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書籍【量子コンピューターの衝撃】読了


https://booklog.jp/users/ogawakoichi/archives/1/B08JCY4W84

◎タイトル:量子コンピューターの衝撃
◎著者:深田萌絵
◎出版社:宝島社


量子コンピューターが実現した世界はどうなるのだろうか?暗号化に意味がない世界は一体どんな社会なのか?
本書の前半部分は、タイトル通り「量子コンピューター」の技術的な解説部分となっている。
文系にも分かりやすく解説したとのことだが、ある程度の素地がないと、この解説だけでは難解だっただろうと思う。
私自身は他の書籍でも量子コンピューターについて読んでいるので、辛うじてここまではついていけたという感じ。(もちろん完全に理解している訳ではない)
量子コンピューターの課題や、現在の古典的コンピューターの限界についても理解できたので、本書の解説部分としては意味があったと思う。
古典的コンピューターは今でも「ムーアの法則」に従って進化を続けているが、そもそもの計算方式が変わっていないために、暗号を解くことや素因数分解などの総当たり的な計算方法については苦手とするところだ。
決して計算が解けない訳ではなく、総当たりで計算するために、とにかく時間がかかる。
計算で1年かかると言われたら、それでは実用に耐えられない。
そこを一足飛びに超えていくのが量子コンピューターなのだが、「絶対零度」という極寒の状態で動作するために、実現まではまだまだ時間がかかりそうだ。
しかし、その間をつなぐ技術もあるというのは初耳だった。(単に私の勉強不足なだけなのだが)
「シリコンフォトニクス・コンピューター」という名称も今回初めて知ったくらいだが、室温で使える光コンピューターという技術には大きな可能性を感じてしまう。
完全な量子コンピューターが完成せずとも、計算処理を増して、我々の生活を益々便利にしていけるというのだ。
そして、そんな技術の進化の先に、量子コンピューターの実現が待っている。
何年先になるかは分からないが、量子コンピューターが一般的に利用できる状態になった時、世界がどう変わるのかが問題だ。
「つまり、超最速のコンピューターが実現されたら、我々の生活は一体どう変わるのか?」
まずは、現在の「暗号」が意味を成さなくなり、「秘密」そのものが世界から消えることを意味するという。
こういうことを考えもしなかったが、改めて考えてみると恐ろしい世界だ。
確かに未来は、リアル世界も含めたあらゆることがコンピューターで処理される世界になるだろう。
すでにスマホを肌身離さず持っているだけで、自身の行動データから、何のアプリを使い、何を検索したかまで全てが把握されている。
それがAppleなのかGoogleなのか、テックジャイアントにあらゆる個人データが握られているという状況なのだ。
これが未来になればなるほど、これから生まれてくる人たちは、自分自身の人生データの何から何までをテックジャイアントに記録されるということになる。
そんな状況で「私だけが知っている」などというプライバシーが存在することは、現実的にあり得ない。
すべてのデータはクラウド上で最速コンピューターを使用し処理されて、勝手に分析されていく。
そのデータを消すことも出来ないし、隠すことも不可能だ。
もちろん逆にテックジャイアント側では、いくらでもデータの操作が可能となる。
ある情報だけが都合よく流され、あなたを誘導してくるだろう。
ある情報は都合よく隠され、あなたが疑問を持つことすらない状態を作ることだろう。
今のヘイトスピーチや間違ったプロパガンダの流布どころの問題ではない。
もうすでに、我々はテックジャイアントに命を握られていると言っても過言ではない状態なのだ。
やろうと思えば、個人の存在をすべて消すことだってできる。
「インターネット上で存在が消えたとしても、リアルでは残るはずだ」と思っても、果たしてそうなのだろうか?
リアルの世界だけで単独で成立しているものを、あなたはどれだけ持っているのか?
あなたの存在を証明するものは、戸籍でも住民票でも、現在はすべてコンピューター化されてデータベース化されている。
お金だって銀行に預けている以上、すでに「ただのデータ」と言える。
身体そのものはあなたのものでも、データからは逃げられない状態ではないか?
そして、現在はそれら全て「暗号」が存在しているから、成立している。
つまり「暗号は解かれない」という前提があるから、あなた自身が成立しているとも言える。
もしそれらが最速コンピューターによって、全て簡単に解かれてしまうとしたらどうだろうか?
暗号をかけることに意味がない社会は、鍵がない家と同じ状態だ。
私物が盗まれるだけでなく、プライバシーすらも全くないということになる。
「そんな社会になるはずがない」とお花畑思考で夢の世界に逃げることは可能だ。
しかしほんの少しだけでも考えてみてほしい。
そういう社会にはならないと、本当に言えるだろうか?
データを牛耳るテックジャイアントが、もし悪意を持ってしまったら?
今すでに、テックジャイアントを影で支えているのは、中国という大国だ。
世界の中心に返り咲きたいと、心の底から願っている大国の思惑を考えるとどうだろうか?
単純に「なるはずがない」と切り捨ててよいものだろうか?
米中戦争は貿易だけに留まる話ではない。
まさに世界を牛耳る思惑と、牛耳られないように防御する国家間の覇権争いと見えないだろうか?
現実的にこうして、目に見えないインターネットの世界で、ものすごい攻防が繰り広げられているのである。
期せずしてコロナ禍によって、外出は大きく規制され、実生活でのインターネットへの依存度が大幅に高まってしまった。
それに伴って、キャッシュレスとなるデジタルマネーも浸透し、あらゆることのデータ化がまた大きく前進した。
一見すると生活が便利になったということだが、この文脈で考えてみると、国防の観点からしても手放しでは喜べない。
ある社会主義者が目指す理想の世界が、量子コンピューターの実現によって達成の可能性が高まってしまう。
我々は今そんな世界に生きているのだ。
自由に生きているようで、実は命そのものを握られている状態なのだ。
こんな社会で、我々自身はどうやって幸せに生きていくのか。
その問いに私自身今は最適な答えを見出せない。
しかしまずはこの「衝撃」の意味を、もっと真剣に考えた方がいいと思う。
量子コンピューターの実現によって、世界が大きく変わるとはどういうことなのか。
お花畑思考を捨て去り、我々の幸せの意味を考えろということなのだ。
(2023/7/8土)



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