夏の救世主

夏バテしている。
もう三食アイスで良い。

じめじめ雨が続いていて私の胃までどんよりしている。なぜ。

食べることが好きな割にスーパーに行くと何が食べたいのかわからなくなる。
そのため大体決まったものを買ってしまう。特に豆腐とキムチ。いつメン。
これめっちゃ疲れてる人の特徴らしい。全くもってこまったちゃんだぜ。
たぶん、加熱調理がめんどくさいだけなんだけど。レンチン愛してる。

大学のゼミの論文紹介の発表回が近くなり多忙な今日この頃、料理をしないことが当たり前になってしまい不健康が極まっている。
どんなに前もって予定を立てて進めても全然だめだめ。大体前日は徹夜が当たり前だし、頑張ったつもりでも読み込みが著しく間違っていることが多く、前もって先生に質問してても準備不足で大体質問攻めにあう。たまに発表しながら自分でも何を言っているのかわからない。

自分ができないことをわかっている分いつも手が止まる。この前は論文読んでいるフリをしながら研究室でカップ麺食べるだけの人になってた。
そういう時のご飯って味気ないから食べ過ぎる。

本当に何が食べたいのかわからなくなってきた。これは夏バテのせいか、はたまた寝不足のせいか。

おいしいものを食べて寝ただけで幸せになれていたあの頃に戻りたい。

そんなことを考えながら1日分の鉄分ドリンクを摂取していたら、おいしいごはんと同等かそれ以上の栄養、好きな人からのどうでもいい報告が送られてきた。

彼はマメな人で料理が趣味らしい。早いとこ彼の料理を食べたいものだ。言えないけど、

今日の知らせは梅干しを干し始めたという報告だった。彼のいるところは梅雨明けしたのかと物理的距離にため息をつきつつ、夏の訪れをおすそ分けしてもらった気分になり、気が晴れた。

そして梅干しの酸味が熱烈に恋しくなった。
想像するだけで唾液が分泌される。さすがすっぱいの代表選手。コロナの検査で唾液採取カウンターの真ん前にレモンと共に写真貼られてただけある。

梅はクエン酸が多く含まれ疲労回復効果がある。さらに植物性乳酸菌も豊富で腸内環境改善も期待できる。

今の私にうってつけじゃあないか!というか梅干し食べたくなる時点で結構追い詰められてるじゃんか!

これは食べるしかない!

雨が止んだのを見て早速大学の帰りにスーパーへ梅干しを買いに行く。

梅干しってたくさんあるから迷うな。紫蘇にはちみつ、塩、鰹出汁、さらにはもう叩いてくれてあるものまで意外とキャラが多い。

大学生になるまで祖母が作っていた紫蘇漬けの梅干ししか食べたことなかった私にとってはちみつ漬けの梅干しは革命だった。口が*にならなくて感動した。

てことではちみつの梅干しをセレクト。
甘酸っぱくて大好き。
浮腫むのわかってるのに食べ過ぎるから気をつけないと。

祖母の梅干しは市販のものに比べるとびっくりするくらいしょっぱい。甘酸っぱい恋の味通り越してもはや胸を締め付ける懐かしさある塩味。

その塩味はそれはそれでとてもよかった。なぜかはわからないが癖になるお味だった。

よく誰もいない台所に忍び込んでそうっと漬物壺から梅干しを盗んでいたことを思い出す。
あと友達に「うちの梅干しおいしいんだ!」と自慢したら「梅干し好きなんて変わってるね」と言われたことも。(変わっていると聞き誇らしげになる単純な小学生だったな…)
梅干しを作ったときについでに作ってくれる紫蘇ジュースも大好きだったな。
なんか書きっぷりが亡き人みたいになったけど全然めっちゃ元気、YOASOBIと韓ドラ見るのが好きなウチらの永遠のギャルばあば。
帰ったら作り方教えてもらおうかな。



そういえば飛脚が食べていたものの中にも梅干しがあった気がする。玄米と漬物くらいしか食べなかったけど脅威の体力をもっていた飛脚が食べていたならそりゃあその効果は確実だろう。




さあ、帰ってきて買った梅干しで何か料理をすると思いきや、スーパーに行くだけでヘロヘロになった私はまず部屋の空白にひれ伏し土下寝した。
暑さで溶けたのだ。
ドラえもんが飲んだら水になれる薬を飲んで溶けてたように寝そべってたみたいに平たくなる。
畳がひんやりしていて気持ち良い。寝転ぶと横縞模様がついてしまう以外畳に勝るものはないと思っている。

ただ私は学習している!もちろん凝った料理など作る気力が残っていないだろうとこんな時のためにサトウのごはんを買っておいたのだ!!!(ごはんを炊くのを忘れた、サトウのごはんなんて贅沢な…)
まじで今HP15くらいの雑魚雑魚だから…許せ…月末の私…

そういえばコロナになった友達の食料を買いにったときに買い物に付き合ってくれた先輩に「パックごはんはやっぱりサトウのごはんがいっちゃんうまい、ケチらん方がええよ」と言われてから私はサトウのごはん信者である。

少し土下寝して元気になった私は「まなつのゆげ!へんなおもいで!」と熱唱ながら電子レンジの中で回るサトウのごはんを観察する。
父よ母よごはんを食べる準備中に歌って踊れるような便利な世の中に生まれて幸せかもです。
いや、母なんかレンチンじゃなくても踊ってたな、さすが師匠…

チーンという合図でカラオケダンスタイムは強制終了。のど自慢の合格ベルが鳴る電子レンジが出たらほしいなと思いながらあつあつごはんを取り出す。

いざ実食である。
サトウのごはんのフタをペリペリ剥がし、さっき買ってきたお茶漬けの元、そして冷えたペットボトルの緑茶をぶっかける。冷えているというのが大事なポイントである。そしてそして…

頂点には主役の梅干し!美しい!完璧!

お茶で黄緑に染めらた白米、のりの黒、おかきの黄色が散りばめられ、真ん中に優しい赤。
配色完璧すぎる。これが日本の美か…
我ながらお茶碗に移してたら完璧だったなと思う。まあしょんないね、めんどいし、この不完全こそが美(?)

さあお味は当たり前にうまい。もう弱った胃にも火照った体にも最高の特効薬。五臓六腑に染み渡るとはこのことだ…とひとり染み染みする。
氷を入れても美味しいだろうが冷え過ぎちゃうから冷やし緑茶にしておいた。
あつあつごはんと冷たいお茶のギャップがたまらなく良い。緑茶塩の上品な塩味に甘酸っぱい梅干しが私を祖母の家の畳から眺めていた夏の庭に連れて行く。

お行儀は悪いけどお茶漬けの最後はかきこんで食べたいもの。しかしパックごはんの四角い容器でうまくかきこむことはできなかった。アイスの爽のパッケージを思い出す。あのフタもこのフチも取っ払いたい。でも一粒残さず食べた。

もはや飲み物だった。れんげを使ってお茶も飲み干すと若干梅の酸味がお茶に移っていて「鰹出汁の梅干しでもすごいおいしいだろうな」と思った。

好きなひととの会話のネタもできたなあと思いながらペットボトルに残ったお茶を飲み干す。
なんだか祖母の家が恋しくなった。今年はいつ帰省しようか、その前にゼミを乗り越えなきゃなあ…

箸を洗いながらふと窓を見上げると熱帯夜を冷やす月がこちらを覗いていた。
明日は晴れて暑くなりそうだ。



#エッセイ部門

いいなと思ったら応援しよう!