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政治は百年後に真価を問われる(ショートショート)

「まったく・・・・本当にたまらんよな・・・・」

時刻は23時15分だった。

犬飼修は、イライラとしながらデスクの上にある葉巻に手をやり、マッチで火をつけた。

アジア経済文化圏、日本州の官房長官である犬飼は、執務室で頭をかいていた。明日は新元号の発表の日である。

「たく、誰があんな悪法を・・・・・」

「コールです」

電子音声が伝える。

犬飼は舌打ちをすると、執務室の中に置かれている、ヘルメットをかぶり、席に座った。

「残り時間も少ないことですし、続きを始めましょう」

首相である、吉田=グエン=泰三が無表情に円卓に坐して言った。

「ていうか、漢字二文字て無理があるでしょう」国務大臣がいった。

「参考にする文献なんて、もうないですよ・・・・」

「ていうか、みなさん、どこまで元号覚えてます?」

会議に集まっている19人がそれぞれ思案したあげく、首を振っている。

「平成の前は・・・・」

「大正でしょう。歴史で習いましたよ」

「違う、令和だ」

「そうかな?違う気がするけど」

(平成の皇室典範特例法の成立により、天皇の生前退位が可能になったというのは近代史で習った。)

(明治以降から天皇は死ぬまで天皇だったらしい。それまでは生前退位が認められていたわけだ。そういや後白河上皇が院政を始めたって歴史でならったもんな・・・・。生きてなきゃ、院政なんてできないもんな。)(注)


葉巻の煙を吐き出しながら犬養はどうでもいいことを考えていた。


皇室典範特例法が成立し、天皇の生前退位が可能になり、令和は和やかに進んだ。

しかし、令和が終結を迎えると、混乱期を迎えた。

皇室内で権力闘争が勃発し始めたのだ。皇太子が天皇に退位を迫るというスキャンダルも発覚した。

院政宜しく、「わしゃ、上皇だから」と傀儡をにおわせる発言で世間の反感をかったこともあった。

若くして天皇になったが「なりたくてなったんじゃない」といって、物議をかもし、「もうやめる」と退位発言を繰りかえした者もいた。

「なんか、思ってたのとちがうし。というか、国に守られている自分じゃなく、裸の俺を試してみたい」と書き残し、失踪するもすぐに捕獲されたものもいた。

即位後3年も経たずに退位をする。それがここ100年ほどの話だ。

(誰があんな悪法を・・・・)

「え?犬養君なんかいった?」

吉田首相は犬養の方を見た。

どうやら心の声が漏れていたらしい。

しかし、この会議に参加しているメンバーはそう思っているはずだ。

「そろそろ、決め方のネタつきてきたよね。」

「まえ、どうやって決めたっけ?」

「あれだよ。テーブルにそれっぽい漢字がかかれているカードを伏せて、神経衰弱みたいに2枚とって決めたんだよ。」

「そうだ。1回目で奇跡的にそれっぽいのがでたからよかったよな。」

「そうそう、それで、『平成古今和歌集』のミスターチルドレンの詩から字をとったとかなんとか偉そうに口実つけて発表したよな」

「で、結局今回はどうやって決めるの、首相?」

吉田はにやりと笑うとテーブルの前に紙が浮かび上がってきた。

「裏面にそれぞれ異なる漢字2文字が書いてある。みなさん見たらだめですよ。これで紙飛行機を作って一番とんだやつでいいんじゃない?」

吉田は笑っていった。

「また、古典的な・・・・」国防大臣が鼻で笑った。

「いいんじゃないですか?紙飛行機なんて何年振りだろう。」

めいめいがそれぞれの形の紙飛行機を折っている様子を見て犬養も飛行機を作り始めた。

両手にはめられたグローブから紙飛行機を折るという細かな作業をする感覚が感じられた。

「皆さん、おれましたか?」

「はーい」

一同がそう言うと、画面上の円卓は消え、風景は一瞬にして夕暮れ時の公園に変わった。吉田をはじめ19人が横並びになっている。

「メーヴェとつけた紙飛行機、飛ばしてよく遊んだね・・・・」と節をつけてとなりの法務大臣がうたっている。歌詞が微妙に違うことを突っ込む気にもなれない。


「じゃあ、いきますよ~せいの~」


翌朝10時

ヴァーチャルリアリティ上の記者会見場。犬養は大勢の記者が目の前にいる壇上にいた。

「発表します。新しい元号は・・・・」


注)院政を始めたのは白川上皇です


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