はなむけ
永遠の別離の報せの電話が鳴った。
別れに駆けつけることもままならないのか
巨大に発達するこの嵐がまだ身の上にかからないというのに
空は不気味に晴れていた。
ふと窓辺の大通りに目をやった。
慌ただしい朝を今から来る嵐の警報とともに、終わらせるべき事を終わらせ家路に着く車でごった返している。
あなたはいつも慌ただしく、何かのために動いている人だった。
あなたは太陽みたいな人だった。
華やかな笑顔と会話。
あなたの陽光に照らされた人は本当にたくさんいたのだろう。
反面、その陽光の中にたぎらせる軸が頑として動かない人でもあった。
あなたは憤る時も決して険しい顔をしない。
私はあなたが大好きだった。
そして私はあなたが大嫌いだった。
太陽のようなあなたには、近づき過ぎると自分自身が深い手負いとなるからだ。
きっとあなたの頑とした軸の対極に私がいたから。
傷つけるつもりのないあなたの言葉から放たれる矢に、何度射抜かれて血を流しただろうか。
泣いて腫らした目で翌日あなたに会うと、相も変わらず陽光の微笑みで言うのだ。
「おはよう」
なんて残酷でなんて温かい人なのだろう。
歳を経た今なら知っている。
あなたは「愛」しか見えてなかった。
私には「愛」でないそれで、唯、唯、絶え間なく。
私に注ぎ続けてくれていただけだった。
見守っていてくれていたあなたに。
なんて感情で別れを告れば良いのだ。
何を手向けたとしても、あなたの対極の私の言葉も声も、きっとあなたの陽光で溶けるだろう。
でも、あなたにとっての「愛」でないそれの胸いっぱいで、私もあなたが大好きだったのだ。
だから、私のままを貫いてあなたへのはなむけをここへ置いておくことにする。
どうか安らかに。
大好きな太陽へ。
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