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シングルセル解析とは【後編】がんやiPS細胞の研究が進化するのはなぜか
シングルセル解析を解説する記事の後編です。
前編では、シングルセル解析と、従来の細胞の解析方法には次のような違いがあると紹介しました。
●従来の細胞の解析方法:複数の細胞の集団の平均値を解析する
●シングルセル解析:1個の細胞に着目して解析する
後編である本稿では、シングルセル解析が、がん研究とiPS細胞研究にどのように関わっているのか紹介します。
シングルセル解析は医学領域において「使える技術」であり「重要技術」です。
そしてこの技術が治せない病気を減らすことに貢献し、病気に苦しむ人を助けることにつながるかもしれません。
なぜシングルセル解析ががん研究に役立つのか
がん研究におけるシングルセル解析の役割を紹介します。
細胞生物学を専門にする理学博士でハーバード大学ヴィース研究所の研究員の佐々木浩氏は、がんが転移する謎がシングルセル解析でわかるかもしれないと指摘しています(*1、2)。
*1:https://hillslife.jp/innovation/2018/06/18/single-cell-technology/
*2:http://tedxkidschiyoda.com/speakers/1343/
がんが転移する謎がわかるかもしれないから
がんが転移することは、医療従事者ではない一般の人にもよく知られていることです。例えば、肺がんが全身に転移してしまい、手術で取り切れず抗がん剤で治療するしかない、といったことは残念ながら珍しくないケースです。
しかし、よくよく考えると、がんの転移は理解しづらいものがあります。がんの転移とはすなわち、がん細胞の移動なのですが、普通は体内の細胞は移動しません。例えば肺の細胞は肺にとどまったままですし、心臓の細胞も心臓にとどまったままです。
佐々木氏によると、がん細胞の転移は、たった1個のがん細胞が移動する能力を獲得して始まります(*1)。つまり、「がん細胞だから転移する」のではなく「がん細胞のなかに転移するものがある」ということになります。
ではなぜ転移しないがん細胞のなかから、転移できる能力を持ったがん細胞が生れるのか――。がん研究においてシングル解析を進めていけば、がん細胞が転移する謎がわかるかもしれません。
がん治療が効かなくなる理由がわかるかもしれないから(治療抵抗性と不均一性について)
「がんの治療抵抗性」という言葉があります。これは、本来は治療の効果が出るはずなのに、なぜかがんの種類によっては効果が出なくなる現象のことです。
がんの治療抵抗性が発生するのは、がん細胞のなかに、がんの治療に抵抗する力を持った細胞があるから、と考えられています。
シングルセル解析を行えば、がんの治療抵抗性が発生するメカニズムがわかり、治療効果が高まるかもしれません(*3)。
さらに「がん細胞の不均一性」を調べるのにも、シングルセル解析が有効です(*4)。
正常細胞は均一であることが多いのですが、がん細胞は不均一なことがあります。これをがん細胞の不均一性といいます。
2人の人が大腸がんを発症して、2人に同じ抗がん剤を投与したとします。このとき1人には効くのに、1人には効かないことがあるのですが、これは大腸がんの細胞が不均一なため、抗がん剤が効く大腸がんの細胞と、抗がん剤が効かない大腸がんの細胞があるためと推測できます。
シングルセル解析によってがん細胞の不均一性を解明できれば、不均一ながん細胞に効く抗がん剤をつくることができるかもしれません。
*3:https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26293073/
*4:http://first.lifesciencedb.jp/archives/18158
なぜシングルセル解析がiPS細胞研究を進化させるのか
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