南海さん(仮名)の恩返し
会社の先輩の南海さん(仮名)は少し独特な感性を持っていて、ユーモラスだ。
2秒遅れて爆笑することがあったり、仕事用に普段から1リットルのペットボトルのコーヒーを持ち歩いていたりする。
今日はそんな南海さんの恩返しの話だ。僕たちが働く会社は障害者福祉のサービスを複数運営している。
僕はデイサービスの仕事の担当で南海さんはグループホームの担当をしている。
南海さんが管理するグループホームは夜勤スタッフは1名のみである。なので何か夜間にトラブルがあった時など夜勤スタッフだけで対応できない場合は別のスタッフのサポートが必要になる。
そんな夜間のトラブルが今回2.3週間の間に立て続けに2回起きた。
1回目はある入居者さんがフラッシュバックか何かでイライラしてガラスを叩いて割ってしまった。
幸い入居者さんにケガはなかったが、ガラスの片付けや修理の対応が必要になった。
ホームスタッフは食事の用意や他の方の介助などがあるので、ガラス片の片付けは別のスタッフが行う必要があった。まず最初に管理者の南海さんに連絡がいったがその日は夜勤明けですでに退勤していて動けそうにないということ。
時間が19時を過ぎていたこともあり別部署のスタッフの多くはすでに退勤していた。
僕はちょうど夕方の利用者さんの送迎を終えたところでまだ残っていた。そして担当部署がグループホームの近くだったこともあり、ガラス片の片付けに僕が向かうことになった。
割れたガラスは幸い、外に面している場所ではなかったので取り急ぎ片付けと段ボールを当てるぐらいだけで済んだ。
それから2週間後、同じグループホームの同じ入居者さんがやり場のない怒りをグループホームの外壁に思いっきり蹴ってぶつけて足の指を痛めたという。
南海さんはまたも夜勤明けですでに退勤済みである。そして近くにいた僕がまた駆けつけて、通院の同行をすることになった。
ちなみに1回目のガラスの片付けをした日は予定があったわけではないが僕の誕生日だった。ちなみに南海さんも同じ誕生日。
誰かに祝ってもらう予定があるわけでもなかったけど。
そして2回目の通院の日は会社の別の先輩にご飯に連れて行ってもらう約束をしていた。しかし、それは先輩にも連絡済みで少し遅れる程度で済んだ。
2回とも僕が対応したので、きっと他の誰かに
『ちゃんとお礼しときなさいよ!』
と言われたんだと思う。
それから1週間ぐらい経ったあとに南海さんにあった時に、ふと南海さんが
『そういえばこの前は2回ともありがとうございました。何かお礼をしないといけないですね。』というので
『いや、それは別に大丈夫ですよ。』と返事した。
すると南海さんは『本当ですか。』と言って
しばらく考えたあとに
『・・・あっ!あれいりますか?』と何かひらめいたようだ。
『え?』
と僕は今日のお出かけイベントの参加費の残金を数えるのをやめて南海さんを見た。
『Airtag』
『え?』
『ものにつけるやつ。ぼく二つ持っているんで』
『・・・いやお礼は本当に何もいらないですよ。』
『そうですか・・。ありがとうございました。ではお先に失礼します』
そう言って南海さんは帰って行った。
『お疲れ様でした。』
僕も笑顔で見送る。
1人になった後、こういう時ってもらうのが正解だったのかな?という考えを一瞬巡らせた。
しかし何よりも
『いやなんでAirtag!!!』
天を仰いで、僕は作業を再開した。
南海さんは独特というより嫌味がないんだ。思い出し笑いをしてさらにこの人のことが好きになった。
ちなみにイベント代の残金はしっかり合っていました。