85.ザ・チョイス
本作は、今までの総集編とも取れる内容で、まったく新しいソリューションを発見するためには、どの様な思考が必要かについて書かれており、哲学的な内容となっています。
現実の問題を例にどのようにしてソリューションを導き出すのかが、分かりやすくまとまっています。
企業に勤める方だけでなく、普段の生活の中でも非常に大切なひらめきを与えてくれる内容ですね。
道は必ずあると、信じる事
なぜ問題を解決する事が出来ないのか、その事について疑問を抱く事が大切です。
企業の中で
「この問題を解決する事は不可能だ」
といった言葉はよく聞きますが、ほんとにそうなのでしょうか。
実際に「ほんとに無理なのでしょうか?」と質問すると、その理由を聞く事は出来ます。それを聞くと、確かにさまざまな理由から無理そうに感じます。
このように無理な理由を並べられれば「やっぱり無理なんだ」と納得してしまいます。
特に、企業などでは長年にわたって問題になっている事柄などは、過去にもそれを改善するためにさまざまな試みを行って来たと思います。
その上で無理であったし、その無理な理由も説明出来るという事から、その問題には触れられなくなります。
では、無理な理由とはいったい何でしょうか?恐らく、納得出来るような説明がされる事だと思われますが、これらの無理と思われる理由の中に
「何かしらの前提条件」
を元に話をされる事があります。
例えば「~はこのようになっていますので、~となります」と聞くと、「なるほど」と納得してしまいがちですが、「~はこのようになっていますので」の「前提条件」について深く考える必要があります。
通常であれば、この「前提条件」の中で新しいソリューションを探すため、出来上がった物もそれほどの効果が見込めない場合があります。
しかし、「前提条件」に集中して考えた場合、それそのものを変えるため、大きな変化を生み出します。また、そうして作られたソリューションは多大なる効果を生み出します。
結局このような思考に到達出来ない場合は、「これが最善である」といった思い込みが壁となり、新しい思考が出来なくなることが考えられます。
つまり、重要な事はどの様なソリューションであっても、それは
「現時点での最善であり、次の瞬間にさらに別の最善が見つかるかもしれない」
と言う事です。
物事はそもそもシンプルである
問題というのは、ほとんどの場合において「対立」が原因となります。
例えば、速い車を作ろうと考える場合、重要な要素の一部として「エンジンの馬力」「車体の軽さ」がありますが、この2つは「対立」する事となります。
馬力のあるエンジンを作ろうと思うと、排気量の大きなエンジンとなりますが排気量を大きくすると、重くなります。
そうなると、車体を軽くする事が出来ません。また、軽量なエンジンになると馬力を出せないばかりか、耐久性などにも影響を及ぼします。
このような「対立」に関しては
「避けることの出来ない問題で、どうすることも出来ない」
と考えてしまします。そこで「最高の妥協点」を見つける事に集中します。
また、「最高の妥協点」だと響きが悪いので「最適化」といった、いかにもそれらしい名前で呼ばれ、利用される事が多くあります。
ソフトウェアの設計をする場合においても、既存のコードに部分的に手を入れる「最適化」はそれほど難しい作業にはならないですが、効果がたかが知れている場合があります。
しかし、それで満足されることが多いためよく行なわれますが、設計から見直す事が出来た場合、比べ物にならないほどのパフォーマンスを発揮する場合があります。そのような方法というのは非常にシンプルな場合があります。
この本を読んで、一番共感した部分というのは
「物事はそもそもシンプルである」
という考え方です。
「対立」などの問題は、その根源をたどっていくと少数の要素に収束していくという事です。以前の記事の「知恵を絞る」で
この記事に
「どれだけ複雑に見えるものでも、実はシンプルである」
と書いていますが、ここではソフトウェアの設計そのものを見直して改善した例を書いています。
すべての人は善良である
まず、人間というのは
「問題が発生した時、相手のせいにしたがる」
これは、思い当たる所が皆さんにもあるのではと思います。私自身にも以前はありました。
では、相手のせいにした所で問題は解決するのでしょうか。
恐らく、相手との関係が悪化するだけで問題を解決するどころではなくなるはずです。
しかし、明らかに相手が悪い状況というのも存在します。このような場合どのように考えれば良いのでしょうか。
確かに、全ての人と「調和」をとる事は難しいですが、「調和」は存在しています。
では、なぜそれが出来ないのかというと
「調和を取る事について深く考えない為」
です。
では、「調和」を取る事について深く考えるとはどういった事でしょうか。
例えば、部下に「いついつまでに、この仕事を仕上げるように」と言うとします。しかし、それが出来なかった時「いったい何をしていたんだ!」と相手を怒る状況もありえます。
しかし、そこで「なぜ出来なかったんだろう?」と、自分自身に問いかけてみます。
次に「出来る環境を整えてやれなかった自分に問題があるのかもしれない」と考えます。これが「調和を取る事について深く考える」です。
そのように考えれば、相手ではなく自分に非があると考え
「仕事のしやすい環境をつくってあげなければいけないな」
と、気づきます。そうした考えから行動する場合は、相手との「調和」を重んじた行動となるはずです。
つまり、相手の行動に依存するがゆえ「調和」が取れないだけで、すべの結果は
「自分の行動により変える事が出来る」
と考えるべきです。
しかし、このような考え方は
「すべての人は善良である」
と、考えれなければ「調和」をとることが難しくなります。
トートロジー
これは、思考が同じ所をいつまでも、循環する事を意味します。特に、抽象的な事は循環する場合が多々あります。
なにか、考え事をしている時になかなか答えが見つからない事があるとします。このような時は、一度それぞれの考えを分解してみてください。
そして、それらをつなぎ合わせてみた時に、循環していないかどうかを確認する必要があります。
例えば「不景気だから、仕事が減った」と言われた時に、「どうしてそう言えるのかな?」と聞くと、「現に仕事が減ったじゃないか。だから、不景気になったんだよ」と返ってくると、これなどは典型的な「トートロジー」です。
しかし、それでは何も解決する事は出来ません。もう少し具体的な原因を見つける必要があります。
この例だと「不景気」というのが、抽象的な表現ですので別の「仕事が減った理由」を探す必要があります。
つまり、出来る限り抽象的な事は取り除く必要があります。また、コミュニケーションの中で抽象的な表現が出てきた時には、抽象的な部分を十分に掘り下げて問いかけてみると、ほんとに重要な点が見えてきます。
また、抽象的な表現とは別に「~だから」といった表現にも注意が必要です。これは、その「前提条件」自体を疑うべきで、この記事の「道は必ずあると、信じる事」で述べています。
以上の事から
「抽象的表現と、前提条件(~だから)は、安直に受け入れるのではなく十分に考える必要がある」
と、言えます。
最後に
非常に重要な思考を生み出すためのヒントが数多く書かれていますが、その中でも最も難しい考え方は「すべての人は善良である」という考え方だと、私は思います。
これは、他の事柄とは違い「人の性質」自体の変化を必要とする考え方だからです。
つまり、人は少なからず
「他人の不幸を見て悦に浸る性質を持ち合わせている」
と言えます。ことわざにも「人の不幸は蜜の味」といった人間の真理を説いたものがあります。これらは、「人を陥れる事によって自分を守る」といった、考え方と結びつきます。
人としての性質上、無意識に人を責めたりする場合があります。
しかし、人には「理性」という、他の動物にはない考え方を持っています。その「理性」によって「人を責めようとする時」や「自分を守ろうとする時」に、次の言葉を思い出してください。
「すべての人は善良である」
私もこの考えは理解はしていても、なかなか使いこなすことが難しい・・・
ついついネガティブな言葉が出てしまう事があります。
いつの日か、この考えを自然に使えるようになるまで、まだまだ沢山の経験が必要なようです。
そして15年後
ここまで書いてきた、ゴールドラット博士の書籍記事は、一部改変していますが本章の「最後に」まで、15年ほど前のメモに沿って書いています。
この頃から、私の考え方のベースが既に構築されている事が、この記事を読んで頂ければ、理解できると思います。
この15年で成長できたかと言われると、自身ではよくわかりません。
でも、一つだけ自信を持って言えることがあるとすれば
「後悔しない日々が増えた」
と、言えます。年齢を重ねることで、より人生の終わりへと近づき、その中で何が出来るのか、何が大切なのか、そうした問答の中で気づいた大切なことの一つです。
何が出来るのか、ですが、自身が得たものを多くの人へ共有する事が大切かなと感じています。
直接交流を持てれば良いのですが、それは不可能ですので LinkedIn の記事として残せればと思います。
素晴らしい出会いの場と、これからの出会いに期待を込めて、この活動を出来る限り続けていきたいですね。