![キービジュアル](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15264548/rectangle_large_type_2_3fc228116741e183a47c74ce4153a5ae.png?width=1200)
「確率思考の戦略論」で紹介された需要予測Excelでできる説
このnoteは確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力で紹介された数式の実装法を解説するものです。
ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル
確率思考の戦略論を含めた森岡氏の書籍はシリーズ20万部以上売れているそうです。(書籍の帯の記載による)マーケティングを科学する執念が別格だからだと思います。私が最も感嘆したエピソードがハロウィーン・ホラーナイトの成功でした。
注力すべきターゲット消費者(WHO)を独身女性に定め、彼女たちがハロウィーンに本当は何を期待しているか?インサイトを捉えて導いた打ち手(HOW)のハロウィーン・ホラーナイトによってWHAT、WHO、HOWが合致し、前年7万人に対して、2011年10月のハロウィーンは40万人の集客となったそうです。多くのマーケターはこのケーススタディのWHOやHOWの秀逸さに着目したのではないでしょうか?私は10月に注力するというWHATを数理モデルから導いたことに価値があると思います。もともと、10月はUSJ最大の需要期であり、閑散期の1~2月や5~6月のほうが伸びしろと捉えがちですが、ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルによって10月のほうが伸びしろがあると捉え、前年7万人だったハロウィーンの集客を倍の14万人以上にできると予測し、そこに注力する戦略(WHAT)を打ち出せたから成功したのだと思います。
ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルとは、最近いつ買ったか?訪れたか?食べたか?などのアクションを行ったタイミング(リーセンシーデータ)から、アクションの確率分布がわかる分析です。本noteでは関数を組んだExcelシートを用いた分析手順を紹介していきます。
NBDモデル(おさらい)
NBDモデルについて思いだしていきましょう。消費者のプレファレンスは下記のNBDモデルの式のパラメーターMとKによって決定されるものでした。
![NBDモデル](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/25087321/picture_pc_c9a5bac51ad5afa352d538239e61aedd.png?width=1200)
(同書P59 より引用)Mは、自社ブランドを全ての消費者が選択した延べ回数を消費者の頭数で割ったものです。
(同書P60 より引用)Kは、消費者の購入確率がどのような分布の形になるかを決めている指標です。
USJの2015年の来場数にあてはめる。
この記事によると、USJの来場数は2015年:1,390万人だったそうです。①
この記事によると、USJの2015年3月期の売上は1,385憶円だったそうです。②
このブログでは(TDLの)全入園者数に占める年パス所有者の延べ入園数はおおよそ20~30%前後ではないかと推測しています。また、USJの年間VIPパスは¥37,800で1DAYパス5回でほぼ元が取れそうな価格設定です。
これらをヒントに、USJに年間5回以上行く方は、全利用者のうち20%ではないか?と考えてみます。③
①②③の3つの情報とExcelの最適化計算ツールのソルバーを用いた計算でMとKを求め、2015年のUSJの顧客の構造を把握します。
同書においても、計算ツールとしてExcelソルバーを用いていることが書かれています。2015年の来場数と2015年3月期の売上は厳密には対応しませんが、ここでは厳密にこだわらず簡易的に分析していきます。
まず、Mを求めます。日本全国の人口から0歳から3歳(USJは無料)を引いた人口が123,997,000人です。2015年のUSJ来場人数(のべ)が13,900,000人なので、M=0.112となります。関数を組んだExcelシートは水色のセルの値を任意に入力し、ソルバーで可変させる想定です。
母集団人数とMと、暫定で購買単価7,600円(1日パスの料金)を入力しており、Kは適当に0.1~0.5まで可変させています。Mは一定ですが、Kが変わることで、回数ごとの浸透率が変わり、上部のグラフ、D列の人数とE列の購買回数の合計の値も変化します。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15268601/picture_pc_11343a57760d4471ca2d8f06430f6e38.gif?width=1200)
上部のグラフの右端の11は11回の浸透率ではなく、回数11回~100回までの浸透率の合計値です。USJの事例では「1年間」の浸透率を求めるものとしています。
26行めの右端の購買金額合計(ここでは年商)が1,385億円ではなく、1,056億円となっています。おそらく、1日パスの料金だと一人あたりの購買単価が少ないのだと思います。また、1年間に5回以上利用する方も少ない気がします。
D24セルで5回以上利用した人数の合計値を求め、年1回以上の利用者に対する割合をC24セルで求める関数を入力しました。Kが0.1のときは、2.381%でした。
![USJ画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15267763/picture_pc_e9560bbe7beb7d55adbc0f9cb0a01400.png?width=1200)
ここまで準備したら、下記の条件でソルバーで計算します。難解な計算ではないので計算自体は一瞬で終わります。
目的関数/DE26セル、購買金額合計=1,385億円
可変変数/B30セル「K」&E28セル「購買単価」
制約条件/C24セル、年1回以上利用した人数の20%が年5回以上利用とする ※他にもM=0以上、K=0.0000000001以上&50未満(私がデフォルトとしている制約条件)があります。
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15267921/picture_pc_341c20bd3292bd43f3e614ceb22c5d6f.gif?width=1200)
得られた結果が下記です。K=0.019、平均購買単価は9,964円でした。
![USJ画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15268106/picture_pc_526a70c2081d4a4ae3465c5fcca87613.png?width=1200)
D30セルの浸透率1回以上(人数)より、ユニークな来場人数は4,415,461人と推計できます。関数を組んだExcelシートでは回数100回までを自動計算していますが、得られたモデルから1年間の最多利用回数のユーザーはD104セルの72回だと予測できます。
期間別浸透率Pn
NBDモデルの公式はPr=となっており、r回のアクション(購買)が発生する確率(予測値)求める公式でしたが、Pn:期間別の浸透率(母集団に対するアクション率)を求めることもできます。同書P277~P280の巻末付録のガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルの解説に期間別浸透率Pnと、それを求める式についての説明があります。
※同書P278ではUSJのアクションを(USJへの)来場としているためPn:期間別の浸透率(人口に対する来場率)と記載されています。
関数を組んだExcelシートの上部では、「期間別浸透率Pn(予測値)」を自動計算しています。
さきほど得られたモデルの場合は下記のD2~D6セルの通りです。30日以内のアクション(ここではUSJ利用)の割合は0.75%、30日~65日以内は0.61%、65~182.5日以内は1.19%、182.5日以上は97.45%となります。
![USJ画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15280407/picture_pc_3aabebe599c89b8fc558e06e3ea34f13.png?width=1200)
「最後にいつUSJを訪れたか?」を聞くことによって得られるリーセンシーのデータ(期間別浸透率Pnの実績値)から、期間別浸透率の予測値の予測誤差を最小化すする最適化計算で、NBDモデルのパラメータのMとKを求める方法が、ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルです。あらゆるブランドやカテゴリーの市場を構造的に把握することに役立ちます。
「最後にいつ〇〇をしたか?(買ったか?訪れたか?食べたか?など)」の確からしい回答を十分な標本サイズで取得できれば、自社に限らず、あらゆるブランドやカテゴリーのNBDモデルを推定し、市場を構造的に把握できます。
下記のマイボイスコム株式会社の2014年11月1日~11月5日に行われた10,549名に対する調査結果からリーセンシーを推測して期間別浸透率(実績)としていました。リーセンシーの区切り(30日以内/30~75日以内/75日~182.5日以内/ 182.5日)は、この調査結果に合わせたものでした。
![円グラフ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15271940/picture_pc_8ba7d17947f18fd66fd6ffc3d01c1e09.gif?width=1200)
引用元:遊園地・テーマパークの直近5年以内利用頻度
〔あなたは、遊園地・テーマパークにどのくらいの頻度で行きますか。直近5年以内の利用頻度をお聞かせください。〕https://www.myvoice.co.jp/biz/surveys/19615/
上記のアンケート結果から、推計した「遊園値またはテーマパーク」のリーセンシーデータ(=期間別浸透率(実績))と予測直との誤差を最小化するMとKをソルバーで計算した結果が下記です。
購買平均単価はUSJの時のままとし、年間5回以上行く方は全利用者のうち20%という制約も同様として計算しました。
![USJ画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15272832/picture_pc_f094eff0ea42183669928402521a3dbc.png)
M=0.653、K=0.163の2つのパラメーターとしたモデルから、D29セルの年間1回以上遊園地またはテーマパークを利用する方の人数は26,096,702人で、DE25セルの購買合計金額は8,065億円と推計できました。
この記事によると、2016年のテーマパーク業界の市場規模は6,581億円とあり、推計値が上回っています。USJ基準の購買単価9,964円が高い、または「最後にいつテーマパークに行ったか?」というリーセンシーを直接聞いた質問から得たものではないので、実態と乖離している可能性が考えられます。「期間別浸透率(実績値)」調査を行った時期11月頭でテーマパークの繁忙期の直後であることから1年の推定が過大になっている可能性も考えられます。ソルバーの制約を考え直すための付帯データを集めて再計算する必要がありそうです。実務で使う場合は、最後にアクションを行ったタイミングを聞き年代性別ごとに分析してMとKを導き、現実世界で得られる数値に合わせて活用しています。
本noteは2019年に公開した時点で掲載していた内容の後半部分をカットし再構成しましたが内容は2019年当時のものです。以下内容は2025年時点の追記項目となります。
2025年更新追記
待望の確率思考の戦略論の2作目が出版されました。以下noteで2作目を赤本、1作目を青本として。赤本がどんな内容になっていたか?青本との違いや関連知識を補充する書籍について解説しました。
私は2019年に森岡毅さん今西聖貴さんらの「刀」に憧れて「秤」という法人を立ち上げ、マーケティング分析の書籍を3冊出版しました。
2024年11月には確率思考の戦略論で学んだガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルを要素技術として用いた効果分析の特許を登録しました。特許技術は「消費者調査MMM(R)」という分析法です。「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」はマーケティング施策やその他の要因を用いて(数式などの)モデルを作って説明することで施策ごとの売上への影響を推定または予測する分析法です。主に時系列データが用いられており消費者調査から行うMMMという新しい手法が「消費者調査MMM」です。
因果推論の分析と組み合わせることで1年間のTVCMの効果が東京ディズニーランドは147億円、マクドナルドは234億円、レッドブルは58億円の様に金額換算することができる技術です。
「消費者調査MMM」60秒WebCM
『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング
確率思考の戦略論はアンドリュー・アレンバーグが1959年に発見したNBDモデルの活用を紹介したもので、大元の知識がまとめられたエビデンス・ベースド・マーケティングの書籍のブランディングの科学です。同書で紹介されていた数式や法則を2021年から執筆時点までに行っていた96.6万人の調査で確認してきたデータの一部を用いて解説し、市場構造把握や顧客理解を実際に行う方法としてまとめた書籍が「確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング『その決定』に根拠はありますか?」です。
消費者行動の法則やMなどの数字を使って消費者向けのビジネスで結果を出すことにこだわる方に役立てて頂けると思います。
共著者の山本寛さんは元オリエンタルランドのリサーチャーです。森岡毅さんらによるUSJの改革を、TDL側から見ていた方です。事業会社のリサーチャーとしての豊富な経験と見識があります。氏と半年間、観光とVRやMRを組み合わせた新しいアイデアの仮説を探索する擬似プロジェクトを行い、定量と定性を組み合わせて行う、仮説の作り方や顧客理解のやり方を具体的に解説しています。書籍の後半でも紹介していますが、氏がストアカで開催した「『顧客理解』を理解しよう」という講義に私が受講者として参加して目からウロコの気づきがあり感激しました。
以降、プロジェクトにご参加頂くなどお付き合いさせて頂いており「『顧客理解』を理解しよう」テーマに対応する内容の共著と書籍全体の内容のアドバイスをお願いしました。
ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルの具体的な使い方や、因果推論の傾向スコア分析、無料で使えるMETA社のRobynによるMMMなど、高度なアナリティクスの実装法を紹介しました。中小企業でも使えるよう無料または安価なツールで行える方法にしています。
数式の実装を解説する動画講義も用意しました。演習データとして、エナジードリンク、外食チェーン、テーマパークの3テーマで調査した約17万人の調査ローデータを配布しています。合計7本で8時間を超える動画講義のうち、確率モデルの実装を解説する講義をYouTubeで公開しています。
オンライン講義「確率思考の実装法」
「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」で紹介され、特許登録した消費者調査MMMの要素技術としても活用しているガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルによって、ブランドごとのM、カテゴリーエントリーポイントごとのMを把握する方法を実際の調査データ(エナジードリンクの調査)を用いて実装する講義です。数学マーケティングを仕事に活かしたい方向けの本格的な内容です。
「確率思考の実装法」確率思考の戦略論の数式を使って戦略を導く
「Excelで学べるデータドリブン・マーケティング」
【MMMやマーケティング分析に付帯する基礎となる統計知識から『学びたい』方向け】
確率思考の戦略論の2作目と同日に出版した「Excelで学べるデータドリブン・マーケティング」はデータの分布とは?回帰分析の決定係数とは?といった統計の基礎から学ぶことができます。判型を大きくしカラーにしたのはExcelで行うデータ分析の演習の画面キャプチャーを張り付けて丁寧に解説しているからです。この書籍のターゲットはMMMなどを行う際に統計や因果推論の基礎から確実に学びたい方です。
53万部を販売した大ヒットシリーズ書籍の「統計学が最強の学問である」著者の西内啓氏に「マーケターはグラフの見た目より『因果推論』に注意すべきである」と推薦コメントを頂くことができました。合計9時間を超える動画講義8本のうち、各章で行う分析演習など、書籍全体のガイダンスを解説する動画を公開しました。
その他告知(※適宜更新)
刀社と弊社の特許技術の明細書を要約したnoteです。
2月20日(木)16時からエバンジェリストをしているFreeasyのセミナーで、消費者調査MMMの事例をいくつか紹介します。
3月25日にはCEPs(カテゴリーエントリーポイント)の見出し方というセミナーに登壇します。