ゴールデンカムイ マスクを外したヴァシリの顔にドン引きした白石由竹は何を見たのか?
(言葉による具体的な怪我の痛そうな描写があります。苦手な方は回れ右をおすすめします。あと、尾形百之助の時のような個人的な脳みそダダ漏れコメントはございません。今回はひたすら真面目なレポートです。)
第21巻203話「似顔絵」で樺太の大泊で、白石由竹はヴァシリに足を狙撃されました。杉元佐一vs.ヴァシリ戦の後、白石は狙撃したことへの謝罪を迫りました。ヴァシリはマスクを外して顔を見せ、自分が喋れない事を伝えました。以後ヴァシリはフンフンとしか言わず頭巾を被った癒やしキャラとして登場することになります。
このように白石がどん引きしています。あまりにもリアクションが大きいため「白石は一体何を見たのだろう?」と気になりました。そこで公式から出されている情報を元に白石が見たものを予想してみました。
尾形に狙撃された時の状況
まずは、ヴァシリが尾形に狙撃された場面の弾の通過経路を見てみましょう。
1コマ目:頬には衝撃で同心円状のへこみが生じ、弾は右頬の真ん中から入っています。見たところ口角の4~5㎝後ろあたりです。調べてみるとちょうど奥歯(大臼歯)の辺りを通過しています。弾が通過している瞬間は口をわずかに開けた状態で、舌は特に前でもなく後ろでもなく口の中全体に満ちている状態と考えられます。
2コマ目:ヴァシリは仰向けに倒れており顔だけ右を向いています。左頬の出血位置をみるとどうやら右頬と同じ場所を弾が貫通した様子です。
まとめると
右頬口角の後方4~5㎝に弾が入る
歯に当たる
舌の中を通過
歯に当たる
右頬口角の後方4~5㎝から弾が出る
白石が見たのは怪我をしてからどのぐらい経った頃か?
日露国境の50度線から亜港まで約100km
雪がなければ数日の距離です。
亜港への流氷の到来が12月頃、大泊にしっかりした流氷原ができるのが2月頃である事を考えるとざっくりこんな感じでしょうか?
11月 狙撃手対決
尾形療養
12月 亜港到着 待機
流氷到来
流氷問答
尾形療養、月島療養
オガタニゲタ
1月 静香 ヴァシリ白石を狙撃
豊原 2週間後に大泊へ移動
2月 大泊 流氷原ができている
つまり尾形に狙撃されてからおそらく2ヶ月、長く見積もっても3ヶ月程度しか経っていないと考えられます。となると傷は一応癒えてはいるけど、まだまだ生々しい見た目だった事でしょう。
狙撃により失われたもの
野田先生はファンブックで
とおっしゃってます。
つまり1~数本の歯が砕けているわけです。
とはいえその後みんなと普通にカレーを食べていることから(25巻246話)札幌に来る頃には食べたり飲み込んだりできるようになっていたようです。
このことから
1.お粥さんしか食べられない程ひどく歯を失ってはいない。
2.飲み込むことはできている。
3.ほっぺたに大穴が開きっぱなしにはなっていない。(カレーが頬から漏れたりはしてない)
あと、本筋には関係ありませんが関西人としては、お粥に「さん」をつけていることから、先生の身近に関西弁話者がいるかもしれない、という気がして何となくほっこりしています。
話を戻して
札幌にいる時点で、ヴァシリは食べることはできていますが、しゃべることはできません。この事から舌に重大な損傷を受けた可能性が高いということが分かります。
以上が、公式から出されている情報とそれに基づき予想されることです。
具体的な怪我の状況について部位別に検討してみましょう。
頬
頬に関しては1コマ目と2コマ目で怪我の状況がはっきりしています。弾が貫通したお陰で、さほど大きな穴は開いていないようです。この程度の穴であれば適切に対処すれば程なく塞がるでしょう。またこの辺りには大きな神経や血管は通っていません(杉元もこの辺りをよく剣で刺されてますよね?よく刺されるってのも変か…)。白石が見た2~3ヶ月後であればそれなりに生々しい傷だったろうと思います。私たちが見たら驚くに十分でしょう。
でも、ここで忘れてならないのは、それを見たのが白石だと言うことです。自分自身も直前にヴァシリから足を狙撃され、ちょうど同じような傷ができたばかりです。さらに始終身近で殺し合いが起こっているため、もっとすごい負傷を何度も見ています。それなのにあんなにドン引きするものでしょうか?白石が驚いたのは頬の傷じゃないのではないでしょうか?
歯
ファンブックの記述よりヴァシリの奥歯は砕けています。三八式の弾で撃たれた場合その口径から片顎当たり1本または2本の損傷にとどまったはずです。あの弾には奥歯をまるごと全部吹き飛ばすほどの威力はないのです。あの後、ヴァシリは(当然病院で治療を受け回復し)職場復帰した後に脱走したわけです。このように医療機関で治療を受けたとなると損傷を受けた歯は抜歯されたはずです。
親知らずなど奥歯の抜歯経験がある人はご存じでしょうが、抜歯した後が生々しいのは1週間程度で、わりと速やかに傷が塞がってしまいます。
となると左右1~4本の奥歯が失われ、別に生々しくもない歯茎があるだけです。これは白石が見て驚くようなものではありません。
余談ですが、さほど口径の大きくない三八式の弾が歯の中でも特に大きく頑丈な大臼歯(歯は骨よりずっと硬い)を左右2カ所でガッチリ砕いた場合、反対側の頬から弾が飛び出すことはもしかしたら難しいのでは?という気もします。これは実際に撃って当ててみないと何とも言えませんが…。可能性としては、歯を粉砕するというよりは弾が歯に当たってをなぎ倒されるように骨から歯が引っこ抜かれて吹き飛ぶ(*1)、歯が根元で折れて頭が吹き飛ぶ(*2)、という状況だったのかもしれません。先生が粉砕とおっしゃっているので2の根元で折れる形の砕け方だったのかなと想像しています。この2つの当たり方なら銃弾のエネルギーをさほど殺がず、顔を貫通する事ができたのではないかと思います。
*1 ごく初期に二階堂洋平が杉元との戦闘で前歯がまるごと吹き飛んでますよね?あんな感じです。
*2 形を見ると歯の根元にはくびれがあります。そしてその部分は歯の頭より強度の低いもので構成されているとのことで、折れるならここではないかと思います。
~閑話休題(寄り道おしまい)~
舌
しゃべることができないという情報から、ヴァシリは舌に大きな怪我を負ったのではないかと考えています。
1コマ目から推察すると、おそらく弾は青矢印の経路で顔を通過したのではないかと思われます。
この辺の構造はこうなっていて
舌を動かす大きな神経は黄色い丸の辺りを何本か通っていて、弾の通過位置から考えると、ここを損傷したという可能性は低いと思います。もしそこが損傷した場合は舌が麻痺して、しゃべるのも食べたり飲み込んだりするのも不自由になるでしょう。しかし、見た目に驚くような変化はないでしょう。
他に何があるかと見てみると、ちょうど弾の通過位置にはそこそこ大きな血管があります。
あの狙撃でこの血管が切れてしまった可能性は十分あると思われます。わりと大きな血管が切れて血行が途絶えた状態で、ある程度時間が経てばそこから先の舌の細胞が駄目になってしまった可能性があります。いわゆる血行不良による壊死ってやつですね。そうなれば病院では舌の前半分の壊死したところを切除してしまわなければなりません。
舌の後ろ半分は残るため不自由ながらも食べたり飲み込んだりはできるでしょう。しかし発音すること、特にロシア語のような舌を使った音が多い言語を話すのはかなり厳しいでしょう。
口を開けて舌の前半分が切除されているのを見せたら、さすがの白石も驚くのではないかと思います。
結論
白石は頬に残る生々しい弾痕と舌の前半分が切除されている様子を見て
「ひ~ッ!!」青ざめて冷や汗
となった可能性が高い
余談:舌がちぎれたら死ぬんじゃないの?
「舌の太い動脈とかが切れたら死ぬんじゃないの?漫画や昔のドラマなどで舌をかみ切って死ぬ描写があるでしょう?」と思う人もいるでしょう。確かに生け捕りされた人が舌を噛み切って「うっ」と絶命し、捕まえた人が「しまった!」とあせっている場面を何度か見たことがあります。でも実を言うと人間は舌が千切れたくらいではなかなか死なないもののようです。もし命を落とすのであれば、舌が切れたせいで舌がのどの奥に落ち込んで窒息、または、大きな血管から出血し血がのどに詰まって窒息という感じだそうで、その場で簡単に絶命というわけにはいかないのですね。
2コマ目で、ヴァシリは仰向けに倒れていますが、右からの狙撃の衝撃で顔が左を向いています(とてもリアルです)。気絶した状態で口の中に大量出血があったとしても口の外に血液が流れ出ることで窒息を免れることができそうですし、舌を負傷したとしても横を向いているため舌が重力でのどに落ち込み窒息するのも避けられそうです。
あと舌って先端に比べて奥の方はめちゃくちゃ分厚いから三八弾ごときで千切れちゃう事はないと思います。
余談2:国境越え
そもそもヴァシリの傷は致命的なものではなかったし、狙撃直後は衝撃で呆然としてはいたけど、気絶はしてなかったという可能性も十分あります。尾形らが立ち去った後で、自力で起き上がり詰め所に戻ることができたかもしれません。何にせよ、あの寒さでヴァシリが死ななかったということは、あのあと何らかの形で速やかに救助されたことを意味します。
皇帝殺しが国内に潜入したことはすぐ警戒当局や軍が知るところとなったでしょう。その後亜港監獄でキロランケの得意技の爆破がありキロランケの仲間であるソフィアが脱獄。キロランケの死を知らない当局はその後長らく国内の警戒に当たったことでしょう。
それもあって国境警備隊は一度樺太アイヌに偽装した連中に仲間を殺された挙げ句に国境を破られているため、樺太アイヌの出入りにかなり警戒していたでしょう。杉元達が帰国のため国境を越えるシーンをはじめて見たときはサラッと流していましたが、特に白石やアシリパにとってかなり緊迫したシーンだったわけです。樺太アイヌの服を着て谷垣の古い村田銃以外の現役の日本軍の銃(三十年式や三八式)は見えないように隠されています。銃が偽装を見破る目印になるという白石やアシリパからの情報に従ったわけです。こんな危険な状況なのに杉元が銃を背負ってないという描写。これにもちゃんと意味があったんですね。