書籍【ワークマン式「しない経営」】読了
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◎タイトル:ワークマン式「しない経営」4000億円の空白市場を切り拓いた秘密
◎著者:土屋 哲雄
◎出版社:早川書房
ニッチ市場を愚直に攻めて磨き続けた。そして、新たな金脈や勝ち筋を見つけ出したのだから、本当にすごい。
「どこの市場を、どうやって攻めるか」を徹底的に考えるのは、どこの企業でも当たり前にやっていることだ。
しかしながら、もし空白地帯を見つけたとしても、それは攻める市場と言うことではなく、需要がない市場なのかもしれない。
その見極めは本当に難しいし、もし試しにそこを攻めたとしても、途中でブレずに、やり切れるのかという課題もある。
最近はリーンスタートアップに代表されるように、小さく早く始めてみる、というのが主流になっている。
そういう点では、空白地帯を見つけたら、一度小さく攻めてみるのも、手なのかもしれない。
しかしながら、とりあえずという形で、戦略なく試してみても、そこで成功する確率は非常に低いだろう。
ここをどうやって戦略として組み立てていくか。
本書は、ビジネス上の攻め方を学ぶ点で、非常に参考になる。
ワークマンの場合は、短期で経営を考えていない点が特徴だと思った。
5〜10年後の自分たちのありたい姿を想像し、そこを目指して行動していく。
当たり前のことであるが、意外とできないものである。
進めている段階で結果が出ないと、我慢できず別の方法を試したくなってしまうからだ。
つまり、戦略がブレてしまうということ。
ワークマンのように、愚直にニッチな市場を究めるのも、本当に難しい。
ここまでポジションを確立できたのは、忍耐強く続けた結果だ。
よくぞこの空白市場を見つけ出したものだと思う。
ワークマンは、元々職人が仕事で使用する作業服や、手袋・靴などを提供する会社だ。
アパレルというジャンルには含まれないため、この時点ですでに、ものすごくニッチな市場を攻めている会社ということになる。
顧客が購入する時間帯は、大体朝早くだという。
職人が仕事前に車で乗り付け、値札すら見ずに購入していく。
だから、昼間には職人は店を訪れない。
こういうところも、通常のアパレル店舗とは全く異なるところだ。
作業着だから、ほとんど消耗品。
しかしながら、耐久性も必要で、何度も同じものを購入するのであれば、低価格であることが前提となる。
だから顧客は購入時に値札を見ない。
顧客側のこれらの購買行動を見ただけでも、あまりにも特徴的だ。
そして、作業着だから、流行に左右されない。
サイズは揃える必要があるが、過剰に色違いを揃える必要もない。
何度も同じものを購入してくれるから、季節を持ち越して在庫を持っても、次の年も売れる。
在庫処分のためにセールする必要がない。
そもそも低価格ではあるが、年間通じて定価で売れるから、利益率が一定に保てる。
このように、商品ラインナップ、在庫戦略があまりにも特徴的過ぎるため、通常のアパレルショップとは一線を画している。
最近は、低価格で耐久性という特徴が、職人以外の人たちにも広がって、ワークマンの好成績を押し上げている。
作業現場で使用するだけでなく、キャンプグッズに転用できたり、釣りなどアウトドアにも転用できることで、流行り出したのだ。
ワークマンのエプロンは、薪ストーブで火の粉が飛んでも穴が開かないということで、SNSを中心に話題が広がった。
このような例から、職人以外にも需要があると「ワークマン女子」という別店舗をオープンさせたり、デザイン性が優れた商品ラインナップを増やしたりしたのだという。
ここは、本書内ではまだまだ試行錯誤ということで記載されていたが、2024年秋時点で全国で60店を超える店舗数となっている。
今後も出店攻勢をかけるらしいので、この数年で100店舗くらいは軽く行きそうな勢いだ。
ここまで絶好調だと、ついつい広告宣伝を大々的に打ちたくなるが、そこは敢えてしない戦略を取っているのだという。
かつては吉幾三氏がワークマンのCMキャラクターだったが、今はテレビCMの出稿は行っていないらしい。
元々SNSから火が付いたというのもあり、敢えてマス向けの広告宣伝は打たないようにしているという。
当然、マス広告を打てば、巨額の費用がかかるため、低価格を維持するのは難しくなる。
マス広告を打たずに、インフルエンサーと共同で商品開発する戦略を取っているのが特徴だ。
ここも、よく練られた戦略と言える。
インフルエンサーにオピニオンリーダーになってもらい、開発した商品をSNS発信してもらう。
結局、ワークマンの服や靴なども、利用されてこそ価値があるものだ。
インフルエンサーが実際に使用して、それを忖度なく若干のマイナス面も指摘しつつ、プラス面をアピールしていく。
今の顧客は、どんな物でも、よく商品を調べてから購入しているため、一番の利用者であるインフルエンサーとのコラボは正しい戦略と言える。
企業とユーザーを、どういうツールを使って、どうやってつなげていくかが、これからのマーケティングのカギとなっていくのは間違いない。
ファンを増やすことが如何に大事かということだが、昔ながらのやり方で成功した企業こそ、考え方の切り替えができずに苦労している。
時代はとっくに、企業と顧客との相互コミュニケーションになっている。
企業側が思考を変化させていく必要があるのだということを、改めて感じてしまうのだ。
本書内では、いくつかのキーワードが紹介されているが、非常に大事なポイントだと思う。
特に印象的だったのは、①「しない経営」、②「エクセル経営」、③「両利きの経営」だ。
無駄を省くのは当たり前であるが、徹底できている会社は意外と少ないと思う。
部下からすると「これは無駄な仕事だ」と思うことも、上司はそう思っていない。
本書内でも例として記載されていたが、「上司が思いつきで部下に指示をする」は、無駄な仕事が表面化されずに埋没される典型例だ。
上司はこのことに気付けない。だから、思いつきで部下に指示することは一向に無くならない。
上司側は相当に意識して、部下に指示しないことが大事なのだ。
Excelのエピソードは面白かった。
データ分析とほとんど無縁の会社が、まずはExcelから始めてみたという。
逆に言えば、今まで何も無かったのだから、Excelを使うだけでも充分効果が出たという。
ポイントは、みんなで使い方を学んで、改善の話し合いをしている点だ。
Excelファイルをみんなで見ながら議論すれば、中身のデータについて「この集計したら、こういう結果が出た」という分析の話もできるし、「もっとこういう機能を追加したらどうだ」という活用の話もできる。
結局、便利な道具も使いこなせなければ意味がない訳で、それをメンバーで協力して切磋琢磨していくのは効果的だと感じた。
現在ではだいぶ社内浸透したようで、仕事に自信がなかった担当者が、Excelを駆使することで、自分なりの得意技を見つけて戦えるようになったという。
小さなことかもしれないが、これは本当に素晴らしいと思う。
「両利きの経営」は、どこの会社も目指していることだと思うが、何より実践が難しい。
深化と探索を1つの会社内で両立させるのは、経営の覚悟が実はすごく大事。
本書内で個人的に響いた言葉は、次のものだ。
「売上利益増を社員に言っても響く訳がない。経営者の都合だからだ。社員の給料を『5年で100万円上げる』と宣言した」
確かに「売上を5年で〇倍にするぞ」と言っても、それは株主に対しては有効かもしれないが、従業員にとってはあまり関係ない話だ。
会社を増収増益に持って行きたいならば、それこそ経営が株主に対してだけコミットすればいい。
経営が従業員に対してコミットすることは、従業員が直接の利益になることでなければ、宣言する意味がない。
給与でもいいし、福利厚生でもいいし、職場環境の改善でもいい。
そういう視点を経営が持つこと自体に意味があると思う。
製品を大量生産して大量販売する時代はとっくに終焉しているはずなのに、なかなか発想の転換ができないでいる会社が多いと思う。
それでも倒産せずに生き残れているのであれば、それでいいかもしれないが、果たして本当にサステナブルと言えるだろうか。
生き残りたければ、変化するしかない。
つまり、既存事業を徹底的に極めながら、新規事業に挑戦し続けろということだ。
新しい挑戦をしない限り、業績はいつか頭打ちになる。
社員の給料を増やすという約束は、社員たちに挑戦を促すことにも繋がる。
社員全員を、経営に参画させる仕組み作りが上手いと思った。
当社でも真似できる部分があるはずだ。
是非、考えていきたい。
(2024/10/8火)
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