メンタル投資とは
おがわーる@アウェアファイです。
メンタルヘルスTechの領域でビジネスを試行錯誤しています。その中で「メンタル投資」という概念が必要なんじゃないかと思うようになり発信し始めました。
最近興味持ってくださる方が一定いらっしゃるので、どういう意図でメンタル投資という概念を発信しているかテキストで整理しておきます。
サマリ
長くなってしまったので最初にサマリを書いておきます
人生をより良く生きるために必要な、メンタルにまつわるストック型の資産形成(自己理解・メンタルスキル獲得)をメンタル投資という
メンタル資産の項目
自分の特性を知る
自分の操作スキルを身につける
自分をチューニングする
自分の特性を受容する
自分の特性に沿ったワクワクする道を選ぶ
メンタル投資とは
メンタル投資とは、日々自分の大切なことに時間を使うために、自分の心を理解したり、心や身体をケアするスキルを身につけること(メンタル資産の形成)に時間やお金を使うことを指します。
メンタルの領域に携わるようになって誤解されているかなと思っているのが、メンタルケア = 消費 = フローとして流れてしまう、という感覚です。瞑想をしてスッキリしましょう、といった内容が(消費者から見た時に)その場で汗をかいてスッキリする = 消費する、というようなニュアンスのみで捉えられているんじゃないかなと感じます。カウンセリングを受けることが、その場で吐き出してスッキリするだけ、の感覚な方もまだまだ多いんじゃないかと。
そして、消費するだけであれば様々な代替品があるために、メンタル領域にお金や時間を使おうとなりにくいことに問題があるように思いました。
僕としては、自身のメンタルに対して時間を投じることは、フローではなくストックである、ということをお伝えしたいと考えています。そこでストック性(資産性)のあるものに時間やお金をかける = 投資だ、ということで「メンタル投資」と言うようになりました。
さて、どう説明すると分かりやすいか逡巡した結果、今回は「車体とドライバー」のアナロジーを使って説明してみたいと思います。
車体とドライバー
まず大前提です。人間は自分という存在を自分だと認識していますが、一方で自分の意思で全てをコントロールすることはできません。人間は思っている以上に自分のことを自分でコントロールできない存在です。依存症が意思の力ではどうにもできず専門家による治療が必要なことはだいぶ知られてきました。自律神経は、そもそも自律、つまり人間の意思に関わらず機能する神経ですし、感情も「楽しくなろう!」みたいに意思の力で急に変えるのは結構難しいです。このように、意思の力で直接コントロールできる範囲は思っている以上に小さいです。
(ちなみに某心理領域では、この感情等が制御できないと知ることを「創造的絶望」という激しめな名前で呼んでいたりします)
生きて動いている自分とそれを認識する自分とは、いわば車とドライバーの関係のようなものです。ただ、スーファミ時代のマリオカートのように、車体を選べないというだけです。
自分の車体の特性を知らないと、どのタイミングでハンドル切るとうまくドリフトできるのか、どんくらいスピード出すとオーバーヒートしちゃうのか、ガソリンどれくらい積めるのか、等々、これらを知らないとレースで困ります。
車体の特性を知る
日常活動に置き換えると、どんな時に落ち込むのか、立ち直りが早いのか、やらかしがちなケースは何なのか、逆にどんなことでテンションが上がるのか、何をしている時が充実していると感じるのか、といったことを知っておく必要があります。これらは自分の意思では動かしづらい特性です。テンション上がるものを意思の力で変えるとかできないですもんね。
メンタル投資で言いたいことの1つが、「自分が乗っている車体の特性を知ろう」ということです。
自分(車体)という存在は、家族やパートナー以上に一緒に居続ける存在です。そんな自分の特性を早い段階で押さえて置くことに時間を使うことは、かなり投資効果が高いと感じます。
そして、そのためのベースはセルフモニタリングです。セルフモニタリングは、自分(ドライバー)で自分(車体)のモニタリングをおこない続けて、理解していくことを意味します。毎朝目覚めてもコンディション良い時と悪い時がありますし、新しい環境では自分の気づかなかった一面に気づいたりします。こういった自分の状態に目を向けていくことで、自分(車体)の特性が徐々に明らかになっていくと思います。もっと言うとセルフモニタリングそのものもスキルですので、やればやるほど精度が上がっていきます。それ自体も投資と言えるでしょう。
また、セルフモニタリング以外にも、自分の特性を知るようなものは色々あります。人材領域でも様々なツールがありますし、MBTIやストレングスファインダーのようなものも、自分を理解するのに役立つでしょう。また最近はスマートウォッチのようなバイタルデータを見て特性を理解できるようなものも出てきています。自分だけではなく、他者からのフィードバックもまた、自己理解に役立ちます。
歳を重ねたり、環境が変わると特性も変化していくと思いますので、知り続けていくことも走り続けるために大事な一つのポイントではないでしょうか。
車体の操作スキルを身につける
また、車体とドライバーの関係性において欠かせないのが「車体の操作スキルを身につける」ということです。
一例ですが、
何度も同じことを繰り返し思い出しちゃう(反芻思考)時に、切り替える方法を知っている
気分が落ちて戻しづらい時に、元気になる行動をする(行動活性)ことで気分を回復させる方法を知っている
やる気が出ない時にSNSや他のことに逃げると、更に気分が落ち込む(体験の回避)から、自分を行動させる方法を知っている
自分の考えでしかないのに、それが現実のように感じてつらい(フュージョン)が、そのことに気づく方法を知っている
自分のコンディションを戻すルーティン方法を知っている
こういった、陥りがちな状況と車体ごとの操作方法(こういう時はこれ)を知っておくこと、適切なタイミングで操作できることは人生のQOLをめちゃくちゃあげてくれます。
人類はすでに同じ構造の脳みそで同じような失敗を何千年も繰り返してきており、その再現性ある回避方法が「ドライビングマニュアル」として論文にあったりする訳で、使わない手はありません。
もちろん、人によって(もしくは同じ人でもタイミングによって)具体的な取るべき行動は違っていたりしますので、それは自分で試行錯誤してみて適したものを見つける必要があります。その試行錯誤に時間を使うことも、大事なメンタル投資だと思っています。
いずれにせよ、自分の車体そのものを変えたいと願うのではなく(あんまり変えられないから)、あくまでも車とドライバーを切り離して操作する感覚でいた方が運転しやすいかなと思っています。
車体をチューニングする
特性は全く変わらないのか、というと、もちろん全くそんなことはありません。ベンチプレスを続ければ上腕三頭筋と大胸筋が大きくなるのと同様に、鍛えられるものはあります。
例えばリラックスの練習をし続けると、リラックスしやすい身体になります(ストレスに負けない生活 | 熊野宏昭 参照)
少し脱線しますが、リラックスと聞くと「ゆったりのんびりした状態」をイメージするかと思いますが、実は違くて、「リラクセーション」という酸素消費量の特別少ない、特殊な状態を指すようです。
このリラクセーション状態になる練習を続けていると、短時間でその状態に入れるようになるそうです。さらに上記書籍内では、ストレスの逆の状態としてリラックスは貯金できると言及していたりもします。
また、マインドフルネスについても、マインドフルネスを継続すると島皮質と呼ばれる、注意を制御したりする脳の部位が厚くなるという論文もあります(Lazar et al. (2005)やHolzel et al. (2008))。
他にも、ポジティブ心理学の領域で使われる「3 good things」という方法では、毎日3つの良いことに着目する日記を書くのですが、続けることで、良いことに意識を向ける訓練をしているとも言えます。
こういったものはまさに「投資」に近い、ストックされる資産と言えます。
先ほどの自分(ドライバー)の操作スキルを身につける、に近いですが、それを繰り返していくことによって、自分(車体)そのものが変わっていくまである、ということです。意思の力で「ネガティブな自分よ、ポジティブになれ」と言ってなることは難しくとも、3 good thingsや認知再構成法といったやり方を通してものごとを柔軟に見れるようになるトレーニングはできます(ネガティブな自分(車体)を悲観する必要はないのですが、柔軟であることは大事という話)。
もちろん、筋トレをサボると筋肉が落ちていくのと同様に、こういったトレーニングも継続し続けることで意味がある類のものだと考えられます。
車体の特性を受容する
僕はアナ雪が結構好きなのですが、好きな理由がアナ雪の話が自己受容と社会接続の旅路を濃縮しているところにあります。
レリゴー前(?)のエルサは自分の特性を否定したり隠したりしていました。手から凍てつくはどう的なものを出せるという稀有な特性によって大切な人を傷つけた経験があって、それ以降なるべく隠して生きていきましたが、結果的にものすごい生きづらさを抱えて日々を過ごすことになっていました。
しかし、手袋を外してレリゴーすることでかなりスッキリとした表情に変わったのが印象的です。何よりあの曲に込められたメッセージに共感する人がこれほど多いことが、自分の特性をひた隠しに生きている多くの人の生きづらさの裏返しなんじゃないかなと思ったりもします。
自閉スペクトラム症の人が、コミュニティに適応するため自分の特性を隠すことを学術的に「社会的カモフラージュ」と言ったりしますが、少なくない人たちが自身の特性をカモフラージュして、何ならその特性を嫌悪し、自己否定すらして生きているのではないでしょうか。
もちろんその方が社会に受容されやすいという状況がそうさせている訳ですし、エルサもレリゴー直後は社会との関係性を断って氷の城に閉じこもる判断をしました(自己受容したが社会と適切な距離がとれていない)。
でも人生は与えられた自分(車体)の特性をうまく活かして、自分(ドライバー)が納得できるレースをする以上にやれることはない訳で。まずは自分の車体を受け入れられないとその特性に沿ったスキルを磨くのも難しいのではないでしょうか。最後エルサはディズニーらしく「愛」を獲得することでうまく特性を活用する術を手に入れました。
自分を受容することは口でいうほど簡単ではなく、多くの方が苦しんでいらっしゃる領域でもありますが、特性を受け入れた先にある世界、大変ですが目指しがいはあるように思います。
特性に合ったレースを選ぶ
冒頭で、メンタル投資の説明を下記のようにしました。
仮にこれまで書いてきたような形でメンタル投資して、ある程度生きやすくなったとしても、どうでも良い(と思う)ことに時間を使っても人生充実しなさそうですよね。なのであくまでも人生で目指すのは「自分が大切と思えることに時間をつかう」ことなのではないかと考えています。
もちろんここ(何を大切とするか)は究極的な正解はないですし、自分が納得できれば何でも良いわけですが、自分(車体)の特性が合っていないと苦しいと思います。ここで言う特性には、先程の「自分がどんな時にテンションが上がるのか(出力出せるのか、幸福感感じるのか)」といったものも含まれるからです。
逆に言えば、自分がどんな時にテンションが上がるのかという特性を知っているほど、大切なことに時間を使える確率はあがります。そういうケースが多く含まれるレースを選ぶと、自ずと充実した時間は増えるのではないでしょうか。
例えば、高い目標を掲げて「それを達成するために今を犠牲にしてでもやるべきだ!」みたいなこと言う人もいるかもしれませんが、個人的にはそれは「高い目標を掲げて追いかけることが大切な人」がやれば良いことであり、そうでない人が無理にやることではありません。多分そういう人は「今を犠牲にしている」と本当は考えていないと思います。同じ時間でできる何かを捨ててることは間違いないと思いますが、高い目標掲げて走ることに人生の充実があるんだと思います。人ベースで書きましたが、同じ人でもタイミングによって大切になるものは変わります。
ちなみに一番誤解されそうな項目なので丁寧めに書きますが、おそらく社会において、「自分都合ではどうにもならない環境的な理由」によって、大切と思うことに時間を使えないことはたくさんあると思います。そういったケースは、環境を変える外部からのアプローチも必要なので、メンタル投資だけで解決する話ではないでしょう。
ただ一方で、厳しい現実と折り合いをつけながら、自分(車体)のハンドルを自分(ドライバー)で握ろうとする以外にやれることもないように思います。様々な制約条件の中で、最大限自分の(ワクワクする/テンションがあがるとかも含めた)特性に合ったレースに参戦することを意識するのが大事なのではないでしょうか。
人生はプロセスそのものであり、プロセスが輝くために目標はあり、プロセスとは一瞬一瞬の過ごす時間に他なりません。
最後に | 車体は変えられないのか
この議論の前提には、自分(車体)は変えられない、というものがありましたが、車体は本当に変えられないのでしょうか。
最近アニメとかでもよく見る「転生モノ」ですが、転生モノはまさに自分(ドライバー)はそのままに、自分(車体)を交換しています。転生モノこれほど受け入れられているのも、車体を変えたいという人間の願望が根源的にあるからだと思います。となると未来はやはりその方向に進む可能性は高い。
メタバースでの車体乗り換え自由な世界、攻殻機動隊のような世界は上記議論を根本的に変えうる話になるかもしれません。
もしかすると、車体を変えることで色々解決する世界が10年後、20年後にやってくるかもしれませんが、我々一般市民にはコントロールできない世界の話ですので、その10年間、20年間を充実して生きるためにも、今からメンタル投資してメンタル資産を築いていきましょう!
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました!僕自身も書きながらかなり整理されました。自分でももっと深めていきたいのでご興味持ってくださった方はぜひ議論させてください。
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