書籍「ラジオじゃないと届かない」読了
<小川のブクログ・レビュー>読了:2023/4/8土
◎タイトル:ラジオじゃないと届かない
◎著者:宮嵜守史
◎出版社:ポプラ社
「ラジオじゃないと届かない」ということは、反面「なぜ、ラジオだけは届けられるのか」と考えられないか?
本書を読みながら、ラジオに対する著者の熱い思いが伝わってきた。
「結局、ラジオって何なんだ?」
これを問い続けながら番組を作り続ける名プロデューサーの葛藤。
確かに我々が扱っているエンタテインメントは、一般の企業が行っている仕事とは異なる部分があるのかもしれない。
感覚的には「エンタメの仕事だからこそ」という部分が確かに存在する気はする。
しかしながら、それが何かと問われると、明確に答えられない自分がいる。
前述の「ラジオとは何か?」だけでも、考えだすと深いのである。
結局、そんな夢のような、陽炎のような、あやふやな部分を追い求めているのが我々なのかもしれない。
だからこそ、日々葛藤を繰り返しているのかもしれない。
思いが強過ぎることを仕事にするには辛すぎる。
それが嫌で職場を去って行った人も、少なからず過去には存在する。
一方で、「心底好きだから続けられる」のも、また真実だったりする。
本当に不思議なメディアだ。
「なぜラジオだと、リスナーにこんなにも深く刺さるのだろうか?」
色々な考察は過去になされている。
「身近に感じるからだ」とか、「自分だけに話しかけてくれているみたいだから」とか。
「秘密を共有しているみたい」というのも聞いたことがある。
おそらく、そのどれもが正解であるのは間違いない。
そんな理由よりも何よりも、「届けたいからラジオなんだ」という堂々巡りみたいな話の方が、逆に腹にストンと落ちたりする。
この名プロデューサーとパーソナリティの情熱が電波に乗って、リスナーに伝播していく。
なんだか理屈じゃなく、それだけで良いような気がする。
いくら説明したって、ラジオを聞かない人は聞かないし、面白さを伝えても絶対に理解はしてもらえない。
ラジオを聞いてなければ、その面白さを理解しようがないからだ。
色々な制約があるメディアにも関わらず、熱量が1度も2度も高いのがラジオなのか。
最近の殺伐とした社会だからこそ余計に感じてしまう。
結局、我々は温かいところを求めているのではないだろうか。
冷たい部屋に帰りたくないし、冷たい布団で寝たくはない。
冷たい空気の会社で働きたくはないし、冷たい人とは付き合いたくない。
理屈抜きに、ラジオは温かいのだ。
本当になぜか温度を感じるのだ。
ラジオ放送が世の中に誕生して、すでに100年を超えている。
温度を発し続けている限り、このオールドメディアはしぶといし、なかなか廃れないと思う。
この名プロデューサーの情熱の炎は、そんな簡単に消える訳がない。
本書を読んで、単純に仕事への向き合い方についても考えさせられる。
熱量が無いと、自分も働けないし、周囲を巻き込んで協力してもらうことも適わない。
もちろん送り手であるはずのプロデューサーも、周囲の様々な人から熱量を受け取って自分の燃料の一部にしている。
やっぱりラジオって面白い。
ラジオじゃないと届かない理由は、心の中でちゃんと分かっている。
温かかくて心地よいことは、本能が求めているということなのだ。
(2023/4/8)