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峰とお酒と群発頭痛

あ、これ死ぬやつだ。
そんな頭痛に襲われたのは20歳の秋だった。
真夜中に突然目の奥が突き刺されるような、焼けるような、頭の左側が今にも爆発するような、そんな痛みに襲われた私、発狂まいそうな痛みに耐えかね死のう、死んだ方が楽だわ、と当時住んでいたコンクリート造の賃貸マンションの壁に何度も頭を打ち付けそのまま気絶するように横たわった。


翌日…。なんともなく復活した私は「これはただ事ではない」と即脳外科を受診。
CTの結果異常なし。その際も頭痛を発症。左目の充血、涙、鼻水の確認。点滴により症状が回復した結果、群発頭痛と診断された。
群発頭痛とは?

(出典元 https://doctorsfile.jp/medication/95/ )



奇病、というか発生原因があまり分かっておらずとりあえず脳内の血管が稀に膨張し、三叉神経に触れることにより神経にダイレクトに痛みを与える、っていうほんと死ねるなら今すぐ死にたい病気

ただいくつか分かっていることがあり、刺激物質(カフェイン、アルコール、ニコチン、ポリフェノールとか)が起爆スイッチとなり発生期間中服用すると場合によっては痛みに繋がるという感じ。
つまり…お酒が飲めなくなるんですね。

別にこの話をしてお涙頂戴をしたいわけではない。確かに辛い。当時の私は本気で死んでしまおうか、まで考えたこともあった。
ただ、私にはやりたいことがあった。見たい世界があった。だから…自分を使って実験をしてみました!!
(※良い子は真似しちゃダメだよ!死ぬよ!)


(この病気は基本的に有効な予防薬、というものはないのだけれど、トリプタン系薬剤が発症時にはよく効く。
様々な種類があるのだけれど、メジャーなのがイミグランという薬でそれぞれ錠剤→点鼻→皮下注射の順に即効性、薬価が変わってくる。
ちなみに皮下注射の薬価は2,664円。なかなか良い金額だったりする。)

では実験行ってみよう!
まずイミグラン錠剤。
この薬は服用から30分でようやく効き始めるという自己注射を知ったいまではザコな薬なんですがこれでも高価な薬です。

とりあえずこれを服用してから、飲酒を開始したらアルコールによる痛みが発生しても、イミグラン錠剤がそのタイミングにマッチして痛みを抑えながら飲めるのでは無いか?というもの。

体感だけれど、大体飲酒後30分前後に頭が爆発する未来が待っているイメージ。胃の中で薬が溶け、血中に回り出す時間を考えたら同じタイミングで服用してみてもいいんじゃないかしら?と思ったのである。

季節は秋。時折暑さが戻ってくるような季節で、時間帯は昼。
痛みの恐怖はあるけれど、秋晴れの下、屋上でビールを流し込んだら最高なんじゃないだろうか?という欲望を抑えきれずイミグラン錠剤をビールで流し込む…(絶対に真似しないでください)

1口目のビールはやはり美味い。最高。この時間だけループしてほしいとさえ思う。

飲み始めて30分。あれ?これ行けるんじゃない?まだ飲めるごくごくごく…

さらに30分後。これは…優勝だ!
完全に群発性頭痛に勝利し…あ、ズキンてきたア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ー!!
(その後目の奥が焼ける痛みに椅子から転げ落ち床に頭を打ち付けながら1時間叫んで気絶)

ダメでした。

そうか、もうお酒は飲めないのか。酒を飲んではくだらない議論を大学近くの居酒屋で繰り広げることが好きだった私はたいそう落ち込んだ。でも薬の世界は広い。
こんな錠剤じゃなにも解決しないよ!!と次に処方されたのがイミグラン点鼻薬。
この子は痛み始めたら痛む側から吸い込む点鼻タイプ。当時の私は自己注射を処方されておらずこの子をネックレスに繋げて首から下げていた。
(ちなみにこの病気は明確な予防法が確立しておらず、この頃の私はステロイド剤(血管の炎症を抑えるつもりで)を大量に服用しておりパンパンのムーンフェイスをしていた)

点鼻効き目は吸い込んでから15分程度で効果が出始めるのだけれど判定が難しい。
いかんせん、高い薬なのでミスは許されない。

①あたまいたい、かな?
なんかズキンズキンしてきた(このタイミングで使用する)あー…なんとか収まったかも…

②あたまいたい、かな?
なんかズキンズキンしてきた
あー鼻水でるー涙溜まってきた(このタイミングで使用する)…あれ?まだ痛い?あれ?あア゙、ア゙…ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!痛い痛い痛いいいぃいぃ!!(失敗)

極端なのである。痛みのカーブをイメージして欲しい。最高潮になる前にずずっと点鼻をやらなきゃならない。タイミングがピーキーなのである。あと喉に落ちる薬がクソほど苦くて10数年経ったいまでも苦手。

次に発症したのは翌年の春だった。桜が散り、新緑萌える昼下がり。
私は屋上でぼんやりと春の風を受けながら「そういえば昨日、お取り寄せした干物セットが届いたんだよな。あれ焼きながらビール。うん、最高だろうなぁ。最高だよなぁ…。」

30分後にはビールを買ってきていた。
不屈の精神。死ぬほど痛いけれど、なんとか、なんとか楽しく過ごしたい。負けたくない。お酒飲みたい!そんな気持ちが私を押していたのかもしれない。若かった。

※1つ注意したいのが、血中アルコール濃度。詳しく調べているわけではなく、あくまで体感でしかないのだけれど、飲んだら即痛くなる訳ではない。乾杯後、舐める程度なら問題ない。ウイスキーボンボンも2個食べたときは平気だった。3個目は怖くて食べてない。

なので最初の一口、二口はカワハギの干物焼ける匂いをおかずにビールを1口、次にかぶりついてから一気にビールを流し込み…最高。ビール最高。
カシュッと気持ちのいい音をさせ、2本目に口をつけた所で特有の痛みが左目の奥に発生する。
いまだ!いっけええええええええええええええ!!と点鼻薬をすする。苦い…。カワハギが一瞬で消え去る。

錠剤よりも粘膜からダイレクトに吸収されるため、吸って5分、一旦痛みが過ぎ去る感じがある。きた、今度こそ優勝だ!!ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!

ダメでした。直後にバーン!って痛みの並が押し寄せさっき食べたカワハギを嘔吐しながら退場。残念。

アルコールってすごい。
医療従事者が読んでいたら、この人バカでしょう?と思われるかもしれないけれど、死ぬほど痛いならいっそ死んでも構わない、くらいには毎度毎度、絶望的な気持ちになる。
私の精神はdrink or dieなのである。

普段の生活もいつ来るか分からない痛みに怯え、早寝をしても痛みで叩き起される。薬を使っても症状が改善されないときもある。夜中、3時間ほど痛みに悶え涙を流しながら気絶するように眠る。こんな生活していても意味がない。死のう、と思うのは簡単だけれど実行できるかと言えばそれは嘘だ。
この時期の飲酒は一種の自傷行為なのかとしれないとか、暗い話は辞めて次の実験に行こう。

ある時、また群発期がやってきた。
ちょうどその頃は以前勤めていた会社が重大な局面にあり、休んでいるような場合ではなかった。錠剤も点鼻もダメだ!いますぐ、いますぐ効く薬をくれ!!と叫んだ結果、あんまりオススメしたくないんだけど…と医者が皮下注射を処方してくれた。

世界が変わった。
痛みに悶え目が覚めてもぷすっ、とやれば5分後には痛みが散っている。なんだよこれ。もっと早く処方してくれよ!これなら、これなら行けるかもしれない。アルコール禁止期間にたどり着けなかった理想郷へ…。

その夜、私の前にはやはりビールがあった。隣には角煮だ。痛みを思い出すととてもじゃないがお酒なんて飲みたくない。でも、やらねば…。

ホロホロに仕上がった角煮は口に含むと溶けるように甘さを残して消えていく。
すかさずビールを流し込む。この時、発症してから5年。毎度毎度忌々しい私の身体め…。でもビール美味しい。角煮美味しい…。
飲み始めて半分もしないうちに、また特有の痛みに襲われる。ここだ。やるしかない。
左腕に注射を打ち込む。
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!

(注射。これはこれで結構痛い。頭が痛いから麻痺しているけれど、毎日使っているともう打つとこないよ?ジャンキーなの?ってくらい痣だらけになる。あと薬がシュッ、と身体に入る感覚、血管が一気に収縮する感覚。全てが気持ち悪い。)

15分後。角煮を食べながら再びビールを口にしている私がいた…!そう、皮下注射の即効性はアルコールを起因とする群発頭痛を見事に抑えたのである。ついに私は痛みが解放されたのだった。発症してから5年であった。

それからと言うもの、私は酒を飲みながら注射を打つジャンキーに…なるわけもなく、ひとつの結論が見えたことに満足し、この実験は終わった。
ただし、この話には続きがある。


痛かったらとりあえず注射、というのはもちろん間違えで、根本的にはなんの解決にもならないのである。大事なのは予防。
繁忙期に注射を乱用した結果、効きにくくなったり、逆に頭痛の頻度が増してしまった。
こりゃいかん、と本格的に予防療法に目を向けたところに飛び込んできたのがアマージという薬だ。
こいつはゆるーく、ながーく効く。この病気の最大の特徴は夜、睡眠時に来ること。
寝るのが恐怖。痛みで起きて、注射をしても数分の激痛と戦わなければならない事実は消えない。眠れない日々は心を蝕むし、人格が変わるような人も少なからずいるようである。
なので、予防。アマージを眠る前に服用することにより、毎日来ていた夜中の激痛が2日に1度、3日に1度になる場合がある。
私の身体は薬に合っていたようで、少しだけ平穏を取り戻したのだ。

あれ?もしかしてこの薬があればものすごい量を飲んでもいけるんじゃないか?
バカである。精神が悪い方向に向いている。
でも仕方がないじゃない。毎日痛くてつまらないのだから何か、しなければ腐ってしまう。

私の目の前には大量のクラフトビールが並んでいた。その頃ハマっていたのだ。
ゆっくり効く、ということを考えると飲酒の1時間前に服用しておく。
毎日しんどく、なにか生み出したいと思って作り始めた自作のベーコンをツマミに飲んでいく。
10分、20分、30分…。
そうだ、緊張もいけないんだった。慌てて私はデパスをビールで流し込んだ。(絶対に真似しないでください)
40分…ビールはすでに2本あいている。何かあった時のために皮下注射を準備しておきながら飲み続ける。
ついに1時間経過。おや?これはもう克服宣言を出してもいいのではないか。しかし、様子を見よう。2時間後…
よっしゃー!!痛くならなかった!ちょっと鈍い感じはあるけれどこれはもう完全復活!!
やったぜ、アマージ服用後の飲酒では頭痛が発生しないんだ!!

私は嬉しい気持ちを胸にベットに横たわると暫くして満足な眠りに落ちた。

そして3時間後。ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!
いままでの3倍くらいの痛みに左目の奥を刺されながら真夜中に目覚める。

即皮下注射で事なきを得たけれど、やっぱりダメなんです。
ただ、飲酒中の痛みは限りなく抑えることができ、仮に頭痛が来ても皮下注射を打てば凌げる。
このコンボが分かっただけでも儲けもんだと痛みに涙しながら私の口元はニヤついていた…。


ここまで読んで、この人本当にバカだなー、と思われる方が多数だと思うんですがそうです、バカなんです。
20歳からお付き合いしているこの病気のおかげでだいぶ人生変わった部分も多く特に今の仕事になってからは、繁忙期に来ると本当に全てが辛くてならいっそいつ死んでも良いようにしておこう!って感じで刹那的に生きてます!


別に痛いのが好きな訳では無いので、予防出来るならしたい。
特にこの3月は色んなことを進めながら仕事をして来ていたので、だいぶ疲れ果てていた部分がありました。もちろん毎日注射の日々だし、薬が効かないってなると恐怖でたまらなくなります。

そんな時に出会ったのがこの子。


そう、人工呼吸器です。

群発頭痛の処置として、1分間に700Lの酸素吸入により痛みの軽減が出来ることは昔から知られていたんですが、当時は保険適用もなく、また個人宅に酸素ボンベ置くことがダメなケースが多かったんですね。
それが平成30年から保険適用になり、ボンベではなく、空気中の酸素から高濃度酸素を作り出す機械を処方してもらえることになりました。
(これは重度の患者でないとまだ処方されないかもしれないですが、ペインクリニック、頭痛外来であれば話を聞いてくれます。脳神経外科はこの病気にあまり詳しくない方が多いので、困っている方は上記の病院にかかりましょう。)

そんなわけで再び実験の季節がやってきたのです…。とやりたいとこではあるんですが、もはや自宅で痛みの恐怖を感じながら酒を飲むような元気は私には残っておらず、いまはただ痛みが来そうな時にベッドに横たわりシュコーシュコーとその嵐が過ぎ去るのを待っています。

※番外編
痛みの原因は三叉神経に血管が触れる、という神経ダイレクトアタックなので誰かが考えたんでしょうね。「神経ブロックしちゃえばいいんじゃない?」って。
都内であればNTT病院(五反田)で受けられる。
私もかつて受けてみたのだけれど、まずブロック注射って凄く痛い。
凄く痛い頭痛の人が言うんだから、これは凄く痛い。あと左の三叉神経をブロックしているので左目瞼がなんか落ちる。顔の感覚が少なくなる。
日常生活で言えば少し頭痛の頻度、発症時の痛みが減ったかな?レベルで、もちろんこの時も飲酒をしてみたのだけれど帰宅途中の中野駅前でのたうち回っていました。

なので私にとっての最強レシピはアマージ+痛くなったら皮下注射。これです。
これで急な飲み会もOKです。
群発期の人の気持ちは分かります。分かるけど腐っていても始まらないし、楽しい時間があればその思い出を胸に生きていけるからみんなもあれこれ組み合わせて自分の身体に合った飲酒ライフを送ってね( •ω- )☆

(すべて自己責任です。私は私が飲みたいから飲んでいるだけで、この期間、無理強いされても体調が悪かったら絶対に飲まないようにしているので、飲んでいる私を見かけたらアイツ未来に生きてるな…って思ってください。絶対、真似するなよ!)

アディオス!!

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