峰と彼女の1095日の戦争
やあ、みんな元気?峰ちゃんは元気じゃないよ。
さて、突然だけど戦争が終わった。
僕が今の会社に来てまず真っ先にやらなきゃいけない、と思ったことは財務関係の整理だったんだ。
コロナ融資で借りたはずの8,000万円がない。
知らないリフォームの明細。勝手に土地(土)の購入に使われる売上。
これはまずい。運営するにしたってもうちょっとなんかあるだろ。
そう思って僕は1年目彼女(社長の奥様)に言ったんだ。
「通帳を渡してください。今後振込はこちらでやります」
でも、彼女は良い顔をしなかった。
確かに、その頃の僕と言えば髪の毛はピンク色だし年中アロハだった。
でもそれで銀行から融資を受けられなかったわけじゃないし、案内が決まらなかったわけじゃない。ただ、なんとなくうさん臭さ、みたいなものが滲み出ていたのかもしれない。
とにかく彼女は首を縦に振らなかった。
仕方がなく僕は遅れる支払の建て替えや、振り込まれない給与口座を眺めながらコーヒーをすすっていた。
2年目になった。だいぶ仕事にも慣れてほとんどのお金の動きを指示できるようになった。彼女との仲は結構よくなっており、ラインでこれ支払っておいて、と請求書を送ると歳のせいか8と6を読み間違えたり、1と7を読み間違えて多く振り込んだり、少なく振り込んだり、2回同じ金額を振り込んだり、とおちゃめなところも見せてくれるようになった。
マジでいい加減にしてくれ。
さすがに僕もこれは不味い、と社長と奥様を呼んで話をしようかと思った。けれど彼女は社長の奥様である前に一人のレディーだ。長年私が経理をやってきたのよ!という自負もあるだろう。
それをご主人(社長)の前で「お宅の奥さんは振込は間違えるは、振込に行ったらカードは忘れてくるわ散々なんですよ。どうにかしてもらえませんかねえ…」なんて指摘されるのは恥ずかしいだろう。プライドだって傷つくだろう。僕はそういうところにはデリケートだ。デリケートゾーンのかゆみにはなるべく触れないフェミニーナ峰。だから私は彼女と喫茶店でおしゃべりをしようと思った。
「お前マジでいい加減にしろよ。工務店からも叱られているし、銀行からも奥様大丈夫ですか?って俺に電話が来るんだよ。カード忘れるとかありえないだろ。っていうか銀行に登録した印鑑が多すぎて決済の時間違えて渡すのもあり得ないし、いいから通帳よこせよ」
社長はいない。僕は彼女のデリケートゾーンをここぞとばかりに搔きむしる。でも、彼女は首を縦に振らなかった。
どうしてだろう。僕の髪の毛はもうピンク色じゃなかった。その代わりにびっくりするほどツーブロックだったし、毎月使途不明の商品券を彼女にお使いさせていたのが不味かったのだろうか。
代替案でせめて、せめてネットバンクに切り替えて、僕が入力、彼女が決済ボタンを押さないと送金できないシステムも提案してみたが歳が歳だ。
「とてもじゃないけどネットについていけないわ 笑」
彼女の笑顔はとてもチャーミングだった。
そうして3年の月日が流れた。彼女の中でも3年の時間が流れたようで、つい先日送金忘れ4件、今年に入ってカード取り忘れ3件が発生しさすがにもういいでしょうよ、とあれこれ話をした結果、いま僕の手元にはあらかた資金移動され20万円しか入っていないメインバンクの通帳と印鑑がある。
今後は必要に応じてメインバンクに他の口座から彼女が資金を送金してくれるんだってさ。これ意味ある???
アディオス!