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「仕事は木材生産じゃない。森づくりだ」 自伐型林業支援の現状と課題

 5月26日、田村貴昭衆院議員は自伐型の林業を調査するため、徳島を訪問しました。県南部の山道を車で2時間ほど走り、地元の新居敏弘町議、達田良子県議、白川容子四国ブロック国政対策委員長とともに、山深い那賀町を訪ねました。
 訪ねたのは、徳島県那賀町で自伐型林業を営む橋本林業さん。銀行員だった夫の橋本光治さんと妻の延子さんは、夫婦で1978年に延子さんの父の山を受け継ぎ、以来44年、この地で林業に携わってきました。2001年には、那賀町から出て就職していた息子の忠久さんが戻ってきて後継者になり、忠久さんの妻や子どもとともに、家族で剣山南麓の山々とともに生活されています。
 しとしと降る雨の中、延子さんと忠久さんは現地に到着した田村議員一行をわざわざ出迎えて下さり、お抹茶と手作りの「小男鹿」(さおしか=徳島の伝統的な蒸し菓子)で歓迎してくださいました。あいにく光治さんは仕事で不在だったものの、忠久さんが資料まで作って詳細に説明してくれました。
 「生産性ばかりを重視する政府・林野庁の考え方とは真逆。曾祖父からの『土地が焼けるので皆伐(全て伐採する)はするな』との教えを守っている。木材生産ではなく、森づくりが仕事だ」。
 100㌶の森に、幅2~2.3mの細くて崩れにくい作業道(集材路)を網の目のように作る。小さい機械で少しずつ間伐を行い、植林は一切行わず天然更新のみで樹間には沢山の他の樹木や植物が生育する。生き物はサワガニ一匹殺さず、自然に近い状態の森を維持する――。
 樹齢100年を超える杉の巨木の森は、荘厳な空気さえ漂っています。木の間をぬうように斜面を駆け上がる作業道は、地形に逆らわず、最小限の切土・盛土で頑丈に作られ、森の風景と一体化していました。一行が息を切らせながらその作業道を上っていると、ちょうどサワガニが現れました。忠久さんは「こいつらを殺さぬようミニユンボですくえるようになりました」と笑って話していました。

橋本さんの森で、樹齢100年を超える杉を見上げる田村議員

■災害と林業

 林野庁が目指す「林業の成長産業化」は、大型の高性能林業機械を使い、生産を効率化して利益を増大させようというものです。例えば、ハーベスタという機械は大変高額ですが、杉の木1本をわずか30秒ほどで伐倒・枝払い・玉切り・集積までしてしまいます。機械を買うために借り入れをし、借金を返すために広大な森林を短期間でどんどん皆伐する。橋本さん一家が目指す林業とまさに「真逆」です。
 「自伐型林業」は、こうした現代の林業施業に対し疑問を抱く若者やUターン者を中心に、大きく広がってきました。自伐型林業は、森林の環境保全と林業経営の「持続可能性」を中心に据える林業です。(「議会と自治体」6月号「自伐型林業=小規模〝農耕型〞で広がる新ライフスタイル」自伐型林業推進協会(自伐協)上垣喜寛事務局長)。橋本さん一家が積み上げてきた哲学や知識、ノウハウが、全国で共有されるようになっています。
 ただ、課題もあります。
 橋本さんは、総延長30kmにも及ぶ「崩れない作業道」を30年かけて作り続けてきました。一度作れば頑丈で崩れず、補修作業もほぼ不要ですが、新規参入者にとっては長期にわたって生活を維持する算段が必要になります。自伐型林業に取り組む林業者からは、作業道敷設に補助が欲しいと要望が上がっていました。
 しかし、作業道への補助事業である国の「森林環境保全直接支援事業」は、林野庁の「森林作業道作設指針」に則り、山林の傾斜の斜度に応じて2.5m~3m以上の幅員の作業道に限定されていました。林野庁の方針は、「大型の高性能林業機械を使って効率化」ですから、これが通れる幅の道を作れというわけです。
 ところが、大型の林業機械が通れるようジグザグに入れられた幅広の作業道(集材路)は、雨が降ると川ができ、そこから盛土・切土の部分が崩れます。その結果、大量の土砂が谷筋に流れ込んで、土砂崩れと鉄砲水の原因になります。
 自伐協が2021年に東京大・熊本県立大の協力のもと行った「災害と林業 土石流被害と林業の関係性の調査」では、大規模な土砂災害が起きた宮城県丸森町、熊本県の球磨村で土砂崩落の原因を調べました。その結果、どちらも未整備林や放置林が原因で崩落したのは数%で、皆伐地に設置された作業道起因の崩壊が、丸森町では98%、球磨村では94%に及んでいたことがわかりました。

自伐型林業推進協会「災害と林業―土石流被害と林業の関係性の調査報告」より

 たとえ崩れなくても、皆伐によって流れ出した表土が谷筋を通って河川に流れ込み、河床の上昇を招き、豪雨による下流の溢水を引き起こします。田村議員が高知の香美市で出会った林業関係者は、「皆伐施業が増えたことで、市を流れる物部川が明らかに変わった。茶色の水が流れ、青いコケがなくなった」と話していました。

■林野庁の変化

 林野庁はこれまで、林業が土砂災害の原因になることを認めてきませんでしたが、自伐協の調査がクローズアップ現代「宝の山をどう生かす 森林大国・日本 飛躍のカギは」で報道されたことも手伝って、姿勢に変化が生まれています。
 5月11日、田村議員が衆院農林水産委員会でこの点を追及したところ、金子原二郎農水相は「皆伐跡地における林地崩壊は、伐採・搬出のために一時的に設置された粗雑な集材路の周辺で多く確認されている」と答弁しました。林野庁の「指針」にも、「2m程度の幅員設定も含め、検討するものとする」との文言が新たに加わり、幅員の狭い崩れにくい作業道も補助の対象となる可能性がでてきました。
 国の「森林環境保全直接支援事業」は、作業道の敷設などにかかった費用の10分の3を国が直接支援する制度ですが、作業道の幅員のほか、森林経営計画を立てること、間伐材は樹齢60年以下であること、1haあたり10㎥以上の木材を搬出することなどの要件が設けられています。
 なお、これまで一申請あたり間伐面積5ha以上という要件もありましたが、これは廃止されました。
 ただ、これらの要件はいずれも最低限の要件として設定されており、窓口である都道府県が国より厳しい要件を設けることができる建てつけの制度となっています。したがって、国が廃止した5haの要件をまだ設けている県もありますし、国が作業道の幅員を「2mでも可能」と緩和しても、都道府県が必ず緩和しなければならないわけではありません。
 現時点で、国の指針に従い作業道の幅員を2mに緩和した府県は、秋田、福島、群馬、埼玉、富山、福井、山梨、岐阜、三重、京都、奈良、鳥取、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、熊本、大分、宮崎です。
 田村議員は、5月11日の委員会で、自伐型林業の敷設する幅の狭い作業道を「減災型作業道」として位置づけ、支援するよう要求しました。都道府県でも、このような位置づけと要件の緩和が必要です。

熱っぽく林業を語る忠久さん(左)

■森林環境譲与税の活用

 自伐型林業に取り組む方々が急激に増加していると言っても、国内の住宅建設需要に必要な木材の供給を賄うには及びません。マスの供給を担う林業、素材生産業の振興と合わせ、施業を持続可能なものに転換することも必要です。
 大事なのはバランスで、防災だけでなく、地域の活性化の観点からも、地域に定着し、森林の生物多様性を守りながら経営的にも成り立つ自伐型の林業をもっともっと拡大するべきです。
 そこで重要になってくるのが、森林環境譲与税の活用です。
 森林環境譲与税は自治体が実施する森林の整備及びその促進に関する施策の財源に充てるため、創設された交付金制度です。「森林環境税・森林環境譲与税に関する法律」により、2019年から、自治体の関連団体の準備金を元手に毎年200億~400億が配られています。再来年からは財源として住民税に1000円が上乗せされ、納税義務者である約6200万人が負担することになります。これにより、年600億円が都道府県と市町村に配られます。
 ところが、2019、2020年度に市町村に交付された合計500億円のうち、間伐や人材育成、木材利用など、具体的に活用されたのは228億にとどまり、残りは使われないまま市町村にプールされていることがわかりました。
 森林環境譲与税は、2018年に成立した「森林経営管理法」による森林経営管理制度の施行に合わせて交付されている予算です。日本共産党は、この法律が50年という短い伐期で一斉に皆伐を進めようとしていること、伐採計画に同意しない所有者に対し、市町村の勧告と都道府県知事による裁定により同意とみなす制度が盛り込まれており、森林所有者の財産権を侵害するものであること、などを理由に反対しました。
 ただ、この制度を逆手にとって、皆伐ではなく、森林と森林の生物多様性を維持保全する取り組みに森林環境譲与税を充てることも可能です。実際、この交付金を使って自伐型林業推進を行っている市町村も出てきています(兵庫県養父市、愛知県岡崎市、福井市、高知県佐川町、富山県氷見市、佐賀市、群馬県みなかみ町、秩父森林林業活性化協議会)。

■自伐林業の本質

 全国で広がる自伐型林業の現場を訪ね歩き、地に足をつけて林業に取り組む人々、支援する人々200人以上の群像をリポートした佐藤宣子・九州大教授「地域の未来・自伐林業で定住化を図る」に、このような記述があります。
 「全国の自伐型林業の現場を訪ねて、改めて再確認したのは、わが国の気候風土の多様性と複雑さです。その地域、地域に合わせた林業があり、置かれた条件の中で、環境への負荷をできるだけ小さくして、その地に合わせた林業を考え、実践することが重要なのだと感じました。その実践者がまさに、自伐型林業者であり、自伐林業の本質でもあります」。
 自伐型林業推進協会が、農民運動全国連合会(農民連)、全国沿岸漁民連絡協議会(漁民連)とともに、家族農林漁業プラットフォームジャパンの会員団体として、国連の「家族農業の10年」の国際運営委員会と連携し、国内における持続可能な農林水産政策の実現を目指して活動しているゆえんです。
 国土の7割を占める山林の生物多様性・持続可能性の保全のためにも、国と地方の行政を動かし、小規模な自伐型林業を全国津々浦々に広げる政策へ、抜本的な転換を図ることが求められます。