ゴールデンカムイ 尾形百之助の陣営別態度分析 陰キャ風からスパダリ風まで
コウモリ野郎と呼ばれる尾形百之助は物語の進行に伴い各陣営を渡り歩きます。そしてその時所属している陣営によってまるで別人のように態度を変えます。そのため多くの読者から裏切り者、何を考えてるのか分からない、と怒りを買っています。逆に、これが多面性につながり尾形ファンは様々な表情の尾形を愛でることができて大満足。どんな人物なのかつかみきれないところも魅力的です。本稿では尾形の各陣営における代表的な態度をいくつか取り上げてみたいと思います。
(注意⚠:ゴールデンカムイ本誌最新話までのネタバレを含みます。絵は一部トレス。また、本稿はいち尾形ファンが勝手に書いているものですので内容については何ひとつ信用できません。あと尾形へのひいきがひどいです。)
この前提なくして尾形のことは語れない
昔からの読者の方は、行動を共にする相手によってクルクル変わる尾形の態度、そして「なんでそんなことするの~!」と叫んでしまうような予想外の行動に翻弄され続けてこられたわけですが、それもこれも全てこの前提が伏せられていたために生じる混乱でした。その前提とは…(この直後、超ネタバレなので気をつけてッ!)
28巻279話で菊田さん(当時は軍曹)が第1師団の奥田中将に呼び出され鶴見中尉を監視するスパイになるよう命ぜられる場面で、尾形は菊田さんより早くスパイに任命されていることが明らかになりました。菊田さんは鶴見中尉の監視を命じられていますが、その後の展開を見ると尾形には権利書の存在など菊田さんより深い事まで開示されているようです。そのときの袖章は何と1本線、つまり二等卒(ド新人)ということです。入隊したての弱冠二十歳前後の若者が、本来であれば口をきく機会もなさそうな中将から直々に特別任務を与えられている。しかもベテラン軍曹より多くの情報が与えられて…。尾形って一体何者?と想像が広がる場面です。そしてこの時点で二等卒ということは即ち我々が目にしている軍服姿の尾形はほぼほぼスパイとして密命を帯びた状態であるということを意味します。大事な事なのでまとめますと
軍服姿の尾形はほぼスパイ
最初からスパイ
ずーっとスパイ
袖章が2~3本の尾形は間違いなくスパイ
そういえば白石救出作戦の時に牛山先生から「尾形見てこいよお前第七師団だろ?」と言われたとき「俺はいま脱走兵だ」ではなく「俺はいま脱走兵扱いだ」と発言してるんですよね。これは尾形が上層部の密命を帯びたままであり、たとえ脱走しても軍属のままということを意味していたのでしょう。言葉の端々に正規の軍人である事へのこだわりがにじみ出ちゃってます。(かわいいね)
気まぐれで自由そうに見えて、実は命がけで秘密の任務に当たっている。究極の社畜といえるでしょう(言い方…)
ただ、野田先生のことですから、このようにすんなり明かされた秘密をそのまま素直に受け取っていいかというと、それはどうでしょうね…何度も騙されてきたので、もう何も信用できません…
各モード解説
下の階級の前で見せる上官モード
初出の尾形は杉元、二階堂、谷垣という一等卒と接する場面が多く、上等兵から見て下の階級である彼らに対して上官然とした態度で接します。その後も杉元や谷垣に対しては銃の取り扱いや戦闘での振る舞いなどに問題があると嫌みを交えつつ厳しく指導します。「高飛車で嫌みな奴だ」と思う人がいる一方で、「師団に所属していた頃は厳しくも有能な上等兵殿だったんだろうな」と萌え転がるオタクが多発する場面でもあります。
軍に所属する者として、また部下を指導する立場として、職業人尾形のベースをなす顔と考えて良いでしょう。
対ゴトリの沈黙モード
野田先生によると尾形は
とおっしゃっています。
それが最も顕著なのがゴトリ(=ゴールデントリオ 杉元、アシリパ、白石)と行動を共にしている時です。見ようによってはほぼ陰キャですね。
ですが、考えてみると周りによくしゃべるキャラが多数存在する土方陣営にいるときはかなり多弁です。
ではなぜゴトリと一緒の時はスン顔無口なのでしょうか?
同年代に対するスン顔キャラとおじいちゃん達に対するワガママ孫ポジションという見方もあります。何だか内弁慶の一人っ子っぽくてとても良いですね。
もう一段理屈っぽく考えるなら、情報の格差が原因ではないかと思っています。尾形はおそらく初出の時点で既に権利書の存在すら知っていたと思われます(292話 尾形「政府が破棄したがってる土地の権利書か」)。一緒にいたゴトリメンバーより遥かに多くの情報を持ち俯瞰的に見ることができる立場です。それに対してゴトリメンバーは特にこの時点ではあまり詳しく知りません。うっかり口を開けば自分の持つ豊富な情報が相手に漏れ、逆に会話の中から有益な情報を得る可能性は低い。会話することにデメリットしかないのであればスパイとしては口を閉ざすが吉です。
例えば、尾形と白石が土手に座って白石が「おなかすいたね」と話しかけた場面で尾形は白石を無視しました。これは白石がさりげない雑談を通じて情報収集を行うのがとても上手なため、うかつに話すと情報を漏らしてしまうからだと想像できます。(あくまでも想像ですが)
口を閉ざし情報漏洩を防ぎつつ、じっと観察することで情報収集しているお利口な尾形君なのです。(ひいきがひどい)
対アシリパさんの杉元代理スパダリ風きれいな尾形モード
衝撃の網走を経て樺太編に入ると尾形は全く違った雰囲気をまとうようになります。それまで同様に口数は少ないものの、皮肉や嫌みなどをほとんど言わなくなります。常にアシリパさんを気に掛け、話によく耳を傾けます。そして杉元の代理としてマイルドな雰囲気でアシリパさんをエスコートしてゆきます。顔の描写も普段の男性誌っぽい力強い線ではなく、細い線で儚い感じの描写が多用されます。きれいなジャイアンならぬきれいな尾形です。一方、共謀相手のキロランケと話す場面ではいつもの描画の悪い顔で普通に話し、巧みに情報を引き出そうと試みています。このことからきれいな尾形の顔や態度は意図的に作っているということがうかがえます。
そう、尾形は暗号の鍵を引き出すという任務に一生懸命励んでいたのでしょう。無理矢理言わせた情報では意味が無いので、信頼を勝ち得て自分から進んで秘密を開示してもらわなければなりません。そのために柄にもなく杉元というスパダリの真似をして代理をつとめようと努力したんですよ。なにしろ尾形は努力の人なので。でもそもそも尾形は杉元じゃないし、スパダリって柄でもないし、アシリパさんは聡明だしで、結末はあんなことになっちゃいました。
元来自己開示とかめっちゃ苦手で超不器用な子なのに、この役目は荷が勝ちすぎなんじゃないでしょうか?(奥田君任命する時ちょっとは適性とか考えてよね、という苦情もチラホラ)
樺太のきれいな尾形が好きだという尾形ファンは非常に多く、アンケートとったら絶対に上位にくるでしょう。その気持ち…とても分かります。何しろとんでもなく顔が良い…
ただ、個人的には地のキャラである賢くてデキる子なのにちょっととぼけたところのある不器用な尾形が好きなので、スパダリ風エスコート尾形は無理してる感が痛々しくてなかなか直視できません(特に流氷問答の場面)。
with勇作さん情緒破壊モード
(複数の方からご指摘いただきまして気づいたのですが、尾形という人物の中核をなす大事な場面を失念しておりましたので追記します。)
勇作さんと共にあるとき、尾形は極めて強くコンプレックスを刺激されるため、貝殻をしっかり閉じるようにして心の奥底にある柔らかな部分を守っています。しかし勇作さん自身や鶴見中尉などにより、尾形の防御の殻は、その中にある柔らかな部分もろとも踏み砕かれてしまいます。
これらの事情から勇作さんと接している尾形は基本的には自分を守るため心を閉ざして無表情を保ち、距離を取ろう距離を取ろうとしています。しかし鶴見中尉から任務を与えられたときは精一杯その役を演じます(慣れてるふりとかですね)。
情緒が破壊され、虚無顔または役割を演じているだけの作り笑顔の尾形。ファンとしてはその気持ちを思うととても残酷で見ていられません。(でもそこがまたたまらなく良いんですけど……)
ちなみに、他の人には「対」を使い勇作さんには「with」を使っているのは、他の人には距離を取って客観的に自分を観察しながらキャラクター作りをした上で対処しているからで、勇作さんには対しているというよりは心の奥底まで踏み込まれて中心からバラバラに破壊されている状況だからです。withより良い表現があれば是非ご一報ください。
対土方の生意気年下モード
さて樺太から命からがら帰還し、土方陣営の火鉢の前に戻ってからの尾形は非常に饒舌です。火鉢を両足で挟み虚実織り交ぜてペラペラしゃべります。
土方に対しては生意気盛りの多弁な中学生のようです。これは、なぜかというと、ゴトリの時と逆で、土方が非常に多くの情報を持っているからだと考えます。
土方は獄中でウィルクと直接会っており重要な何かを知っている様子。さらにその優れた頭脳と人脈を駆使して情報収集を行っています。明らかに尾形の知らない情報を沢山持っている。となると尾形の方でも手土産となる情報を「棒鱈です」とばかりに差し出して懐に入り込み、土方が持つ情報を分けてもらわなければなりません。ここではしっかり情報開示することで「役に立つ男」だとアピールして、Win-Winの関係に持ち込もうとしています。また、土方陣営に加勢して鶴見陣営の妨害を画策している可能性もあります。ただしお互いに信頼はしていないので、疑いつつ部分的に情報を交換するわけです。
尾形の強みはアシリパさんと共に樺太に行ったことと、最大の敵対勢力である鶴見陣営を深く知ることです。その強みを思いっきり発揮して土方に取り入っていますね?土方は明晰でストレートな物言いの若者を疎ましがらず、力があればむしろ重用する人です。その辺を見抜いて、生意気で優秀な若者キャラで接していると考えられます。ちょっと甘えているそぶりがあったり、お小遣いをもらっていると思われる状況だったりで、ばあちゃん子炸裂の可愛さです。
独り言多いご機嫌ソロモード
茨戸、江渡貝邸、そして最近の尾形は単独行動です。この状況の尾形が一番面白くて、一人遊びの上手な一人っ子育ちという感じがします。独り言がめちゃくちゃ多くて超ご機嫌。仮説を立て検証し、上手くいけば大喜び。PDCAを一人でガンガン回して精度を上げまくる様子が見られます。これじゃ色んなことがすぐ上達するだろう、という感じです。そして、時に相手を舐めくさり油断しきってドジを踏みます。300話では運命や世界に言及し、すっかりいい気になって油断しきっていますのでドジるんじゃないかと心配です。
オマケ
杉元の前で見せる乱暴者大好きご機嫌モード
杉元の瞬間的に発動する鬼神のごとき暴力
尾形はこれをことのほか喜びます。偽アイヌ皆殺し直後にうれしそうな笑顔で「おっかねぇ男だぜ」と言ったり、湿原のコタンでおじさんとのタイマン殴り合いを見て大喜びで拍手したり、ノラ坊が浴室から全裸で飛び出してきたときに満面の笑みを見せたり、数少ない心からの笑顔がこの辺に集中しています。尾形、杉元のこと好き過ぎるのでは?そして杉元も尾形のことを気にしすぎ…
お兄ちゃん宇佐美に対する弱みダダ漏れモード
全人類のお兄ちゃん宇佐美といるときの尾形は弟っぽく、ちょっとぼんやりしたポンコツ君に描かれています。塹壕での「俺はおかしくないよな問答」など、普段他の人には見せない自分の弱みや悩みをペラペラしゃべっています。こんなぽやぽやした尾形はここでしか見ることができません。ただし注意しなければならないのは、上等兵たちの会話する場面は尾形の悪夢や宇佐美の(菊田さんへの情報提供のための)回想などに登場しており、どこまでが真実か不明であるということです。
猫モード
アシリパさんや土方と居るときに頻発します。不思議な事にひとりでいるときはあまり出ません。ってことは猫ムーヴがカワイイって事に気づいているだろ!クソ尾形めッあざといぞ!
以上、9つの尾形について書いてきましたが。みなさんはどの尾形が好きでしょうか?(どの尾形も嫌いという人間がこの世にいていいはずがない。みんな俺と同じはずだ。)