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講演会記録「有機農業を通じた地域活性化」~作る人も食べる人も心が豊かになる小川町の暮らし~

2024年8月29日(木)にリリックおがわにて開催された、埼玉県農林部農業ビジネス支援課主催の研修会にゲストスピーカーとして参加させていただきました!当日の内容を抜粋、編集したものを記録として残しておければと思います。

講演会の告知文

埼玉県では都市部と農山村地域との交流を目的とした研修会を有機の里として全国的にも有名な小川町で開催します!
今回はオーガニックの世界に魅了されて小川町に移住し、現在は小川町への移住希望者のサポートを行っている八田 さと子さん、日本の有機農業の第一人者として知られる金子美登さんの遺志を引き継ぎ、有機を学びに訪れた研修生たちと共に霜里農場で多品種を栽培している金子 宗郎さん、小川町で農業振興をミッションとした地域おこし協力隊として着任し、地元農業の情報発信や農産物のPR、イベント運営を行っている泉地 春香さんにお話いただきます。農業に従事されている方以外にも広く参加いただけますのでぜひご参加ください!

受講対象者

・農業者の方
・行政関係者
・調査研究事業関係者
・都市農山村交流に関心のある一般の方

プログラム

講演①オーガニックタウンで人と地域と農ある暮らしを繋ぐ
講師:小川町移住サポートセンター 八田 さと子さん
講演②有機農業を通じた地域づくりの実践
講師:霜里農場 有機農業実践農業者 金子 宗郎さん
有機農業で“まちづくり”トーク
講師:八田 さと子さん、金子 宗郎さん
ゲストスピーカー:小川町地域おこし協力隊 泉地 春香さん
意見交換会
グループに分かれて農業を核とした地域活性化の方策について意見交換会

講演①オーガニックタウンで人と地域と農ある暮らしを繋ぐ

講師:小川町移住サポートセンター 八田 さと子さん

八田さんは、小川町に移住したい!と検討中の方のほとんどが知っているという存在なのではないでしょうか。現在、移住といえば!な八田さんですが、小川町の繋がり、さらには人生を通じてのテーマは「有機農業」なんです。私も普段地域おこし協力隊として活動する中で、移住ではなく有機農業の文脈で一緒にお仕事させていただくことが実は多いです。
女子栄養大から、有機食品の流通の会社への就職、環境NGOへの転職、そして小川町霜里農場の金子美登さんと出会うきっかけにもなる有機農業推進協議会でのお手伝いの経験、現在のNPO霜里学校の理事としての移住サポのお仕事と有機農業の推進に関わることに至るまで、ライフストーリー的にお話がありました。普段関わることの多い私も知らない背景を知ることができてとても興味深く、さらに大学生のときから既に「有機農業」の軸をしっかりと持っていらしたことに驚きました。

講演②有機農業を通じた地域づくりの実践

講師:霜里農場 有機農業実践農業者 金子 宗郎さん

「地域とともに歩む」ということを中心に据えたお話は、金子美登さんが大切にしてきた思いや、これまで築いてきた霜里農場と地場産業、消費者との関係についてなど、全体を俯瞰して繋がりを改めて捉え直すものでした。
また、内容で印象的だったのが、有機農業の「有機」とはどういう意味なのか?というもの。有機農業の推進に関する法律にある「化学的に合成された肥料及び、農薬を使用しない」「 遺伝子組み換え技術を利用しない」「 環境への負荷をできる限り低減」という定義は、果たして金子美登さんが大切にしてきた有機という言葉を表し切れるのだろうか?そもそもオーガニックの言葉の由来を見ていくと「Origin →根源」「Organize →調和・協調」=生産(自然環境)✕流通(人間社会)、つまり in harmony withの関係性、そしてそれは地産地消・農商工連携・6次産業化・フードマイレージであり、小川町が大切にしている「有機」にはこのような意味も加わっていると考えている、というお話でした(かなり端折った説明で宗郎さんの本意が伝えきれていないので、気になる方は私までお声がけください!笑)。

有機農業で“まちづくり”トーク

講師:八田 さと子さん、金子 宗郎さん
ゲストスピーカー:小川町地域おこし協力隊 泉地 春香

2人の講演後は休憩を挟んで3人でのまちづくりトーク。
まず小川町の有機農業のこれまでの取組を4つのフェーズに分けてみるところから始まりました。

▼フェーズ1/1971年〜1995年 
一人からグループへ
金子 美登さんが下里地区で有機農業を始めてからゴルフ場反対運動を経て有機農業生産グループを発足。グループで直売所運営がスタート。

▼フェーズ2/1996年〜2002年 
活動と人材の多様化をしながら地域に広がる有機農業
身近な資源を取り入れた循環型農業と自然エネルギーの取り組みが展開。お酒、豆腐、醤油などを製造する地場産業との連携がスタート。

▼フェーズ3/2006年〜2021年 
運動から官民連携へ まちづくりの1つの柱としての有機農業
有機農業推進法をもとに町として有機農業を推進する体制(小川町有機農業推進協議会)が作られた。下里地区の農林水産祭、天皇杯受賞をきっかけに有機農業の里小川町としての認知度が一気に向上。町の政策の随所に有機農業が取り入れられ始める。おがわんプロジェクト、学校給食への地場産有機の使用開始、小川学での有機農家さんによる授業が行われる。

▼フェーズ4/2023年〜 
オーガニックビレッジ宣言から始まる小川町の有機農業の未来とは?
農業者、事業者、住民など地域ぐるみで有機農業の推進に取り組む先進的な自治体としてオーガニックビレッジを宣言。

では、これを踏まえて小川町の有機農業にはどのような未来が待っているのか?フェーズ4のキーワードは「有機農業の証明」「農業とまちづくり」「有機農業を通じた地域活性化」。話の前提として、有機農業の認証にかかわる3つの認証の取組についての説明から始まりました。

1.有機JAS
2.おがわん認証
3.PGS(参加型保証システム)

有機JAS
・農林水産大臣が定める国家規格
・農薬や化学肥料などの化学物質に頼らず、自然界の力で生産された食品について認証を行う制度
・認証された事業者のみが有機JASマークを貼ることができ、有機JASマークが貼付されているもののみが「有機」「オーガニック」という表示を使用することができる

メリット|国家規格であり、認知度が非常に高い。
デメリット|
少量多品目で有機農業を営む小川町の農家さんのスタイルには、手間やコストの面で見合わない(取得農家はゼロ)。

おがわん認証
・町が農家さんの取り組みを認証して、応援する仕組み
・生産者の土づくりへのこだわりを「おがわ型農業の基本」とし、実践している創意工夫や努力を分かりやすく、ブランドとして見える化

メリット|町が認証している地域認証の取り組みである。
デメリット|町内外ともに、認証の認知度が低い。有機JASに準ずる形での「OGAWA’N nature」があるが、有機JASを取得して保証するものではない。

PGS(参加型保証システム)
国際有機農業運動連盟(IFOAM)から正式認定を受ける
・地域の農家や消費者などのステークホルダーが参加して、信頼関係を構築しながら、互いをチェックし認証していくシステム

メリット|少量多品目で農業を営む農家さん、また顔と顔の見える関係性を大切にしてきた小川町の有機農家さんと相性が良いと考えられている。
デメリット|日本でPGSを実践しているのはオーガニック雫石(岩手県)のみであり、認知度が低い。

小川町では有機農業を証明するプロセスとして、2023年度から、PGS(参加型保証システム)を施行的に取り入れる取り組みを行っています。
有機JASを否定しているのではなく、有機JASをとる農家が出てくることも良いけれど、なかなかそこまで手を伸ばせない零細農家が多い状況の中で、PGSの軸となる「圃場見学会等を通じた継続的な相互理解と勉強の場づくり」は提携を実践したり、地産地消を大事にしている小川町の農家さんに合う「有機農業の証明」の方法であり、また継続的な交流や勉強の場を拡大し、多様化した生産グループメンバー間の意識合わせの場になる可能性があるのではないか、というのが背景にあります。

宗郎さん:
参加型保証制度は、小川町の有機農家が長年大切に育んできた生産者と消費者、さらには地場の食品加工産業を含めた「顔と顔の見える関係」を深化させる取り組みだと理解しています。小川町の有機農業は「無農薬・無化学肥料栽培」だけに定義されず、踏込み温床に象徴される里山と畑の循環だったり、槻川の恵みが田んぼを潤したり、豊かな自然を守り守られて成立するもの。そのような日々の農作業の積み重ねも評価できるような仕組みづくりが理想だと考えています。私達がPGSに取り組むその原点は、シンプルに胸を張って「有機農産物」であると謳うこと。有機JAS制度に学ぶべき点は学び、「有機」と「慣行」の二項対立にならないようOGAWA’N(小川町行政の認証制度)とも二人三脚で新たな仕組みを築き上げたいと考えています。

せんち:
小川町役場の環境農林課に所属し、おがわんプロジェクトのPR発信にも関わっています。おがわんプロジェクトを構成する要素として、「地域資源」「生産者」「事業者、学校」「消費者」などの様々なステークホルダーがおり、できるだけ多くの町民が循環の輪(下図)に関わっていくことが重要になります。それはただ一方通行な関係性ではありません。例えば消費者の視点から見てみると、手に持っている農産物が生産されている背景には豊かな地域資源があり、それを工夫して土作りに活かしている農家さんの営みがあるということ、そして自分がそんなつながりのある農産物を購入することで、自分たちの地域の環境や風景を守ることになること。消費者としてより豊かで幸せな選択肢を選ぶことができます。そんな地域認証であるおがわんとPGSが一緒になって大きなムーブメントになったら良いなと思い描いています。

おがわんプロジェクト関係図

さとこさん(司会):
「PGS活動は地域を耕す」岩手県雫石町の先達者に教えられた道標がありますが、まさにPGSは農業を軸としたまちづくりの手法と言っていいと思います。農家さん、食品加工業者さん、行政、消費者、流通など、様々なステイクフォルダがPGSをプラットフォームに地域の食と農を考え、連携する仕組みです。これを具現化していくのが私たちのフェーズ4です。

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