80点「ドッグマン」 巧みだ。さすがといわざるをえない
私のセンスを信頼できるタイプの人なら、確実にこの映画を楽しめる。
つまり、つくりが上手で、感情もしっかり逆撫でてくれる映画である。
20点のマイナスは、映画の規模が小さいからやむをえない。
障害者が犬を自由自在に操るという設定は、確かに荒唐無稽だ。
それでも観客は、すぐにその設定に納得できるだろう。
納得性が生じるのは、主役以外の登場人物を丁寧に描いているからだ。
この、荒唐無稽を納得させるテクニックは、とても好感が持てる。
暗い話をわざと明るく描くのは、リュック・ベッソンの真骨頂だろう
私は、この監督は、物語を暗く描かないのではなく、ーーもちろんその要素もあるとは思うのだがそれよりも、根が明るいから暗く描けないのだ。
例えるなら、水色と黄色とピンクで地獄を描くような。
しかしレオン同様に本作も、暗い話を明るく描くことに成功している。
とはいえ本作の内容は暗く、グロテスクで、悲惨で、悲哀があり、救済すらない
冒頭シーンはこう。
女装しているうえに、体中傷だらけの白人中年がトラックを運転している。
警察がそれを止める。
トラックの荷台には大量の犬がいた。
この手のオープニングは、変に気負ってつくるとわざとらしくなってしまうが、リュック・ベッソンはそんなへまはしない。
女装白人中年があっさり逮捕されてしまうと、次のシーンに行ってしまう。
2本のストーリーを練り込む手法はアメリカ映画やアメリカ・ドラマでおなじみだが、なぜ日本映画・ドラマはそれをやらないのだろうか。
効果があるのに。
とにかく、本作でも2本のストーリーが走っていて、メインストーリーの主役が女装白人中年で、サブストーリーの主役は黒人女性。
黒人女性が、逮捕された女装白人中年に接触する役を担うのだが、その職業がすごかった。
「そうくるか」と感心した。
常套手段を取るならば、黒人女性を弁護士にするはずだ。
しかしリュック・ベッソンはそんな陳腐なことはしない。
ここでも「この映画は丁寧につくられている」とわかる。
ここであえて苦言を呈すると、黒人女性を演じたジョニカ・T・ギブスに魅力がありすぎて、女装白人中年の怪演ぶりが少し薄まってしまった
女装白人中年を演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、少なくとも本作では、ジョーカーでジョーカーを演じたホアキン・フェニックスを超えることはできていない。
もう一つうなったのが、逮捕された女装白人中年が警察官から丁重に扱われているところだ。
理由はわからない。
不自然な設定なのだが、その他大勢にすぎない警察官に少しだけフォーカスを当てているので、観客は「何かあるはずだ」と思ってしまう。
観客の心理をグルグル回すのが本当にうまい。
それにしても最近、ユーリズミックスのスィート・ドリームスをよく聞くなあ。
そうかと思えば、ギャングはとても単純に描く
こちらはむしろ漫画のようにコミカルだ。
監督のユーモアなのだろう。
救いがない結末なのに、救いがあるようにみえるように落とすのはレオンと同じ。
ただ私は、この流用は許容範囲であると考える。
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