マデラ
伊助くんが様々な疑問やお悩みを今日も抱えています。彼はいつも周りに助けてもらえるのです。
障害者福祉の仕事に携わって約10年。凝り固まった価値観に縛られないように、言葉にしていくことにしました。障害者福祉で働く人や、仕事について考えたことを気軽に読んでもらえるような文章でまとめていきます
下りは登りよりも膝にかかる衝撃が大きいなぁと伊助くんは歩きながらに思います。あとは下るだけと思うと、ほんの少しだけ伊助くんは何でこんなことやってるんだろうと思ってしまうようです。 その度に自分を諭しているみたいですが、下り坂で踏み締める足の足首がフラフラ不安定なように伊助くんの心もつられてあっちへ行ったりこっちへ行ったりしているようです。 こまめに休みながら歩き続けます。険しい道のりが続き、登りはたくさんの人とすれ違ったのに今はほとんど誰ともすれ違いません。少し後ろを
鳥居をくぐり、無事を祈願した伊助くん。登山口に向かい始めます。途中トイレにより気合を入れました。スマホを取り出し登山道までのルートを確認します。靴紐を結び直し立ち上がった伊助くん。よしと覚悟を決めて歩き始めます。 山に入るとそこは静かな空気が流れています。その静けさを破るように建てられた看板には熊出没のお知らせが書かれています。熊よけのすずなんて持っていない伊助くんは引き返すべきか迷います。 決して甘く見たわけではありませんでしたが、伊助くんは歩き続けることにしました。持
「おーい。それじゃくまさん行ってくるよ。」 伊助くんが玄関で猫のくまさんに向かって呼びかけます。動きやすい服装に着替えて大きなリュックを担いでいます。くまさんはしぶしぶ玄関までやってきて伊助くんを見送ります。 「行ってらっしゃい。ぼくがお腹空く前に帰ってくるんだよ。」 遡ること昨夜のことです。いつものように部屋の真ん中に置かれたベンチに座っていた伊助くんは腕を組んで云々考え事をしていたかと思うとパッと立ち上がり 「決めた!明日ぼくは登山をしてくる!」 そう言って
伊助くんはいつも川沿いの道を歩いて行きます。すると途中に一段上がって丸くひらけた広場があります。ランニング途中のお爺さんが手すりでストレッチしたりしています。その隣で鳩たちがたむろしています。 「そう言えば鳩って平和の象徴なんだよなぁ。」 伊助くんは考え始めます。 「どうしてだろう?」 鳩をじいっと伊助くんは見つめています。鳩もこちらを見つめ返している気がしてきました。となりのおじいさんがせっせとストレッチをしていても鳩たちは適度な距離を保ってたむろし続けています。
お部屋の真ん中に置かれたベンチとコーヒーテーブル。いつもならそのベンチの端にちょこんと伊助くんが座っているはずですが今日はその姿がありません。 猫のくまさんが二階からトコトコと降りてきて伊助くんを探します。あたりを見渡すと寝室のベッドに布団をかぶって丸くなっています。近づくにつれて、ぐすんぐすんと泣いている声が聞こえてきます。 いつも考え事しながら最後には泣いてしまう伊助くんですが今日は最初から泣いているようです。 くまさんは布団に潜り込み伊助くんの隙間に丸まりま
伊助くんは今日も部屋の真ん中のベンチに座っています。 今日は考え事をしている様子はありません。手に持ったスマートフォンをジィーッと覗き込んで小刻みに揺れながらニヤニヤしています。 猫のくまさんが伊助くんに近づき声をかけます。 「ニヤニヤしながら何を見てるの?」 伊助くんは耳だけくまさんの方に向けながら応えます。 「MCバトルを見てるんだよ。」 「ヒップホップの人の罵り合いのやつ?」 「ちっちっち。くまさんわかってないね。罵り合いじゃないのよ。バトルなのこれは。ドゥーユー
誰かが部屋の真ん中のベンチに座っています。 彼の名前は伊助(いすけ)くん。 人生三十五周年に向かって進んでいるところで 人間であることに慣れすぎた彼は、そういえば自分がヒトだって事を忘れつつあるなぁなんて考えながら今日を過ごしていました。 少し前から移り住んだ古い一軒家は一人には少し広すぎる家で、天井の雨漏りのシミが時の流れを感じさせます。広いのはいいけど古いからいろいろ低かったり幅が合わなかったりするんだよなぁ……。そういえば最近背中が丸まってきたなぁとか腰が痛むなぁ。
猫好きなアーティストや小説家などは多い。 でもきっと創作活動をしている時は猫のそばにいないと思う。 なぜなら猫って現実の象徴だから。 もちろんご存知だと思うけど 猫がいるところは輪郭がはっきりとしてその世界がくっきりと浮かび上がる。 深く深く入り込んでいく芸術家たちにとって、猫はその深淵から現実世界に引き戻してくれる役割を果たしてるんだと思う。 だからきっと芸術の世界に猫を連れて行くことはしないしできない 猫の存在感とリアリティはそれほどまでにまばゆい。 膝の上に猫が
社会人一年目のゴールデンウィークに作った歌詞を掘り起こしてみる。 この時の感情って最近オーディブルで聞いたちきりんさんと梅原大吾さんの対談を記録した書籍『悩みどころと逃げどころ(小学館新書)』に出てきた学校的価値観に染まった自分とそこから逃れたいと思う自分の闘いみたいなものがあって、湧き上がってきた怒りみたいなものだったのかな?とふと思った。そこからずっと僕は何者かになろうとしていた気がする。 僕ではない何者かに。 ずっと曲名がついていなかったこの曲に、人間Ⅰというタイトル
部屋の真ん中で大の字に寝そべる。 いつもと違うポーズをするとだいたい猫はこんな顔でじっとこちらを見ている 猫と暮らしているとどんなに外では意識的にありがとうというようにしていても 家の中だとごめんということが多くなる気がする。 気づいたら後ろにいたりしてぶつかってしまったり、 ごはんが遅れてにゃーにゃーと抗議されたり こちらの座り方が良くなかったようで足の間でベストポジションを探し続けていたり 近づいてくれたのが嬉しくて構いすぎて逃げられたり ご飯の準備中に早
最近やれやれだな笑いが増えてきた。 利用者のあっこちゃんとかが笑っている顔とか、みんなが心の底から笑っている顔とか、フェスでロックスターがかっこよく笑っている顔とかみてふと自分を振り返ってみると 自分は今やれやれだな笑いしかしていないんじゃないかと思う時がある。 やれやれだな笑いとは何か。 それは、こんなことがあって困っちゃうよねーという笑いだ。 昨日こんなこと言われてさーとか ほんとにしょうがない人だよねーとか 思わず笑っちゃったもんねーとか 受動的笑いとも
障がい者福祉の仕事をしていると言うと 『それは素晴らしい、あなたはとても優しい人ですね』 と言われることがあります。 特にオンライン英会話をしているときに言われます。そもそも障がい者福祉の仕事をしているということを英語で伝えるのがとても難しいです。 英語が話せるわけではなくケアやヘルプを用いて素人なりに伝えています。 新卒で入った福祉の会社をやめて転職エージェントに相談したときに、福祉業界から別の業界への転職は高い壁があると言われました。 福祉の人は優しいから、ノルマ達
YouTubeでみたミッシェルガンエレファントのラストライブの世界の終わりの衝撃は忘れられない。 演奏中にギターの弦が切れてしまったアベフトシさんがすぐさまチューニングし直し、切れた弦を使わずにそのまま信じられないギターを弾き続ける。 鬼のような形相で客席の彼方をまっすぐ見つめながら。 そして演奏終了後に、ふっと口元を緩めて『ありがとう』と笑う。 この日から世界の終わりはもしかしたら悪くはないのかもしれないと思うようになった。 僕は高校三年生の終わりまでを石川県の田
こんにちはオギーです。 うちの会社にも新入社員が入ってきました。 そのうちの一部は福祉業界での勤務経験がない人がいます。 経験があるなしのどちらもメリットデメリットはあるわけですが、新人育成の時に気をつけないといけないなぁと感じたことをまとめていきます。 ・一つの場所でしか働けない人にしない ・かと思えば大枠で福祉を伝えない ・彼らの言葉や体で考えよう ・支援者は100の脳を持とう ・でも結局は1つの脳しかない ・だからこそ自分を愛そう こんな流れで話していきたいと思いま
会社の先輩の南海さん(仮名)は少し独特な感性を持っていて、ユーモラスだ。 2秒遅れて爆笑することがあったり、仕事用に普段から1リットルのペットボトルのコーヒーを持ち歩いていたりする。 今日はそんな南海さんの恩返しの話だ。僕たちが働く会社は障害者福祉のサービスを複数運営している。 僕はデイサービスの仕事の担当で南海さんはグループホームの担当をしている。 南海さんが管理するグループホームは夜勤スタッフは1名のみである。なので何か夜間にトラブルがあった時など夜勤スタッフだけで
独りになって、今までは全く思い出さなかった昔のことをふと思い出すことが多くなった。 『これとこれのどっちにしようと迷っとるげんけど、もう今日は決められんからまた今度にするわ』 高校生の僕はCDを2枚手にとって散々悩んだ末、母に告げた。そう言えば、2つが手に入ることを僕は知っていた。 『何回も来るのも面倒やし、2つとも買うから早よ持ってきまし』 母がそういう。 ここで安心してはいけない。 『でもそんなん悪いわ。』 『こっちはお母さんも聴きたいからいいわ。早よしまし