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宵闇亭キ片 「簪」

詛い詛いて取り殺さん

怨み恨みて母娘二代

この簪は禍除けだと言うたな

禍が近寄ると鈴が鳴る

鈴の清浄なる音は禍を祓うと

嗤わせよる

禍は牙を生やして来はせぬ

角も生えておらねば

赤ら顔の大男でもない

禍は人の態をして来る

ごく普通のなよとした色男

そう、正しく其方のようにな

今迄に何人の女を潰した

甘い囁き

聖なる簪

巧みな手管

惚れさせ

依存させ

貢がせ

そして潰す

飽きた女は憐れ土左衛門

一方其方は名を変え顔を変え

岡を変えて別の女に寄生する

どれ程続けておる

五年、十年――まさか

百年言われて驚かぬ

呵呵

其方のその様な表情が見られるとはな

甲斐もあろうと云うものよ

何、一目見て分かったとも

たった一人の肉親であろう

なあ、親父殿

ふふ、其方、楽には終わらせぬ

楽には、死なさぬよ

アチキ一人ではないぞ

母様も、ほれ、そこに

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毬藻さん怪画「簪」

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紅椿:遊女
男:百の貌と名を持つ禍人


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