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キッチンに「ハーブの苗」を置いたら思い出したこと
ベルリンで暮らし始めた直後、驚いたことがある。大きなチェーンのスーパーの一角に、光で植物が育てられているガラスでつくられた部屋?ボックス?のようなものがあった。
ちゃんとみてみると、店内で野菜を栽培しているようだった。その横にはミントや、バジル、タイム、ローズマリーなどのハーブが土に植えられた苗の状態で売られていた。
気になって調べてみると、スーパーで見つけた部屋は室内で野菜を育てられる”未来の農園”で、Infarmというベルリンのスタートアップが開発したもののようだ。
室内で農薬ゼロの野菜を年中育てられる照明つきのコンテナ。大手スーパーマーケットチェーンには必ず置いてあるのを見かける。
参考:これからはスーパーで買いたい野菜を収穫するようになるかもしれない――Infarmの垂直農業システムhttps://jp.techcrunch.com/2017/06/28/20170626infarm/
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https://www.edeka.de/eh/minden-hannover/edeka-center-specht-potsdamer-str.-60/infarm.jsp
しばらく生活していると、この大手チェーンのスーパーだけではなく、どこのスーパーでもハーブなどの苗は売られていて、定番商品となっているようだった。
ある日、買っていこうか、どうしようかと売り場の前で5秒くらい考えた。
「家で育てるとなるとちゃんと世話しないとだから… そもそもハーブの育て方わからないから、今日はやめておこう。」と苗木のハーブに後ろ髪はひかれつつ、その場をあとにした。
後日、「ただいま!」とめずらしくキラッキラな笑顔で帰宅したパートナーの手には、バジルの苗木が。私の心配をよそに、「家で収穫したての野菜やハーブをつかって料理したい!」とご機嫌の様子だった。
その後育て方を調べ、生きのいいバジルはわが家の一員となった。
「ドイツの人は家庭菜園が好き」という話は植物に詳しい知人から聞いたことがあった。スーパーマーケットで苗が売られていた光景を目にした時に、身近な場所で苗が手に入るのものも理由の一つなのかもしれないと感じた。
実はあの後もパートナーは事あるごとに、苗を買ってきて、今は「バジル」「ローズマリー」「ミント」と着実に増えて行っている。「ローズマリー」は調味料として販売されている乾燥させたものもあるので使い比べてみると、摘みたてのローズマリーは香りの濃さに驚いた。
純粋に”おいしい”というのも、ハーブの苗が支持されてる理由の一つなのかとも感じた。
植物が身近に感じられるという点では、他には大きな自然公園がまちの中心街にもあったり、花を入手するハードルが低いのも印象的だった。
大きな教会の近くでは、毎週決まった曜日にファーマーズマーケットが出店されることが多い。野菜・フルーツ・チーズ・パンといった食品と一緒に、花屋もあることがほとんどである。
以前パートナーにマーケットで花を買ってきてと依頼したところ、両手いっぱいに花束を抱えて帰ってきた。日本で買うと2000円くらいしそうな花束の大きさだったと思う。正直、1〜2輪くらいの花を想定していたので、「なんでそんなにたくさんの花を…!」と少し口論になった。話を聞くと「何€分ほしい?」と聞かれたので、適当に「5€!」と答えたら、この大きさになったらしい。
お花が安価で手に入って、家の中で飾るということのハードルが低いことも植物との距離が縮まる要因だと感じた。
ベルリンに来てから、自然や環境に対しての興味・関心がとても高くなった。単純に自然が多い、というというのも考えられるが、植物が身近にあったり、人間以外の動物をたくさん見かけるのも要因の一つだと思う。
私はベッドタウン育ちで、あまり自然と多く関わっていないと思っていた。むしろ虫がこの世の中で一番苦手なので、自分から自然の中に入ることも躊躇していたくらいだった。部屋に植物を置いたことは一度もなかった。
だけど、その考えがそもそも違っていて、人は自然と切り離されて暮らすことは不可能だという、当たり前のことがどこかで抜け落ちていた。私たちの暮らしもまた自然活動の中の一つなんだということを。
コンクリに囲まれた生活の中で、自然との距離が遠くなってしまっていたことにベルリンにきてから気付かされた。
コンクリートに囲まれた生活だったり、自分のことや人間だけのことを考えて生きていると、人間も生物だという当たり前のことを忘れそうになってしまうときがある。
植物と暮らすということは、そんな当たり前のことを思い出させてくれるようなきがする。自然との距離感を忘れないためにも、植物をこれからも育てていきたいなと思った。