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書籍【半導体有事】読了

https://booklog.jp/users/ogawakoichi/archives/1/B0C2PJWJ9X

◎タイトル:半導体有事
◎著者:湯之上 隆
◎出版社:文春新書


「それぞれの人が、それぞれ勝手な解釈をして、上っ面の議論をしているだけのように見える」
筆者の悲痛な叫びがダイレクトに伝わってくる。
私自身も、本当に身近でよく見る事例だ。
正しく理解していない人が、浅い知識のままで勝手な解釈をする。
浅いから、もちろん上っ面の議論にしかならない。
これは本当に大きな課題だ。
これだけ複雑化した社会の中で、あらゆる知識を持ち得るなんてあり得ない。
だからこそ、分からないことがあれば自分でも勉強しなければならないし、その道の専門家が近くにいれば、相手の意見を謙虚に聞けばよい。
しかし実際には、それが簡単にはできないという話だ。
ここまで書いていて、いざ自分自身を振り返ると、私はできていたのだろうかと疑問を持ってしまう。
きっと場面場面で、勝手な解釈をしていたことがあっただろう。
もちろんわざとではなく、その時の私は無自覚に行っていたということだ。
無自覚だからこそ、自分が上っ面な議論をしていたことにも気付けない。
どこまで自分を客観視しようとしても、「自分の意見」という主観である以上、その意見が勝手な解釈なのかどうかを自ら見極めるのは相当難しい。
これこそ、他人との議論の中で、健全に意見交換して、適切なフィードバックをもらって自らを省みるしかない。
様々なことを思ってしまったが、この「半導体有事」はものすごく学びがあった。
こういう識者の考察を読むと、やはり日常のニュースだけでは拾えない情報があると感じてしまう。
半導体の課題については、様々なメディアでも語られているが、「そもそも」みたいな話は限られた時間内での解説が難しいため、どうしても省略されてしまう。
しかしながら昨今の物事の課題然り、この半導体の問題については本当に根が深い。
単純にサラッと勉強して済む話ではない位、日に日に複雑化が増している。
半導体については、実際に理解しようと思うと、物理と化学の知識も必要となる。
さらに、製造するための複雑な工程の理解。
またさらに、半導体を製造するための機械の理解。
そして当然だが、それぞれの材料の理解。
これらをどうやって調達しているのか、というサプライチェーンについても理解する必要がある。
半導体製造は、それ自体が複雑な工程ゆえに、必要な材料の種類も、最先端になればなるほど増えていく。
その増えた材料を使って、どのようにして微細で複雑な製品を量産するのか。
その量産に至るまでに、半導体製造のどこの部分をどの国が握っているのか。
(もちろん、その切り札と言えるカードの複数枚を日本が握っているのも事実だ)
そういう詳しい状況のすべてをたった数分間のニュースだけで理解することは、相当に無理がある。
現在は、台湾のファウンドリー企業TSMC社が、先端半導体製造の世界シェア60%を占めているというが、なぜそんなにもTSMCに集中してしまったのか。
確かに先端半導体の最終製品を組み立てられる技術を持っているのは、TSMCかもしれないが、その製造装置を作っているのはオランダのASML社ということも、本書を読むまで知らなかった。
さらにそのASMLは、最先端の半導体製造装置を作れる唯一の企業だそうだ。
つまりシェア100%と言っても過言ではない。
これは一つの例であるが、半導体製造とは過去からの技術の積み重ねであり、TSMCに集中しているように見えて、実はASMLに集中しているとも言える。
そして、製造に使用する材料で見れば、世界シェアを日本企業が押さえている部分も多くある。
例えば、半導体チップの素となる円盤状の材料である「シリコンウエハー」の世界シェア50%は、日本の信越化学工業とSUMCOが占めているという。
フォトレジスト(光が当たると性質が変化する感光性材料)についても、日本メーカー5社で世界シェア90%だという。
つまり、半導体製造については、どこか1社が独占しているように見えて、世界の叡智の総力戦で作られているものなのだ。
だからこそ、半導体サプライチェーンの構築は、益々重要になっている。
当然そうなると、国家間の政治的なパワーバランスも絡んでくるわけだ。
米中対立によって、民主主義陣営は中国包囲網をどう構築するかを模索している。
しかし、中国を締め出すことが、本当に最適解なのだろうか?
これだけ複雑化した半導体サプライチェーンを考えた上で本書を読み込むと、様々な思いを巡らせてしまう。
現在中国は、自国で半導体を製造できる体制を整えようとしているが、どうなるかはまだ分からない。
もちろん、一気通貫で全てを自前化することは相当難しいことは確かだ。
それでも最先端の半導体をどう抑えるかは、国家安全保障にも直結する話のために、それこそ駆け引き綱引きが日々行われている状況なのだ。
だからこそ、本書を読み込めば読み込むほど、著者の焦りがすごく伝わってくる。
2024年の現在、日本国内で半導体新工場の稼働ラッシュが起こっている。
日本も国内製造を増やすべく進めている訳であるが、著者いわく、このやり方には相当無理があるという。
現状の日本の持っている技術では、目指している2nmの半導体を作ることは、ほとんど不可能だからというのが、その理由だ。
これも説得力ある解説で、ものすごく理解できた。
せっかく装置や材料の部分で、世界的にも優位な部分があるのだから、その技を磨き続けた方がよいということ。
むしろ磨き続けないと、今後の状況次第では安泰ではない、と著者は憂いている。
私のような半導体素人でも理解できただけに、これからの未来がどうなっていくのか益々心配になってしまう。
ついついソフトウェアの進化の方に目が行ってしまうが、実は半導体というハードの進化もきちんと追いかける必要があると感じた。
間違いなく、今後も半導体の需要は増え続ける。
逆に言えば「半導体無くして生活が成り立たない」という表現が過言ではないくらいだ。
それぐらい、半導体は生活の中に浸透していく。
そして、ユーザーからすれば、その存在に気付かないくらい自然なことになるだろう。
あたかもそれは魔法のように、あらゆる電化製品や車が工場の機械がネットに繋がり、意識しない内にとんでもなく便利になっていく世界だ。
私自身は技術者でもないし、理系でもないために、今まで興味が薄かったのは事実だ。
ファブレスとファウンドリーとOSATの違いも正確に理解していなかったのだから、恥ずかしい限り。
しかし、私のような人も実際には多いと思う。
半導体は原油を超える「世界最重要資源」なのだという。
知らなかったことを少しでも学べてよかった。
また機会を見つけて、半導体に関する書籍を読んでみたいと思う。
(2024/9/4水)


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