気象庁は命を守る緊急速報メールをなぜ廃止するのか
【写真=爆発的噴火をした桜島(7月28日、鹿児島市提供)】
気象庁は13日、噴火や大雨などに関する特別警報の緊急速報メールの配信を、今月26日に停止すると発表しました。活火山がある自治体などの反対を押し切っての強行。一方的な決定に、多方面から困惑と怒りの声が上がっています。
■26日終了
気象庁は、特別警報が発表された場合に、携帯電話を通じて強制受信の緊急速報メールを配信しています。強制受信であるため、携帯電話を持つ国民全員に届きます。地震が起きる直前に大音量の警報が鳴り、驚いたことがある方も多いでしょう。
このうち、火山噴火や大雨、暴風、高潮、波浪、暴風雪、大雪に関する特別警報について、今月26日の午後2時を以て配信を終了すると発表しました。地震・大津波の警報は引き続き配信されます。
■合理的理由なく 経費削減が目的
田村貴昭議員は11月15日の衆院災害特別委員会でこの問題を取り上げました。気象庁は廃止の理由について、「早めに、地域を絞って伝達することが重要で廃止はその一環」と答弁。しかしそれは、気象庁から国民に直接送っていたメールをやめ、自治体だけに詳細情報を記載したメールを送ることとするため、自治体はそれを「早めに」住民に送ってほしい、ということに過ぎません。
気象庁の労働者で作る組合、全気象労組(国交労組)は、現場の労働者の考え方として「関係自治体に対し、これまでを上回る『早い』情報伝達を実現する技術的なサポートをすることは、気象台では無理だ」としています。「早めに」という答弁には何の根拠もありません。
自治体や研究者などからも、▼第一報の即時性が損なわれるため、住民の避難が遅れる、▼アプリなどのダウンロードや登録が必要になって、全住民に届かない、▼代替措置が間に合わない自治体が出てくる、などの懸念が指摘されています。
田村氏は「廃止する合理的理由はなく、経費削減が目的だ」と指摘。実際、年間約1200万円、システム更新に約3億円かかる大雨・噴火速報メールは廃止となり、経費がかからない地震・大津波速報メールは継続されます。
ことし7月の桜島の爆発的噴火の際には、この速報メールが多くの住民の命を救ったばかりです。日本共産党の持留良一・垂水市議は「住民はメールを見て準備を始め、いち早く避難することができた。廃止は困る」と不安を漏らします。
全国167自治体で構成する火山防災強化市町村ネットワーク(会長=鹿児島市長)は要望書を提出。「第一報として即時性の高い情報伝達手段であり、配信終了は住民への影響が大きい」(要望書)と配信継続を訴えています。
■自治体から異論 担当相に伝えず
谷公一防災担当大臣は10月28日の閣議後の記者会見では、「(自治体から)なぜ廃止するのかという苦情は今のところない」と答えました。ところが、11月15日の田村氏の質疑で、谷大臣は「会見後に初めて聞いた」と答弁。気象庁が自治体からの異論を大臣に報告していなかったことが明らかになりました。
また田村氏の調査で、廃止を決める前の2022年の予算の段階で、配信システムの点検費用を丸ごとカットしていたこともわかりました。昨年10月に廃止を発表した後、その三日後に反対意見を踏まえ廃止を見送ると発表。ところが見送ったにもかかわらず、メール配信に必要な予算を削っていたのです。
田村氏は「廃止ありきの進め方は異常。自治体と向き合い、運用の継続すべき」と主張しました。
■防災機関としての役割果たせ
井口正人・京都大学防災研究所附属火山活動研究センター教授の話
「気象と火山の速報メールをやめるというが、火山は気象と比べ他の伝達ツールが整備されていない。火山現象は複雑で、ゆっくり動くこともあるが、特別警報の対象となる噴火警戒レベル4や5はかなり差し迫った段階。いち早く伝えないといけない。むしろ速報メールに警戒要する範囲を書き込むなど改善すべきなのに、逆に廃止するとは。災害情報を国民にあまねく届けるという意味で、国の防災機関としての役割を果たしてもらいたい」