見出し画像

書籍【スティーブ・ジョブズ 世界を興奮させる組織のつくり方】読了

https://booklog.jp/users/ogawakoichi/archives/1/B07HC8CRWV

◎タイトル:スティーブ・ジョブズ 世界を興奮させる組織のつくり方
◎著者:桑原晃弥
◎出版社:朝日新聞出版


ジョブズ氏が世界を変えたのは事実だが、たった1人で成し遂げた訳ではない。どうやって仲間と実現したのか。
伝記などではどうしても「ジョブズがすごい」という切り口で話が進むために、ジョブズ氏が考えていた組織論までに話が及ばなかった。
そういう意味では、切り口として非常に面白い。
(そしてページ数も少ないため、非常に読みやすい)
ジョブズ氏の伝記で語られる内容は「変わり者」であり「気分屋」という表現が多いために、どうしてもアーティスト感が前面に出ている印象だ。
もちろん数々のエピソードが残っているので、そういう面もあるし、事実なのだろう。
一方で、ジョブズ氏自身は「どうすれば、イノベーションを生み出せる組織を作れるか」を真剣に考えていたということだ。
これは意外だった。
ジョブズ氏自身が語ったであろう言葉が複数紹介されているが、これには心が熱くなる。
「作ろうとしたのは、素晴らしい製品ではない。世界を変えるような素晴らしい製品を作れる組織のことだ」
この言葉は、ジョブズ氏が亡くなった今でもAppleが健在なことが、それを証明していると言えるだろう。
変わり者と言われながらも、結局は会社の人を動かして、ものすごい製品を作るのだから、チームプレーができているということだ。
当然、メンバーの中から優秀な人材を引き上げることにも、最大限に力を注いでいた。
これも伝記の中で語られるエピソードであるが、「人たらし」の一面があったことも、周知の事実だ。
伝記内では印象的な部分だけクローズアップされているが、おそらく日常的に社員の働きぶりを観察していたのだろう。
当人の能力を見極めて、それを最大限発揮できているかを図り、最高に力を発揮させるためには、何が必要なのかを考える。
iPodにしても、iPhoneにしても、今まで世の中になかったものを作らなければいけないのだから、社員の想像力&創造力を最大限に引き上げるのは当然のことだ。
しかし会社が大きくなって組織になると、メンバーを管理しようとする力が働いてしまう。
そうなると、組織を維持するための仕事が増え、純粋にクリエイティブな仕事をする割合がドンドン削られてしまうのだ。
これは私自身にも経験があることだが、「これは誰の何のための仕事なのか?」という、謎の業務が増えたりする。
短時間で終わって、手間もかからなければ、「しょうがない」と思って作業をするのだが、実は積もり積もって、一日の大半をこの作業に費やしていることすらある。
本当に無駄な仕事と思うときもあるが、それではなぜ無駄と思える仕事は増え続けるのか?
これこそ、人間の習性と言えるのかもしれないが、本当に謎である。
これも本書内に記載されていた、ジョブズ氏の言葉であるが、妙に腹落ちした。
「すぐれた企業は、ボートに乗った1人の号令の元で8人が懸命にオールを漕ぐ。一方、管理職だらけの企業では8人が号令を発し、漕ぐのは1人だけ。そして競争に敗れると、8人はその1人に『もっと頑張れ』と檄を飛ばす」
まるで自分の会社を見ているようで心苦しいが、こうなってはいけない。
当たり前だが、これでは生産性が上がる訳がない。
しかしながら、組織とは得てして「号令8人、漕ぐのは1人」になりがちだ。
この状況をひっくり返すのは、現場レベルでは相当に難しい。
会社を作った最初から、「8:1」になっていた訳ではない。
小さい組織の時は、もちろん「1:8」の状況で、会社が大きくなるにつれ、「2:7」になり「3:6」になりと、徐々に管理者が増えていくのだ。
会社の拡大に合わせて、必要があって変化している訳だから、働く社員もこの状況を許容している。
こうして少しずつ変化し、いつの間にか「号令8人、漕ぐのは1人」になってしまっているのだ。
この状況になってから、元の状態に戻すのはかなり難しい。
だからこそ、経営トップや人事のトップが、最初から意識して「健全な組織の人数」を決めて、それを維持しなければならない。
ここは「創造的な組織」に対するセンスが必要な部分なのだろう。
日本の会社では、苦手な部分のように感じる。
「和を以て貴しとなす」が、裏目に出ている部分かもしれない。
同じような仕事を、全員で仲良く合議制だけで進める必要はない。
それこそ「号令8人、漕ぐのは1人」の状況では、号令者の8人は「みんな仲良く」で進めているような錯覚に陥ってしまう。
しかし、当然全体としての生産性は著しく低くなってしまう。
「『いい部下、悪い部下』はいない。いるのは『いい上司、悪い上司』だけだ。」
というのも、本書内に出てくるジョブズ氏の言葉だ。
生産性を上げるために、組織をどう作るか。
これは、社屋(オフィス)の設計にも、その思いが詰められている。
生前ジョブズ氏がApple社で最後に行った大仕事は、宇宙船とも呼ばれている本社の社屋「Apple Park」だという。
ジョブズ氏は、常日頃「どうすれば、社員がクリエイティブな仕事ができるか」を考えていた。
ピクサーのメイン社屋「Steve Jobs Building」も、ジョブズ氏が設計にアレコレと口を出し、考え抜いて建設されたものだという。
お互いに顔を合わせて議論がしやすいような設計になっており、人に合わないとトイレまで行けないように、その位置にまでこだわったという逸話もある。
経営者がここまで考えていることも少ないと思うが、果たして日本企業では、オフィスの設計に企業の理念を詰め込んでいる人がどれだけいるのか。
やはり、一歩先、十歩先を見据えて仕事をしている人物は、器が違う。
ジョブズ氏が亡くなったのは2011年で、それから13年以上が経っているが、日本企業が追い付ける状況になったとはとても思えない。
そういう意味では、ジョブズ氏がいなくても自走しているApple社はすごい。
「世界を変えたいと思っている人のために、世界を変えるようなコンピューターを作りたい」
これもジョブズ氏の言葉として紹介されているが、非常に奥深い。
確かにMacintoshやiPhoneを使って世界を変えている人が多数いる。
これからも益々世界は変わっていく。
その時に我々はどうするのか。
今の状態のままでは、とても生き残れない。
我々はどうしたいのか。もっと真剣に考えた方がいい。
私自身がそう思っている。
(2024/9/21土)


いいなと思ったら応援しよう!