米余りで窮地の農家をしり目に、米を大量輸入する理由
【写真=田んぼの草刈りをする田村貴昭議員】
窮地に陥る米農家
ほぼ全国で稲の刈り取りが終わり、生産者が受け取る米の価格(概算金)が出そろってきました。
金額は全体としてすこーし上がったものの、相変わらず悲惨です。米の生産費は2020年の段階でおよそ60㌔あたり15,000円。いま、肥料費、農薬費、動力高熱費、何もかもが高騰しており、2022年の生産費が15,000円を下回ることはありえません。どこも生産費を大きく割り込んでいます。
それでも、東日本はまだマシで、西日本は上がり幅がさらに小さい印象です。
中でも九州は、全国がわずかに回復している中、なんとマイナスでした。これは昨年の価格低下を他地域よりがんばって抑えた結果、安い他県産のコメが流入してしまい、在庫が膨らんで価格を引き上げられない状況となってしまったからです。
いずれにせよこの米価では、労働費を割り込むどころか、物財費すら出ない可能性もあり、このままではすぐにでも離農が多発してしまいます。
これまで、田村貴昭議員は国会で何度も政府の買い上げ・市場隔離を要求してきましたが、政府は絶対応じようとしません。2014年には米穀機構が古米と政府備蓄米を交換するという形で25万トンの市場隔離をしたことがあり、やればできるはずですが、「もうそんな時代ではない」とよくわからない答弁を繰り返すだけ。どんな時代ですか。
それを言うなら、「食べ物の確保がどんどん怪しくなってきている時代」というべきでしょう。
肥料価格高騰への対策をすると言うが…
一方、肥料は高騰を続けています。高騰の原因は化学肥料の輸出国であるロシア・ベラルーシへの経済制裁と中国の輸出規制です。化学肥料のほぼ全量を輸入に頼る日本は高騰の影響をもろに受けています。政府の試算では昨年の約1.4倍。しかし農家によってはばらつきがあるようで、倍になったという声も沢山寄せられています。
政府は農家の悲鳴を受けて仕方なく肥料高騰対策を打ち出しましたが、これがまた中途半端、ケチケチです。
まず、緊急支援なのに、まったく関係ない「エコのため」という口実を持ち出して、「化学肥料の削減に取り組め」というのです。で、削減に取り組んだら肥料代も減るだろうから、高騰分の7割支援すればいいだろ、と言うわけです。
それだけではありません。7割支援というのですから、その計算式は、
となるはずです。
ところが、(昨年の肥料費)の領収書を出してくるのが面倒だろうから、今年の肥料費が昨年から1.4倍になったと仮定して、1.4で割ると言い出しました。さらに、肥料が高くなったら使用を控えるだろうから、1割減ってると仮定してさらに9割で割り戻すと言いだしました。なので、
こうなるというのです。ちなみにこの計算式だと、去年肥料代が100万円だった人が140万円になった場合、40万円も負担が増えるのに、支援額は20万円ちょいにしかなりません。北海道のある農家さんは、500万円だった肥料代が900万円まで高騰したと言っていましたが、政府の計算式だと{900-(900÷1.4÷0.9)}×0.7=129.99万円。高騰分は400万円に対し、支給額は130万円にしかなりません。米価低迷が続く中、このダメージは致命打になる可能性があります。
「自己責任だ。耐えられない農家はやめたらいい」という人もいるかもしれませんが、これは全国の農家を一斉に襲っている事態です。農家が農業をやめてしまえば、耕作放棄地になります。放棄地になったら、もう戻せません。わずか38%しかない食料自給率はさらに下がります。
温暖化・人口増・耕地不足・水不足・肥料不足・エネルギー不足と、今後、世界的に食料調達がどんどん難しくなると予想されているのに、自前で食料生産ができなくて一体何を安全保障だというのでしょうか。
田村貴昭議員は10月28日の農林水産委員会で、「選択制にして、実際の高騰分、差額を証明できる者にはその差額を全額補助してはどうか」と提案しましたが、政府はこれも拒否しました。この期に及んでなお、電通や外郭団体がオイシイ思いをできないお金は、出すのが惜しいようです。
一方、アメリカ米は税金を投じて高額で輸入
米が余って価格が下がり、コストが激増して経営が成り立たない状態になっているのに、政府は大金を投じてアメリカなどから米を大量に輸入しています(国家貿易)。いわゆる「ミニマムアクセス米(MA米)」です。その数量、なんと77万トン。国内消費量の1割を超える数字です。
しかも、米国からは、計ったように毎年36万トンをキッチリ輸入しています。そんな決まりは条約のどこにも書いてないのに、なぜ毎年36万トンなのか。
農水省・外務省は「77万トンの輸入は義務だが、米国から輸入するのは義務ではない」と言いますが、このグラフはどう見ても義務になっています。
密約の存在を強く疑わせる理由はほかにもあります。ニーズもないのに、多額の税金を投入して無理やり購入しているのです。
農水省の調査では、カリフォルニア州にある日系小売店のカリフォルニア米の2019年の価格が5㌔で17.61ドルでした。ところが現在の価格は25.72ドルに大きく高騰。日本円で3858円です。きっと輸入米もかなり高騰しているはずです。
田村貴昭議員は、カリフォルニア産の米を一体いくらで購入しているのか、政府に金額を示すよう要求しましたが、都合が悪いのか、タイ米の輸入価格との加重平均価格でしか示そうとしません。
そこで農民連(農民運動全国連合会)が試算したところ、アメリカ産うるち中粒種精米1万3000トンで、トンあたり25万4000円。玄米60㌔換算では、なんと1万6764円で購入していたことが分かりました。
しかも、その価格では高すぎて国内の買い手がおらず、ほとんどが家畜のエサになっていることも判明しました。
2019年度は加工用が17トン、飼料用が50トン。
2020年度は加工用が14トン、飼料用53トン
2021年度 加工用10トン、飼料用61トン。
かなりの割合でエサ米になっています。
なんと、このMA米は保管料も政府持ち、運送料も政府持ちです。高額で米国から輸入し、至れり尽くせりのサービス付で官僚の皆さんが必死に販売先を探して営業していますが、それでも大半が主食用はおろか、加工用でも販売できず、エサ米にまわしています。
そして、高い米を輸入して、安いエサ米にしているわけですから、当然かなりの赤字(売買差損という)が出ます。農水省によると売買差損の合計額は2018年度は311億円、2019年度は368億円、2020は367億円に上っています。2021年度の金額はまだ出てませんが、買い入れ総額が800億円と過去最高水準ですから、全体の赤字はさらに膨らむ可能性があります。
米価の低落に苦しむ日本人の米農家には何にもしないのに、アメリカの米は高額で購入してやっているわけで、手下根性にもほどがあります。
輸入依存の見直しが必要
財務省は10月19日に、財政制度等審議会という会議で、農水省に対して「厳しい」指摘をしました。飼料用米(エサ米)の生産が過剰だとして、補助金を支給する条件を厳しくするべきだ、というのです(水田活用交付金の戦略作物助成に専用品種に限定するなどの条件を付加)。
いや、おかしいですよそれ。
巨額のお金をつぎ込んでアメリカからお米を輸入し、大量に飼料用米に回しているわけで、飼料用米が余っていると言うなら、まずそこを何とかするのが政府の役割です。
しかし、それは言えません。お役人がそれを言えないのは、自民党がアメリカの卑屈な手下だからであって、そんなことを言おうものなら、そっ首を飛ばされるので仕方ないのです。政治を変えるしかありません。
国内で米が余り、全国の農家が資材高騰と価格低下という塗炭の苦しみにあえいでいます。
ウクライナ危機の先行きは見通せず、世界的な肥料の不足・高騰は今後も続きます。世界人口の増、途上国の経済発展、日本の経済的地位の低下、何より温暖化の影響による農業生産力の低下によって食料や飼料の確保が一層難しくなるのは明らかです。
国民を飢えさせないのは政治の最低限の役割。食べ物を外国に頼る政治を改め、国内の農家を守る農政に転換することが強く求められています。