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書籍【スパコン富岳の挑戦~GAFAなき日本の戦い方】読了

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◎タイトル:スパコン富岳の挑戦 GAFAなき日本の戦い方
◎著者: 松岡 聡
◎出版社:文春新書


本書での著者の語り口は非常に静かだ。しかしその行間から、裏側に潜む熱量がビシビシと伝わってくる。
結局、大きな物事を成し遂げるには、たゆまぬ努力と、溢れんばかりの情熱が必要ということか。
著者は間違いなくコンピューターの天才で、現在も日本のスパコンを牽引している第一人者だ。
著者なら日本でGAFAのような企業を作れたのかもしれないと思ってしまった。
本書の語り口は相変わらず淡々としているのだが、子供の頃のエピソードは、それだけで胸熱(ムネアツ)な内容だった。
任天堂の元社長の岩田聡氏(読みは異なるが、偶然名前の字が著者と同じである)との出会いから、一緒にプログラムの腕を競って過ごす日々のエピソードは本当に素敵だ。
二人の天才が、同じ時期に同じ場所で過ごしたのだから、このエピソードを知るだけでも感動してしまう。
兄のようであり、ライバルであり、親友のような関係。
二人とも、コンピューターの未来に夢を感じて、そこにドップリと浸かっていく。
何がなんだか分からなくても、ガムシャラに仲間同士で切磋琢磨することは、人生で本当に貴重な時間だと思う。
そんな日々を過ごせたことを羨ましく思ってしまう。
(私にも仲間たちと過ごした貴重な時間があって、それが間違いなく人生を豊かにしてくれたと感謝している)
今の日本の子供たちが、全員同じような経験をできる訳ではないと思うが、少なくともスゴイ仲間との出会いが、人を成長させてくれることは間違いない。
本書の中では、様々な天才たちとの出会いが語られている。
それは「並列処理のスパコンを創りたい」と願う著者の気持ちに賛同して、未知なるものに挑戦するために集まる人たちだ。
結局人は、夢や情熱に引かれて集まってくるものだ。
今さら当たり前のことだが、改めて意識しないと忘れてしまう気持ちでもある。
大人になればなるほど、熱は冷め、ついつい効率を考えて省エネで動こうとしてしまう。
若い時は、そんなことも考えずに、無我夢中で動いていたのに。
もしかすると、当時は無駄な動きも多かったかもしれない。
しかし、逆にAIには無駄が一切ないのだから、その動きこそ人間らしいとも言えるのではないか。
これからAIの進化が益々加速していく中で、人間が機械に勝つためには、無駄な動きも含めた「無我夢中の熱量」が大事な気がするのだ。
確かに、日本は国際競争力がジリジリと下降しており、先行きが危ぶまれているかもしれない。
さらに、デジタルやインターネットの世界では、負け続けているかもしれない。
しかしながら、それを指をくわえて見ているだけではない人たちがいる。
限られた資源の中でも、何とか知恵と努力で創意工夫して、日本的な戦い方で挑んでいる人たちが多数いるのだ。
1人だけで戦うのは難しいかもしれないが、仲間がいれば、協力して諦めずに挑み続けられるだろう。
ワイワイガヤガヤと切磋琢磨できる環境を、どうすれば整えられるか。
そういう環境づくりをすることこそが、我々大人たちの使命なのだと思う。
凄いことに挑戦しようと思っていれば、自然と仲間が集まってくるものだ。
机に座って黙々と会話もなく作業しているのではなく、お互いが高め合える環境作り。
スティーブ・ジョブズは、オフィスの設計に何よりもこだわっていたというのも有名な話だ。
私も、そういう職場づくりを目指したいと思っている。
人間だからこそ持ち得る特長を磨きに磨いて、これからの未来に備えたい。
そのためにも、無我夢中に情熱が傾けられるものを見つけることが重要だ。
日本発のスパコンが世界を圧倒したら、それはすごいことだと思う。
著者のように、一生を捧げられる仕事に出会えたなら、それはとても幸せなことだ。
本書は「限られた環境の中でどう戦うか」という指南書とも言える良書だ。
GAFAが無い日本の環境の中で、デジタルの世界でどう戦っていくのか。
確かに任天堂は世界企業にまで成長した訳だし、何らかの戦い方を見つけられるはずなのだ。
それを諦めずに探索することが、未来を切り開いていくと信じている。
(2024/10/19土)


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