人はなぜ「押し」に惹かれるのか?
(惹かれない方もおいでとは思いますが、話の流れでここは「惹かれる」前提で進めます。あいすみません。)
忘れられないオリンピックシーンは多数ありますが、1984年のアンデルセン選手のゴールシーンもその一つでしょう。
この年、日本からは増田明美選手が参加なさいましたが、無念のリタイア。国民の期待が大きかっただけに帰国後の憔悴ぶりは気の毒なほどでした。
なるほど、女子マラソンが初の正式開催だったんですね。だからあれだけ大騒ぎだったのか・・・・と今さらながら細かい事実を確認しております。
この記事をご覧くださっている人も、「まだ生まれてません!」という方が多いかもしれません。
でも、あの時代にTV放映を見た方ならば、きっと上のシーンは強い印象を残したはずです。
ニュースでも「最後まで力を抜かずに頑張った選手」として何度も放送されていましたからね。(思い出していただけましたか?)
だからこそリタイアした増田選手の立つ瀬がなくなってしまった感もありますが・・・・・日本人、こういう「ギリギリまで追い込む」の、大好きな国民性なので。
さて、バイクの「押し」。
この「ギリギリまで追い込む」、「極限まで踏ん張る」、こういう美徳に通じるものを感じます。
ご覧ください、この雄姿を。
むろんあの時代でも、「命に係わる。なぜ止めなかった」という批判はありました。だからアンデルセン選手の話が美談になれたのも、彼女がゴール後無事だったおかげです。
そしてもちろん、上にご紹介した「押し」に素直に感動できるのも、彼ら彼女らが今も元気にバイクに乗ってくださっているからです。
ありがとう、ありがとう!!!!!
さて、バイク押し。
クロスカントリーでは多くは見かけませんが、HEDではテクニックとしてもデフォルトになりましたね。エルズでは押しがうまくなければ完走できないほどの重要テクニックですし。
けど、HEDという表記が生まれたのは2000年をかなり過ぎてからなんです。日本で言うなら、エルズが定着した頃から、じゃないですかねえ。
その昔は、CGCも美和も広サバも、HEDではなく、「ゲロ系レース」と呼ばれていました。もちろん総括しているG-NETも。
そもそもEDはそれ自体がハードなので、わざわざHの形容詞をつける必要がありませんでした。
実際、天候などの影響で、エンデューロはいつも呆気なくハード化していましたしね。
では、
エンデューロで押しがテクニックと認められたのはいつ
なんでしょう?
それは(私が知る限りは)90年代の木古内でした。
いえ、それ以前だって「エンジンが焼付いたりガス欠になったりして、押してゴールした」という感動シーンは多数ありました。
ただそれは「結果的に押さざるを得なかった」だけでして、最初から押す前提だったのは木古内です。
少なくとも、優勝選手が
「勝つために押しの練習をして臨みました」
と断言したのは木古内でした。
(もしそれ以外にあったのなら教えてください。訂正いたします。)
ライダーは北海道の五十嵐聖治選手。
1990年代の木古内は、後年のようなスピード勝負ではありませんでした。特に杉の作業道はクネクネした折り返しで轍が深くなり、多くのスタック車が出ました。まさに「押し勝負」となったのです。
五十嵐選手はそうしたコース状況を見越し、木古内のために
あらかじめ押しの練習をした
そうです。
これは当時のバイク雑誌、バックオフで記事になっています。
お手元にある方は、ぜひご覧になってご確認ください。
五十嵐選手の押しの話、こちらの記事に書いてますね。
木古内の経緯(難所系からスピード系へ)にも触れています。
レース前に「押し」の練習。
これは当時の私たちにとって目から鱗でした。
というのも、
「バイクは乗って進むもの。押すのは乗ってクリアできないヘタクソ=恥ずかしい」
そんな感覚があったからです。
たとえば、その昔「ハードの代名詞」だったヒダカ。
そのヒダカですら、乗って進みたいレースだったんです。
結果的によく押してましたけども。ええ、あくまでも結果的にです。ヘタクソだから押してたんです。
HEDが新ジャンルとして確立した今、こんな感覚は「古臭い」と一蹴されるでしょう。
ただ、当時はまだまだその考えが主流でしたし、一部の年配ライダーが今も「押しを潔しとしない」傾向にあるのは、昔の感覚が染みついているからです。
かくいう私も、「乗って進めるものなら乗っていきたい」タイプです。楽ですからね。
ただね、五十嵐選手の勝者インタビューを聞きながら、「押してでも進む」、「勝利をもぎ取る」、その執念に対して素直に敬意を持ちましたし、「やはり勝つ人は違う」と感心したものです。
そして今。
さらに時代は進み、
「押しこそ命」なジャンル
が生まれました。
コドモバイクです。
これはもう、バイクのポテンシャルとして登れない坂が圧倒的です。
さらに大人が乗るとなれば、押しの場面は格段に増えます。
クロスカントリーでさえHEDになってしまうんですね。
つまり。
コドモバイクに乗るということは、手軽にアンデルセン選手体験ができる、ということでもあります。
フルサイズならサクッと上がるヒルクライムを、簡単に「とんでもない難所」に変身させる、それがコドモバイク。
まさに
「押し」前提。
だからなのか、押しIAという単語も生まれました。
現在のところIA認定されていらっしゃるのはしもやん氏とヒロミチ氏です。
彼らは中部で切磋琢磨なさり、そのバトルが周囲の注目を集めました。
そのうち別の切り口でこの件を書きたいと思ってますが、あの時期のあれは、今振り返ると奇跡だったと思います。
というわけで、今回はここで終わります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。