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【ショートショート】自己怪奇譚

 それは…季節外れの暑さが続いた梅雨の日のことでした…

 暑さに弱い私は家に引きこもり、涼しい部屋でサイダーを飲んでいました。夏と言えばサイダーだよね。なんて思いながら、コップを揺らし、氷のからからという音を楽しむ。これが私の夏の楽しみの一つです。
 そして、もう一つの楽しみがホラーです。夏と言えばやはりホラーは外せません。私はnetflixを開き、ホラー映画を探しました。そこにはずらっと並んだホラー作品の数々。私はその中から「IT それが見えたら終わり」を選びました。この作品はホラー小説の帝王とされているスティーブン・キングの小説を映画化したものです。話題作ですが、まだ見ていなかったため、見ることにしました。
 画面内でピエロが暴れています。ピエロに対して不思議と恐怖心を抱いている私はしっかりとその世界観にのめり込んでいきました。そして、映画を見ている途中、それは起きました。

 グルルルル…

 そんな音がしたのです。映画を見ている途中で、ちょっと体勢を変えたときに獣の唸り声のような音が近くから聞こえました。
 どこかで聞いたことがあります。怪談話や、ホラーを見ていると幽霊が寄ってくると。ホラー小説を傍らに置き、ホラー映画を見ている私に幽霊が寄ってきていても不思議ではありません。もしかしたら、幽霊が憑いてしまったのかも。

 グルルルル…

 またしても聞こえました。お腹辺りから聞こえるような気がします。

 嫌だなぁ。怖いなぁ。

 怖くなった私は家を出ることにしました。外は暑く、立っているだけでも汗が噴き出してきそうですが、家にいると不気味な音に悩まされるので仕方ありません。少し歩いて買い物をすることにしました。
 背中に汗を滲ませながら歩くこと数分。近くのスーパーに着きました。ここで、今日の晩御飯の食材でも買おう。そう思った私は、かごを持ち、食品売り場を歩き始めました。
 そこでも不思議なことが起きました。ふと、かごを見てみると、なぜかバナナやチョコ、ポテトチップスが入っているではありませんか。

 嫌だなぁ。怖いなぁ。入ってるなぁ。

 しょうがないので、それらを戻すことなく、私は晩御飯の食材を買い、スーパーを出ました。時刻は午後二時頃で日差しが強く、私は汗をかき、腹を揺らし、家まで歩いて帰りました。
 家に帰り、途中で止めてあった映画を再び見ることにしました。不思議なことに獣のような唸り声がすることはありませんでした。しかし、またしても不思議なことが起こりました。いつの間にか、ポテトチップスとチョコが無くなっていたのです。

 嫌だなぁ。怖いなぁ。

 袋だけになったそれらを見つめていると、さらに怖いことが起こりました。

 ここは…?スーパー?

 なんと、いつの間にかスーパーにいました。先ほどまで家で映画を見ていたというのに。しかも、かごにはまたポテトチップスとチョコがあるではありませんか。

 怖いなぁ。怖いなぁ。嫌だなぁ。

 グルルルル…

 追い打ちをかけるように、獣の唸り声のような音も聞こえてきます。早くここを出なくてはいけません。私はすぐに菓子パンとジュースもかごに入れ、お会計を済ませスーパーを後にしました。
 思い返してみれば、こんな恐怖体験は今日だけではありません。少し前から体が重く感じることはありました。歩いていてもすぐに息切れを起こし、膝が痛む気がします。それに、趣味のランニングもすぐに疲れてしまい、一キロも走れません。もしかしたら、この時から私には何かが憑いていたのかもしれません。
 家に帰ると、獣の唸り声のような音はより大きくなり、私の恐怖を駆り立てました。怖くなった私はすぐに汗ばんだ服を脱いで上半身裸のまま、映画を再度見ました。ピエロは無事、討伐され、映画内の人物たちは安堵し、平穏な生活を送っています。そして、エンドロール。画面が暗くなると、そこにはだらしなく、ぜい肉をたっぷりつけた腹と締まりのない顔の人物が映っていました。

 ついていたのは…幽霊ではなく…脂肪でした…

 嫌だなぁ。怖いなぁ。


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