湯船の構想
Coyoteという雑誌の取材を受けたので、これを機会に前から考えていたことをここにまとめておこうと思う。
船を湯船にする
今回取材を受けたのは、2021年3月15日発売の
「Coyote No.73 特集 自然と遊ぶ、サウナのある暮らし」
お題は、和船とサウナで何か考えられないかということだった。和船をサウナにすることはそれほど真面目に考えたことはないけれど、船は水の上に浮かべるものだし、サウナには水が必要なので言われてみると色々できそうだと思う。
「湯船」という船は実際に存在したようだ。
下の絵は「京都大学貴重資料デジタルアーカイブ」(畫圖)和漢舩用集 12巻「湯船」の絵。江戸時代の「湯船」という船だが、実際は蒸し風呂だったらしい。
取材でも提案したが、ここでは前々から考えていた、船を湯船として使う構想をさらに掘り下げて書いてみたい。
湯船と船の共通点
湯船はお湯が漏れてはいけない。船は水が侵入してはいけない。
船大工が自慢にする技術は水が隙間から入ってこない「水密構造」をつくることだ。水が入ってこない船に水を入れたとしたら、その水は外には出ていかない。
船は湯船にも最適なのだ。
実際に、完成した船の漏水試験のために、船内に水を張るということをすることも多い。
この写真は、自分が作った船に、進水式前の漏水試験をしている様子。
写真を見ていただければ、船はかなり贅沢な湯船になり得ることがわかってもらえると思う。
ここでライバルになるのは檜風呂、贅沢な湯船だ。湯を張った時のヒノキの香りにはリラックス効果もある。
しかしあちらは四角い。
想像して見てほしい。
体を預けた時、船のなだらかな曲線は檜風呂よりもより体に馴染みが良いはずだ。
それに、船を檜で作ることが出来ない訳ではない。船の材料としては檜は贅沢すぎるということで使われないだけだ。
そもそも和船の材料に良く使われる杉も、檜には劣るが香りは良い。
ところで、構想というのは船をただ単に、お湯をためる容器=風呂桶にするということではない。
お湯で満たした船を水に浮かべる
もう一歩進めて、お湯で満たした船を、湯または水に浮かべて見ることを検討してみよう。
木造船の利点の一つは、穴が開いてもバラバラに分解しても絶対に沈没しないということと言われる。なぜなら材料が木だから。
ならば、船をお湯で満たしても沈没することはありえない。
船体に使われる木材の体積から浮力を計算してみよう。
下の「湯船」は二人でくつろいで入れるくらいの大きさだ。
◼︎シキ(底板)の面積
(50cm+90cm)÷2×4m=2.8㎡ (おおよその平均幅×長さ)
◼︎カワラ(側板)の面積
50cm×4m×2=4㎡ (高さ×長さ×枚数)
◼︎タテイタ(船首の船尾)の面積
50cm×70cm×2=0.7㎡ (幅×高さ×枚数)
総面積=7.5㎡
板厚3cmで作った時の体積=0.0225㎥
この船=湯船にお湯を満たした時の浮力は9kg(木材の比重を0.4とする)
人の浮力はどうかというと、読売新聞の記事によると呼気状態の比重で1.03とのこと。水よりやや重いということだ。
体重が75kgの人だと75×0.03=2.25kg分水より重い。二人で浮力の損失はたったの5kg。
船体の浮力が9kgで人体二人分の浮力損失が5kg。
まだ4kgの浮力が残っている。
お湯をいっぱいに満たしたこの船はさらに大きな湯船または水中で絶妙な浮力でほぼ釣り合うように浮くはずだ。
浮遊感のある不思議な入浴体験ができそうである。
最後に
この構想が生きてくるのは、豊富な湯量があり、湖や海に近い温泉地だろうと思う。
すぐに思いつくのは大分県別府。温泉が自噴するほどの湯量で海にも近い。大きな浴場を備えた施設も多い。加えて、高温の蒸気は厚い木の板を曲げるのに都合がいい。木材の入手も容易だろうし。
通常の温泉、砂湯、蒸し湯に加えて新たに浮く湯船。
観光は贅沢な体験(金額のことではない)をするのが目的なんだから、こういうのがあったら楽しいと思うがいかがだろうか。