ルッキズム / 垢抜け / 垢入り

 私は顔の造形から足の太さまであるゆる悪口を言われてきた。そして私はみんなから好かれたかったのでその指摘を一つ一つ割と忠実に直していった。目が細いことを揶揄されて誕生日にアイプチをねだった。小学生時代の唯一の恋愛エピソードは、同級生の男の子から「もうちょっと痩せてたら好きになっていた」と言われたことだ。相手のまつげが長いことを褒めたらお前は顔がキモいよと言われたのには驚いて泣き出してしまった。清潔感のなさからキモさというのはあらわれるらしいと図書館に置いてあった10代向けの雑誌から学んだ。清潔感のなさというのはつまり容姿の美醜だとTwitterで学んだ。この顔で生きてゆくのは無理そうだ、と分かったから美容整形について調べ始めた。実際の手術の動画を見たら気分が悪く変な汗と涙をまき散らしながら倒れてしまった。夥しい数のビフォーアフター画像を見続けて人の顔も何が何だか分からなくなった。それからたるんだ一重瞼を奥二重にしてチョコチップみたいな黒子を取って肌にレーザーを何回もあてた。みんなよりわざと遅れて食堂に行って、みそ汁とサラダを食べて、休み時間に蒟蒻ゼリーを啜っていた。ナントカ診断を何万円も払って受けて似合うとされているものを身に着けてまつ毛眉毛爪もすべて高額な費用を支払って他人に手入れしてもらって、1年に1回しか行かなかった美容院にも毎月行くようになった。

 大学2年生のある日、新宿三丁目駅のトイレで、昔私の不細工さを指摘してくれた人、にすごく似ている人がいる、と思った。

立ち止まってもう一度振り返ると、それは鏡に映った私だった。

どうやら、私が「自分磨き」をした結果、私を悪く言った人々に似てしまったらしかった。

目指したことなんて一度もなかったのに!なんだか騙された気分だ

 今は川崎のアニメイトにいるような変な服装に川崎のドン・キホーテにいるような変な髪色に川崎の病院にいるような変な髪型に川崎のコンビニにいるような変な化粧をして川崎の飲み屋街にいるような変な体形でつくば市をうろうろしています。お元気ですか。私は元気です。楽しいです。毎日。いいなって思った服を着て、おいしそうなものをたくさん食べて、けっこう、幸せです。

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