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連載 山毛欅になった人#6

子供を連れて初めてのキノコ採り

 源流のイワナ釣りシーズンは実質5月から9月まで残りは禁漁期間になる。そんなオフシーズンは子供を連れて山登りや野遊びをしていた。
 ある時、川上さんからキノコ教室に誘われた。キノコを採りながら食毒の判別を教えてくれると言う。「家族同伴でも良いぞ!」と言われたので息子と一緒に参加する事にした。

気楽に遊ぶ隊長たち

 朝の4時、息子のお尻をつま先で揺さぶり起床を促す。今朝は普段の不機嫌さが微塵も無く起き上がる。毎度の事だが遊びの朝は普段と違い寝起きが良い。息子をクルマに乗せて近くに住む清水を迎えに行き合流、一路みんなとの待ち合わせ場所へ向かう。息子が半ばドライブに飽きた頃に到着し他のメンバーと合流。人見知りの息子はひとりベンチに座り遠目で一同の品定めをしている。川上さんの前のテーブルには既にサワーとビールの空き缶。こちらもご機嫌な朝をお迎えのご様子だ。
 4台に分乗した一同は目的地に向かう。初めてのキノコ採りに期待と不安が交差する。目的地には案内役の地元の山田さんと日帰り予定の斉藤さんが先着していた。山田さんは川上さんの友人で斎藤さんは渓父のクラブのエースだ。一通り挨拶を済ませて山へと入るのだが、うちと同様に高野さんも子供たちを連れているので我々は別メニューでキノコ採りに向かう事にした。山田さんに附近の情報を教えて頂き、ド素人たちはモノは試しと山に入る事にした。
 息子を隊長に高野さんの娘2人を副隊長・副々隊長にそれぞれ任命。彼らに「キノコまだぁ~?」と督促の嵐を浴びながら額に汗をにじませて山の斜面を右往左往するのは平隊員の父親2名。「あったぁ?」「ありませ~ん!」と虚しく木霊する声・・・  。
 今日はナメコを中心にムキタケ・クリタケ・ヒラタケというフレコミだったのだが本命にまったく出会えない。ブナの倒木も細く若いものが多くてダメ。名前は判らないが美味しそうなキノコが3株だけ有ったので袋に採取。ブナの斜面を諦め小さな沢沿いを登る事にした。

隊長たちのご機嫌取りも大変

 しばらく登ると高野さんが一抱えほどの苔生したブナの倒木を発見。苔生した表皮に茶色いキノコが生えているではないか!・・・でも、これ何だろう?「ナメコだ!」「でもヌメヌメしてないよ・・」「そう言えばそうだね・・」「でも採っちゃえ!」キノコのド素人2人はそそくさと木肌から剥がしたキノコをビニール袋に詰め込み始めた。「クルマに戻れば図鑑があるから見てみよう!」そう言いながら隊長たちが待つ平地へと向かう。「採れたぁ~?」と大声で迎えられ我々は「採れた~、多分ナメコ!」と胸を張る。クルマまでの道々でホコリタケを見つけては指で押して遊ぶ隊長たち。指先で押す度に胞子を噴出すホコリタケがお気に入りの3人だった。 クルマに戻り図鑑で確認。ブナハリタケは間違いない。ナメコもほぼ確定だがヌメヌメが無いのだけが気掛かり。美味そうな3株のキノコは相変わらず不明のまま。

ヌメリイグチの収穫

 ひとまず宿泊地のキャンプ場に移動することにする。キャンプ場周辺でもキノコが採れるらしいので第二ラウンドはキャンプ場だ。キャンプ場周辺はスギ林を中心に雑木林が少々。キャンプサイトを散策し始めて早々、枯葉の中からクリタケを見つける子供たち。「お、あるじゃん!」ナメコこそ無いもののスギヒラタケ・スギエダタケとスギ林のキノコを見つけては図鑑で確認。子供中心のキノコ採りで午後のひと時を過ごした。
 夜は全員揃って大宴会。こちらの収穫したキノコを山田さんに見て頂き全部喰えると確認。ナメコは乾燥しているとヌメヌメしないとのこと。宴会は本隊の大量キノコ収穫で気勢が上がる。新潟の酒とシーズン中に渓で採った山菜や今日採ったキノコの料理・天然自然薯に盛り上がる。自然の恵みをしたたかに楽しんだ一夜だった。

キノコの分類

 翌日はなぜか早朝からザイル講習。川上さんが直々に手ほどきしてくれた。垂らしたザイルにスリングで登攀していく技、バッファーマン(バッチマンとも言う)。2本のスリングを交互にズリ上げて登るテクニックなのだが、なかなかどうして難しい。そうこうする間に体力が尽きてギブアップ。おまけに昨夜の酒が甦って来てアウト。講習は子供たちに任せて一休みとする。
 帰り際、子供中心にキノコが採れる場所に案内して頂きヌメリイグチを採る。川上さんが子供たちに実際のキノコを「これ!」と指さし、どんな所に生えているかを説明してくれる。「隊長、任せたぞ!」の一言に送られて安全な場所でのキノコ採りに子供たちは大はしゃぎ。大人が採る横で見ているだけのキノコ採りよりも大地から自分の手でもぎ取る方が数倍良いに決まっている。ビニール袋一杯のイグチを採って来た子供たちを川上さんが笑顔で迎える。面目躍如の隊長たちは得意気だった。子供たちと遊べる野遊びは楽しい。自然の恵みをそれこそ身を持って体感出来ることはとても大切な事だ。川や山を舞台に子供と一緒になって駆け回る遊びにはまりそうだ。自宅で酒を片手にナメコの辛子醤油漬を口に放り込み、ふと「釣りより面白いかも・・・」なんて思ったりもする。

川上さんにザイルワークを教わる息子

 イワナ釣りの最中に山菜やキノコを覚えてそれを子供たちとの遊びに活かしていく。そんな事が楽しくて川上さんとの釣行で一つ一つ経験重ね自分のスキルを上げる事に努めた。

山毛欅になった人#7へ続く

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