存在が見えにくい "Nシステム"
家の近くの交差点に "Nシステム" のカメラが設置されている。詳細は避けるが、オレンジ色がかったプレートの付いたカメラが路上を向いており、地上近くには交通信号の制御装置と並んで箱型の装置が置かれている。装置表面には、"路上装置" といったごく簡単な表記があるだけ。文字通りブラックボックスということか。
"Nシステム" とは、道路に設置されたカメラで車のナンバープレートを撮影し、手配車両を追跡するシステムということになっている。推理小説や犯罪小説などでストーリーのアイテムとしてたまに登場する。捜査中の刑事がデカ部屋で、「車のナンバーが割れたぞ!すぐNシステムに当たれ!」と叫ぶといった場面で出てくる。言葉は耳にするが、その実態は、実はよくわからない。
表向きの説明では、車のナンバープレートを読み取って手配中の車両の追跡を行うのに使っているだけということだ。でも、どこまで詳細なデータを収集しているか、集めたデータをどう処理して使っているかといったことについてはほとんど公表されていない。やはりブラックボックスのままだ。車を運転する人にはおなじみの "オービス" などの速度違反取締りシステムでは運転者や同乗者の顔もしっかり撮られていることはよく知られている。"Nシステム" ではナンバープレートしか見ていないといわれても、「本当かな?」と思ってしまう。
仮にナンバープレートのデータしか収集していないとしても、これまで集めた膨大なデータをビッグデータとしてAIで処理すれば、特定の車の動きをかなり詳細につかむことはできるだろう。例えば、ある車は毎週何曜日の何時ごろ決まってこの道を通るとか。
手元の『警察白書』を確認してみる。"自動車ナンバー自動読取システム" という項がある。これが "Nシステム" の正式名称のようだ。ただし、この白書での記載はたった4行しかない。ありきたりな説明が簡単に書かれているだけで、詳細なことはわからない。詳しくは知らせたくないという気持ちが読み取れる。最後は「...整備に努めている。」と結ばれている。このシステムはかなり昔からあるはずだが、まだ拡充していくつもりのようだ。
1990年代に、あるカルト教団が大事件を起こした。そのころ教団関係者が執拗にこのシステムで追跡され、警察が先回りして職務質問している場面がテレビで繰り返し放映されていた。その教団について擁護する気持ちはさらさらないが、警察があのような "いやがらせ" を堂々とテレビ局のスタッフを引き連れて行うことに対しては違和感を覚えたものだ。
警察側の「手の内をさらしたくない」という気持ちは理解できないこともない。しかし、自分の行動が逐一監視されていることの居心地の悪さを伝え続けることにはそれなりに意味があると思う。
最近ではネットで瞬時に様々な情報が収集できる。もしかしたらどこかで頭のいい人が、"Nシステム" カメラの前を通らないルートを検索するカーナビなんかを考え出しているかもしれない。もっとも、やましいところがない自分は、そんなカーナビを使って遠回りでドライブしようとは思わないけれど。