映画『魔女見習いをさがして』レビュー 〜どれみとウチらの20年〜
今週は仕事で慌ただしい日々を過ごしていたが、どうってことない。
週末に、映画『魔女見習いをさがして』の公開が待ち構えていたからだ。
ようやく訪れた金曜日。
張り切って早起きし、初日の初回を目指して電車に乗った。
なんてったって、おジャ魔女と20年越しの再会である。
テレビアニメ放送開始当時2歳だった私も、すっかり20代半ばだ。
ポケットにリズムタップを忍ばせて、私は魔女見習いを探す旅に出た。
合言葉は、「ピ〜リカピリララ ポポリナペ〜ペルト!」
◉おジャ魔女のいないおジャ魔女
驚いたことに、本作にはほとんどおジャ魔女が登場しない。
それなのに、めちゃくちゃおジャ魔女なのである。
メインキャラクターは、現代を生きる3人の女性。
・ソラ(22)…大学4年生で教師を目指しているが、教育実習で学校教育の実情を目の当たりにし、理想と現実とのギャップに悩む。
・ミレ(27)…ハキハキとした帰国子女で大手商社に勤めているが、年功序列・男性中心の社内で「空気が読めない」と煙たがられ、もどかしさを感じる。
・レイカ(20)…母子家庭で育ち、絵の修復士を目指してフリーターをしているが、ヒモの彼氏にお金をせびられる。
設定がめちゃくちゃ現実的……これは紛れもない「ウチら」の話だ。
育ちも年齢も違う3人だが、ただ「おジャ魔女が好き」という一点でつながっていく。
現実ベースの物語でおジャ魔女そのものはほとんど出てこないが、3人の会話を通して「ウチらの好きだったおジャ魔女」がみるみる浮かび上がる。
MAHO堂、魔法玉、マジカルステージ…。
居酒屋で3人が推しキャラについて語り合うシーンでは、こっちまで「わかるわかる!」と相槌を打ちたくなる。
おなじみのセリフ「あたしって、世界一不幸な美少女だ〜!」では、待ってましたと拳を握りしめた。
他にもコメディータッチのシーンでのデフォルメされたキャラクターの表情や、映画館に響き渡る「おジャ魔女カーニバル‼︎」など、もう何もかもがおジャ魔女で、開始5秒で全身に鳥肌が立ち涙が出た。
20年近くブランクがあるのに、全てを肌感覚で覚えていた。
20周年記念作品においておジャ魔女を前面に出すのではなく、あの世界が好きだった人たちの心に宿る魔法の物語として昇華させた制作陣に、全身全霊のスタンディングオベーションを送りたい。
◉おジャ魔女がつなぐ運命
物語の序盤、MAHO堂のモデルと言われる建物に偶然集った3人。
「おジャ魔女好きの3人が同じタイミングで集まるなんて、運命みたいだね」
みたいなセリフがあるのだが、それはまさに、おジャ魔女が好きという気持ちだけでたまたま映画館に集った私たちのことを言っているようだった。
平日の午前中にも関わらず映画館には同世代と思われる人たちが集い、会話をしたり顔をまじまじと見ることはなくても、なんとなく「今からおジャ魔女がみれるね、楽しみだね」という空気で館内が満たされていた。
女性だけでなく男性も一定数いて(映画にもおジャ魔女好きの男性キャラが登場する)、「私たち」でも「僕たち」でもなく「ウチら」という気持ちでつながっている気がした。
「あの頃何を夢見てた?」
「今でも魔法を信じられる?」
「おジャ魔女のどんなところが好き?」
スクリーンの前でうねる笑いや感動の波を浴びながら、今ここに集った人たちがどんな思いでいるのか、密かに探り合う。
これだから映画館は楽しい。
名前も知らない、きっともう会うことのない人たちばかりだが、あの瞬間確かにおジャ魔女がつないだ運命を感じていた。
◉内なる魔法で、日々を生きる。
「おジャ魔女どれみ」シリーズが始まってからの20年、様々なことがあった。
21世紀に突入し、記憶にある限り不景気。
家庭では核家族化が進み、学校ではゆとり教育が進んだ。
少子高齢化や地球温暖化も進み続け、5%だった消費税は10%まで上がった。
大きな災害や、凶悪な事件も起きた。
現在はコロナ禍で、先の見えない日々が続いている。
もちろん楽しいこともたくさんあったが、どこか浮かばれないうねりの中を私たち「おジャ魔女世代」は過ごし、20代に差し掛かり、戻ってくるかわからない年金や税金を払いながら今を生きている。
それはきっと、あの頃思い描いていた夢や魔法に溢れる世界とは、かけ離れている場合がほとんどだろう。
映画『魔女見習いをさがして』には、そんな大人になったおジャ魔女世代のリアルが痛々しいほど詰まっている。
どんなに強く願っても叶わないことはあるし、勇気を振り絞ってもうまくいくとは限らない。
そんな私たちを過剰に励ますでもなく、突き放すでもなく、この映画は極めて現実的なラインでそっと背中を押してくれる。
「おジャ魔女どれみ」初代シリーズディレクターを務め、本作の監督でもある佐藤順一さんは、おジャ魔女ファンの目の輝きを見て「みんなの中に魔法がある」と感じたとパンフレットのインタビューで語っている。
本作はまさに、そんな私たちそのものが持っている内なる魔法を目覚めさせ、輝かせる力を持っている。
映画を見る前、私は魔女見習いを探しに出かけたつもりだったのに、映画館を出る頃にはすっかり自分自身の内に魔法を宿していた。
もどかしいこともやるせないこともたくさんあるけれど、それでもどうにか内なる魔法を絶やさずに、日々を生きる。
そうすれば、「もしかしてほんとーに できちゃうかもしれないよ⁉︎」
アニメ放送当時から私たちの小さな悩みや不安に寄り添って作られていた「おジャ魔女どれみ」。
20年の時を経た今も、変わらず私たちに歩み寄って力をくれる素晴らしい作品だった。
このドキドキワクワクは年中無休、ずっとずっとね。
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