一人酒の流儀(Bar編~「バーテンダーは客が育てる」)
僕は飲みに行く時は概ね一人が多い。
なぜなら、一人が楽だからだ。
もちろん、友人と二人で飲みに行くのも好きだ。しかし、この年になると、お互いの生態系が違いすぎる。
方や家畜、方や放牧、方や野生。
方や水族館、方や養殖、方や遠洋。
違いを違いと分かったうえでお付き合いするのが宜しい。
一人酒は楽だ。一人酒は楽しい。そして、少しさみしい・・・・
好きなものを食べ(「これ食べたいけど頼んでいいかな?」)
好きなものを呑み(「ワインボトルで飲みたいけど・・・・」)
自分のペースで楽しめる(「まだ向こうは、お替りしてないから飲むペースおとそう・・・・」)
遠慮は無用だ。しかし、反対に一人の酒飲みとしての資質が問われる。
そんな、僕の一人酒の流儀を綴りたいと思います。
どうも性癖をさらけ出すような感覚と似ていて少し恥ずかしいが、考えてみると、自分の性癖をばらしたこととか、文章で述べたこともない。この表現は正確ではないだろう。
「一人でBarに行く」「馴染みのBarがある」
響きはとても甘美だ。齢40近くになると、僕にとっては当たり前のようになってしまったが一人酒は19くらいからやり始めていた僕は、馴染みの店を作るのがしだいに上手になっていったらしい。
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仕事の終わりに馴染みのバーの前を通る。バーと言ってもダイニングバーなので、テーブル席が7席、それとカウンターに10席ほどのまぁ、広い店だ。
通りから店の中を見る。カウンターに3人の常連。テーブル席に1組。あまり、忙しくなくゆっくりと呑めるのがいい。客数的にはもってこいだろう。
スタッフは顔見知りの男性スタッフと女性スタッフ、マスターの奥さん、それとみたことない男性スタッフ。
(入るか・・・・)
私は扉を開けた。私の顔を見るとマスターの奥さんは「あら、坂井田ちゃん、おつかれさま~」と笑顔で出迎えられた。私は頷いて、カウンターの端に座る。
馴染みの男性スタッフと女性スタッフに挨拶される。私は黙ってうなずく。常連の兄さん方に挨拶をする。
「なにする?」マスターの奥さんに聞かれたので、私は瓶ビールを注文する。ここは生ビールがプレミアムモルツなのだが、どうもプレミアムモルツは肌に合わない私は瓶ビールを注文する。もっとも、瓶ビールもスーパードライで肌には合わないのだが・・・・。
私の前に灰皿と小さなビアグラス、それと瓶ビールを男性スタッフ(まっちゃん)が置く。普通のお客さんが瓶ビールを頼むと普通のビアグラスが置かれるが、私の好みを知っているスタッフは小さなビアグラスを出してくれる。
私は、笑顔で礼を言うと、ビアグラスになみなみとビールを注ぎいれ、一口で飲み干す。それから煙草に火をつけた。
基本的に常連客がついていて話をして盛り上がるバーだ。しかし、無口な私にはあまり話を振ってくるわけでもなく、絶妙なタイミンで会話をしてくれる。楽な店だ。
私が人心地ついたころ、見たことがなかった若いスタッフが私に挨拶に来た。
「初めまして、けんたろうといいます。坂井田さんですよね。」
「あぁ。最近入ったの?」
「そうなんです。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ。」
「おい、けんたろう」まっちゃんが言う。
「坂井田さんはほんと優しい人だから大丈夫だぞ。なんでも相談しろ」
「何言ってんだ。ビールでも飲みたいのか?」
「ばれました?」
そう言うと、まっちゃんは笑って厨房の方に入っていった。
私はまた黙って一人ビールを注ぎ煙草をふかし、常連の兄さん方の会話を聞くとも聞かずともいえない状態のまま、2本目の瓶ビールを頼んだ。
常連の兄さんが一人二人とかえったころ、私は真ん中よりの席に移動を勧められ、残りの兄さんとスタッフのまっちゃん、マスターの奥さんも交えて話をしていた。
24時を過ぎると厨房が一段落したのか、調理担当のマスターがカウンターに来て私に挨拶をしてくれた。
テーブル席からカクテルの注文が入った。ダイキリだった。
マスターは新しく入ったスタッフにダイキリの作り方を教えていた。その様を会話の端で目で追っていた。若いスタッフは熱心にメモをとっている。
その頃には、私はビールから日本酒の熱燗にシフトしていた。
薄暗いバーのカウンターで飲む熱燗もいい。私はこの店ではたいてい冬場は熱燗を頼む。来始めた当初、それで店に覚えてもらったというところも多分にあると思う。
マスターが作り終えたダイキリを若いスタッフがテーブル席に持っていく。彼が緊張した面持ちのままカウンターに帰ってきたときに私はマスターに注文した。
「マスター、申し訳ないがダイキリを二つ。一つはマスターに作ってもらって、もう一つは彼に作らせてあげて。それとチェイサーを一つ」
マスターはにっこりとほほ笑むと、
「はい、ダイキリ2つね。けんたろう、一つはつくって」
若いスタッフはさらに緊張した面持ちで
「はい」と言った。
2杯のダイキリが私の前に並んだ。
左はマスター作成。右は若いスタッフが慣れない手つきで作ったものだ。
私は微笑んで
「ありがとう。いただきます」
と言い、まずは、マスターが作成したダイキリを一口飲み、チェイサーを一口飲んでから、若いスタッフのダイキリを一口飲んだ。
初めて作ったカクテルなのだろう。若いスタッフは私の顔をじっと見つめていた。
私は微笑むと
「ほら、飲んでみろ」
そう、グラスを手渡した。
「いいんですか?」
「当たり前だろう」
若いスタッフは目を輝かせて、マスターが作ったダイキリと自分が作ったダイキリと飲み比べた。
「あ~・・・・全然違う・・・・」
「だな。」
私は彼が作ったダイキリを一息で飲み干すと、
「けんたろう、ダイキリだ」
そういって、グラスを振って見せた。
「ありがとうございます。」
「ほんと、坂井田さんには入ったころお世話になったよ。俺もそれやってもらった」まっちゃんが笑って言う。
「あ~、私も。やってもらった~。」女性スタッフも言う。
「けんたろうよかったな」マスターが笑って言う。
「坂井田ちゃんてほんとお金の使い方わかってるよね」マスターの奥さんも笑って言う。
「ていうか、坂井田君。なんで一人だけ株上げてんの?」常連の兄さん少し膨れて言う。
「だったら兄さんもダイキリ以外頼めばいいじゃない」
「それはええわ~」
こうして夜は更けていく。
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バーテンダーとは
Bar : 止まり木
Tender : 優しい、番人、見張り人
『 Bar Tender 』 ⇒ 優しい止まり木
疲れた時、気分を入れ替えたい時、明日からの活力を蓄えたい時・・・・
そんな時に寄り添えるのがバーテンダーだと受け売りだが私は思う。
バーテンダーは客が育てる。それが自分を育ててくた酒場に対する恩返しだと思っている。そして、自分の止まり木は自分でも育てたい。
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