたので、プレッシャーを感じることもなく、スタート会場のお祭りのような雰囲気を楽しむことができました。

※「ウルトラロング」に定義はありませんが、個人的には2,000km以上の距離を走る「ジャパニーズオデッセイ」へ参加するようになってから意識するようになりました。ブルベ出身者としては、パリ･ブレスト･パリの1200kmを越える距離を提供するLes Randonneur Mondiaux（通称RM）をイメージする場合もあります。

🌵砂漠、砂漠、砂漠・・・

レースを完走できるか否かのポイントとなるのは、コースの大半を占める砂漠地帯の気候です。スタートから140㎞を過ぎ、標高1,200ｍから一気に下ると、砂漠の町を通過します。
そのあとは、日本でいえば北海道にあるような果てしなく続く１本道のアップダウンが延々繰り返すようなコースです（ただし、ずっと砂漠）。

アメリカの道は果てしなかったのですが、想像していたよりも真っ直ぐではありませんでした。
地図上では真っ直ぐな直線でしたが、1％にも満たない勾配と、少しだけ左右に曲がった（ハンドルは全く切らない）道が続いていました。ペダルを漕ぎ続けても同じ道が続きますが、横から大きなコンボイが通り過ぎるので、集中力は切らさず走り続けられました。

そして、手ごわいのは何といっても砂漠の気温です。日中は40℃を超える中を走行しなければならず、熱中症対策として頭や肩から水を掛けました。朝方には、１時間の間でも気温が日陰では10℃近くまでさがり、日向の登りでは18℃まで上がるという気温差の中、アップダウンを繰り返し進み続けなければなりませんでした。今回の寒暖差は例年に比べて少ない方だと聞かされましたが、寒さと暑さが数分毎に目まぐるしく変わるため、体調が悪くなりそうでした。。。

🍞失敗した補給食…パンが好きなのにパンを受け付けない…

酷暑の中を走り続けるため、段々と食欲がなくなり水分を好むようになります。
2021年10月に実施した日本縦断では、大好きなパン屋巡りをクルーにお願いしていましたので、今回もパンを中心としたサンドウィッチを補給食としていました。

しかし買っていたのはパサパサなパンで、アルミホイルが日本で使っているものよりも分厚く、唇を切りそうなくらいでした。途中で変更することも難しく、アメリカの田舎町で止まる時間もないので、結果として食欲を失っていました。また日本のスーパーマーケットよりも種類が豊富で、どれにするか迷って見た目で決めてしまったことがよくありませんでした。
後半は水分系のカットフルーツにしたため、美味しく食べられました。
一方、消費カロリーが多いとされている自転車競技であるため、カットフルーツだけではカロリー摂取には限界があり、かなり不利な状況に陥っていました。

私の場合、走り続けるためには“美味しものを楽しく食べる”ことが重要なので…日本のパン屋さんがアメリカの砂漠の町ごとにもあればもっと早く走れるのに、と強く感じました。
他人任せにはできませんので、パンに変わる補給食として、我が食卓にはアメリカで一般的なトルティーヤやブリトーが並ぶことになり、既に来年のRAAM対策がされています。

ということで今回はアメリカ西海岸を走るRAWの走行前半部分の様子や、苦労した点を中心にご紹介いたしました。
次回からはRAWのレースの振り返りと、思いもよらなかった順位争いを中心お届けいたします。

🚴ーDATAー＜使用機材＞ー

バイク：Code 3 Cr-mo x carbon（macchi cycles）、DEROSA SCANDIUM
ステム：Redshift ショックストップステム（Alternative Bicycles）
ホイール／ハブ：GOKISOワイドフランジハブ、クライマーハブ、GD2 50mmハイトクリンチャー（近藤機械製作所）
サドル：インフィニティーシートE3（Alternative Bicycles）
タイヤ：ASPITE PRO（IRC 井上ゴム工業）
バーテープ：CICLOVATIONバーテープ（ACTION SPORTS）
サイクルコンピューター：TYPE-S、パワーマウント（LEOMO, Inc.）
ライト：VOLT800、GVOLT70、TIGHT（キャットアイ）
ウェア：クールメッシュジャージ、PROパフォーマンスジャージ、スタンダードビブパンツ、ウィンドベスト、レインウェア半袖（サンボルト）
ソックス：ZEROFIT SOCKS（日直商会）
シューズ：SIDI ERGO 5 MATT
ヘルメット：Kabuto IZANAGI（オージーケーカブト）
アイウェア：Kabuto 301DPH（オージーケーカブト）

潤滑剤：チェーンルブリキッド（エクストリーム、パワー、ラスペネ）（和光ケミカル）
スキンケア：プロテクトJ1（アースブルー）、Aggressive Design（和光ケミカル）
サコッシュ：grupettoサコッシュ（grupetto）
飛行機移動：Qbicleバイクポーター（ACTION SPORTS）
サプリメント類：リカバリープロテイン、グランフォンドウォーター（ACTIVIKE）BOOST SHOT（ZYTECO SPORTS）
衛生関連：BOOST Nano AG（ZYTECO SPORTS）
ツールケース：R250 ツールケーススリムロングタイプ（ワールドサイクル）

次回へ続く　

（▼第4回走行編～後編～）

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