【2023年通常国会】農林水産分野における日本共産党の活動報告
田村貴昭衆院議員+紙智子参院議員の農林水産分野の国会活動
農林水産分野における211国会は、①肥料・飼料・資材の異常な高騰による農家の苦境と対策、②「農政の憲法」と言われる食料・農業・農村基本法の検証・見直し作業、の2点が焦点となりました。
①については、岸田政権が「新自由主義からの転換」を掲げたにもかかわらず、これまでの制度の枠内での対策に終始していること、特に危機的状況にある酪農への支援が不十分であることを中心に、政府への批判・要求を突き付けました。
また、諫早湾干拓事業におけるノリの不作、鳥インフルエンザ対策、盗伐被害者救済・防止対策、福島第1原発事故による農業・水産業への被害、能取湖のホタテ貝のへい死対策、違法伐採木材対策、自伐型林業への支援、ゲノム編集産品の問題、農薬安全性審査の不備の問題、ALPS処理水の海洋放出問題、東電の農産物被害補償方法変更問題、ゲノム編集トラフグのふるさと納税返礼品問題など、個別の課題についてそれぞれ追及しました。
同時に、これらの課題を②の基本法の検証・見直し作業における食料自給率・食料安全保障の議論と結び付け、農政の基本方向を問う質疑を行うとともに、「食料・農業・農村基本法見直しプロジェクトチーム」を結成し、関係者・識者からのヒアリングを積極的に行い、党の提言をまとめる作業を進めました。
1、酪農の苦境に一刻も早い対策を!共同と運動の広がり
畜産業は、飼料や生産資材が大幅に高騰しているにもかかわらず販売価格が低迷し、特に酪農は乳価が上がらず、搾乳すればするほど赤字が膨らむ事態に陥りました。
昨年10月に農民運動全国連合会(農民連)は、生産者が個人名で直訴状と銘打った農水相要請行動を開始。11月30日に農林水産省前で開いた緊急中央行動に参加した酪農家が、子牛を前に「酪農ヤバイです」と訴えました。この訴えはユーチューブ再生回数が1万回を越えるなど、反響が広がりました。
農民連は当日、1,000人を超える直訴状を農水相に手渡しました。
年が明け、2月14日には、農民連と食料安全保障推進財団、安心・安全の国産牛乳を生産する会が共同で、「生産資材の高騰などで離農・廃業が広がる畜産・酪農の危機を打開する対策を求める院内集会」を開きました。消費者団体や婦人団体も含め150名が参加しました。この二つの集会はマスコミでも報道されました。「酪農ヤバイです」が共通認識になり「日本から畜産の灯を消すな!」という運動が広がりました。
わが党は昨年、いち早く酪農危機を打開するための直接補てんを求めるとともに、「日本から畜産の灯を消すな!」のポスターを活用した対話運動に取り組みました。
通常国会は、小池晃書記局長の代表質問(1月27日)で酪農家の窮状を訴え、従来の対策の延長ではなく、飼料価格高騰前との差額を補てんする緊急支援を求めました。
田村貴昭議員は政府質疑2回、紙智子議員は政府質疑3回、参考人質疑1回を使い、酪農支援を強調しました。
田村議員は、酪農家が続々と廃業している実態を示し、飼料原料の輸入価格と輸入数量から高騰開始後の農家負担増を試算。さらに、政府の支援策で支給される金額を超える高騰が起きていることを具体的に明らかにし、1頭あたり10万円の支援を要求しました。
紙議員は、酪農家は赤字経営が続いているのに、大手乳業メーカーの内部留保は増やしていることを告発、国が乳価を引き上げるためのイニシアチブを発揮するよう求めました。野村哲郎農水相は、「大手乳業メーカーがこんなに潤っているのか。何らかの方法があれば考えてみたい」と答弁。さらに、紙議員は、カレントアクセスによる乳製品の輸入が義務ではないことを示し、生産者を生乳の需給調整弁にするのではなく、国家貿易で需給調整すべきで、カレントアクセスの輸入量を削減し調整に乗り出すよう求めました。
また参議院では参考人質疑が行われ、わが党は現場の酪農家を招致して、酪農家の危機と必要な支援、消費者への感謝の思いを陳述してもらいました。紙議員はさらに会期末に質問主意書で緊急支援を求めました。
さらに小池、田村、紙各議員は、ツイッターの「#牛乳でスマイルプロジェクト」「#ミルクのバトンリレー」に取り組みました。
運動と国会論戦に押されて、農林水産省畜産局長は、2月に農政史上初めて「酪農家の皆様へ」と題する生産者個人への手紙を出し、3月には「畜産・酪農緊急対策パッケージ」を出しましたが、それでも赤字を埋めるに至っておらず、引き続き要求運動を強める必要があります。
2,食料・農業・農村基本法見直しの議論
食料・農業・農村基本法は、農政の基本理念や政策の方向性を示す法律であり、昨年秋から見直しの議論がはじまっています。背景には2020年初頭からのコロナ感染症による世界的な物流の混乱、穀物や資材価格の高騰がありますが、その最中にロシアがウクライナを侵略し、小麦などの基礎的食料の入手が困難な国が発生し、食料危機・食料安全保障が現実的な課題となりました。
6月には政府審議会に設けられた「検証部会」における議論の「中間とりまとめ」が発表されました。
日本共産党国会議員団は、昨年から鈴木宣弘教授を招いて学習会を開くなど議論を進めてきましたが、ことし春には党プロジェクトチームを発足させ、磯田宏九州大学教授、田代洋一横浜国立大学名誉教授、下山久信全国有機農業推進協議会理事長などを招いて意見聴取を行いました。
磯田宏九州大学教授は「世界の基礎食料市場は、米中を両軸とする政治市場化の様相を深めている」と指摘し、個々人におけるフードセキュリティーと、そのための穀物を軸に需給と価格の安定が大きな課題となると指摘しました。
田代洋一横浜国立大学名誉教授は、軍事費を43兆円増やすなかで、自民党の新農林族は農林予算の圧縮に危機感を抱いたが、5月のとりまとめで「自民党と農水省の手打ちが済んだ」と述べました。また党には基本法論議では、「新自由主義からの転換、中小・家族経営を含む多様な経営体をしっかり位置付けることが大切」とし、「基本法の本質は変わらないとしても、その次元での反対を掲げるのではなく、農家・国民にプラスになるよう具体的争点で競り勝つチャンスとして生かすべき」と注文しました。
党としては「中間とりまとめ」に対応する党の批判と提案をまとめ、公表する予定です。
国会審議では、田村議員は個々のフードセキュリティを取り上げ、FAOの食料安全保障の定義にならって「全ての人が、十分な食料を、物理的・社会的・経済的に入手可能であること=食料アクセス権」を権利として保障するべきと主張。農政に社会福祉的要素を持ち込ませない思想(縦割り行政)の克服を訴えました。また、政府が有事の際に農家にイモやコメなどの作付けを強制する法制度を検討している問題を取り上げ、「戦前の国家総動員法による『臨時農地等管理令』をほうふつとさせる」と指摘し、「荒唐無稽な『制約措置』を考える前に、低米価にあえぐコメ農家や、作物の感染症に苦しむサツマイモ農家、続々と廃業している酪農家を支援するべきだ」と強調しました。
紙議員は、国内農業が輸入農作物に押されて疲弊してきた経過に触れつつ、1980年の国会決議では、小麦、大豆、飼料作物など自給力の強化を目指す構造転換対策は進んでいないと追及。輸入依存からの脱却を言う前に、なぜそうなったのかの検証が必要だと訴えました。さらに、昨年11月に財政制度審議会は、食料安全保障について「国際分業、国際貿易のメリットを無視している」との建議を出したことについて質問。野村哲郎農水相は「財政審の考え方には、疑問を抱かざるを得ない」と答弁しました。国連人権理事会が任命する国連食料への権利特別報告者マイケル・ファクリ米オレゴン大学教授は、食料への権利に基づく新しい国際的な食料協定への移行を提案しているとし、食料主権を軸に置いた食料の安全保障を構築する議論を行うよう要求しました。
3,法案・その他のテーマ
【法案】
・合法木材利用促進法(クリーンウッド法)改正案→盗伐対策の実効性薄いと指摘。立憲民主党、国民民主党、有志の会と4会派共同で合法性確認の方法を再検討し違法木材の流通規制に踏み出すことを盛り込んだ修正案を提出。与党の多数で否決。原案には賛成。
・水産加工改良資金臨時措置法、漁港漁場整備法、遊漁船業適正化法、賛成。
【田村議員】
・諫早判決→開門を命じた判決の有効性を質問。政府は「国には開門義務は残っている」と答弁。「開門を命ずる確定判決が無効化」などとする報道が誤りであることを確認。
・有明特措法に従い、ノリ不作の損失補填を強く要求。実効性ある水質改善策→開門調査を
・鳥インフル→「ハエが媒介している」との国立感染症研究所の指摘を、農水省が無視していることを暴露。発生後の処理を農家の責任としていることを見直すよう要求。
・農薬製造企業が農薬の安全性審査を申請する際、ネオニコチノイド系の殺虫剤などで都合の悪い学術論文を恣意(しい)的に除外している実態を告発。
・ゲノム編集トラフグがふるさと納税の返礼品に、農水相はコメント避ける
【紙議員】
・農場の分割管理を含め生産者支援の強化を要求
・自伐型林業が活用できる森林・山村多面的機能発揮対策交付金の予算が大幅に減額。来年度の予算をもと通りに。自伐型林業を政策に位置付けた支援体制確立を要求。
・能取湖でホタテの稚貝が大量死、原因究明、再発防止、救済を要求。
・改正漁業法に伴う資源管理に不満絶えず、丁寧な説明ではなく漁業者の納得が必要と主張。
・福島原発汚染水の水産加工業への影響額「把握していない」と水産庁。
・岩手沿岸部で再生可能エネルギーを生かした街づくりを、人口減少が加速化、創造的復興から被災者と地域に根ざした復興を求めた。
・農産物被害の補償方法を東電が一方的に変更、品目ごとの賠償に戻すよう求めた。
・国連人権理事会勧告を示し、汚染水の海洋放出をするなと要求。