旧人調査員のつぶやき
久しぶりにクロマニョン人に会いに行った。
そのひげ面は、こちらが手土産代わりに持って行ったフルーツバスケットにちらりと目をやると、いきなり始めたのは例によって愚痴だった。よほど腹に据えかねているらしい。
「あいつら、とにかく乱暴なんだよ。このあいだも、干してあった狩の獲物を勝手に食い散らかしていきやがった。」
その場面を見たのか、と聞いてみたが、それは見ていないという。
延々と続くいつもの話に相槌を打つのも面倒になっていとまを告げると、クロマニョン人は片手をあげて、やりかけの石彫りの作業に戻っていった。動物の像でも刻んでいるのか。
明日はネアンデルタール人に会いに行くことになっている。少し気が重い。クロマニョン人が言うような "乱暴" さはないが、気分屋で少々付き合いづらい。
前の面談では手土産に魚の干物を持って行ったのだが、「こんな生臭いものはいらねえ」とすげなく突き返されてしまった。ネットで事前に調べていた情報とは違うじゃないか、と文句を言いたくなったが、仕方がない。その前の面談では始終上機嫌で、蒸し焼きした貝を食べながら朝まで語り合ったのだから。たまたま相手の虫の居所が悪かったと思うしかない。
給料の高さに惹かれて入った "ホモ・サピエンス保護連合" の旧人調査員になってそろそろ3年になる。やはりまじめに転職を考えたほうがいいのだろうか。
こっそり登録している転職サイトから届く「おすすめ求人」も毎日チェックしているが、どれもいまひとつといった感じでなかなか食指が動かない。
もうしばらく今の仕事を続けるしかないか...。ため息をつきながら、昨日ジャワ原人からもらった干し肉を一口かじった。
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