人間ドックの検査項目をじっくり解説
「人間ドックは健康診断のバージョンアップ版」というとらえかたは、あながち間違っていません。
人間ドックの検査項目は健康診断より多いですし、健康診断は勤務先で無料で受けられる場合がほとんどですが、人間ドックは費用の全額を受診者が負担しなければなりません。
したがって人間ドックの価値や人間ドックを受ける意義は、充実した検査にあります。
つまり、健康診断より多くの検査を受けることに価値を見出す方は、人間ドックを受ける意義を感じることができる、といえます。
そこで記事では、人間ドックならではの検査にフォーカスして、何を調べると何がわかって、受診者にどのようなメリットが生まれるのか確認していきます。
胃部X線検査ではなく胃内視鏡検査を受けるメリット
あるクリニックの事例でみていきましょう。
このクリニックの基本的な人間ドック・コースであるベーシック人間ドックでは、胃がんなどの検査として胃部X線検査を行っています。
胃部X線検査は、いわゆるレントゲン撮影で、X線をお腹に当てて胃のなかの様子をみます。
胃部X線検査でも十分頼りになる検査で、国立がん研究センターの「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン 2014年度版」によると、推奨グレードBになっています(*1)。
推奨グレードBは、死亡率減少効果という利益が、検査を受ける不利益を上回るが、Aよりは小さい、という意味です。
ただBもAと並んで「推奨する」に該当します。
Cになると「推奨しない」または「個人の判断に基づく受診は妨げない」になってしまうので、推奨グレードBの胃部X線検査は十分頼りになる、といえるわけです。
*1:http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/igan.html
がん疑いが判明したら結局、胃内視鏡検査を行う
頼りになる胃部X線検査ですが、このクリニックはベーシック人間ドックで、追加料金3,300円(税込)で、胃部X線検査を胃内視鏡検査(胃カメラ検査)に変えることができるようにしています。
胃内視鏡検査も推奨グレードBですが、当院では、どちらにするか悩んでいる方には、胃内視鏡検査をすすめています。
それは次のような理由があるからです。
<胃内視鏡検査を推奨する理由>
●理由1:医師の目でダイレクトに胃のなかをみることができるので、がん細胞や潰瘍などをしっかり把握することができるから
●理由2:胃部X線検査で異常がみつかったら、結局、胃内視鏡検査を受けてもらうことになるから
注目していただきたいのは、理由2です。
胃部X線検査で得られる画像は白黒の写真で、「みえるもの」は影です。医師は影の色や形や大きさをみて「がんかもしれない」と推定します。
しかしこの段階では、影しかみていないので、がんであると確定できません。
それで胃部X線検査でがん疑いがある受診者に胃内視鏡検査を受けてもらい、医師が自分の目でダイレクトにがん細胞かどうかを確認することになります。
それなら、最初から胃内視鏡検査を受けてもらったほうがよいと考えて、このクリニックは胃内視鏡検査を、スタンダード人間ドックのオプションに加えているわけです。
5種類の腫瘍マーカーで9つのがんをチェック
このクリニックの精密ドックでは、腫瘍マーカーを使ったがん検査を行っています。
腫瘍マーカーとは、がんがつくるタンパク質のことで、がんの種類ごとに腫瘍マーカーが異なります。
マーカーは目印という意味で、あるがんがつくる腫瘍マーカーがみつかれば、そのがんが発生していると推定できます。
腫瘍マーカーは血液や尿のなかに出てくるので、血液や尿を採取してその有無を調べます。
大腸、肺、肝臓、膵臓、胆道、食道、前立腺、乳房、子宮頸のがんを調べる
このクリニックは5種類の腫瘍マーカーを使って9つのがんを調べます。
腫瘍マーカーは5種類あるのですが、男性用腫瘍マーカーと女性用腫瘍マーカーが1種類ずつあるので、男性も女性も4種類の腫瘍マーカーを調べることになります。
<4種類の腫瘍マーカー>*男性と女性では4)だけが異なります
男性:1)CEA、2)AFP、3)CA19-9、4)PSA
女性:1)CEA、2)AFP、3)CA19-9、4)SCC
<それぞれの腫瘍マーカーがターゲットにするがん>
CEA:大腸がん、肺がん、乳がん
AFP:肝臓がん
CA19-9:膵臓がん、大腸がん、胆道系のがん
PSA:前立腺がん
SCC:肺がん、子宮頸がん、食道がん
心臓をより詳しく調べる
このクリニックは、心臓をより詳しく調べる心臓ドックも行なっています。
スタンダード人間ドックでも心臓は調べますが、心臓ドックのほうが検査項目が増えます。
<スタンダード人間ドックの心臓に関連した検査>
●BNP検査
●心電図検査:安静時のみ
<心臓ドックの心臓に関連した検査>
●BNP検査
●心電図検査:安静時心、負荷、心拍数
BNP検査は血液検査です。BNPは、心臓に負担がかかると心臓から分泌されるホルモンで、この血中量を調べることで心臓病のリスクが推定できます。
スタンダード人間ドックで行う安静時心電図検査は、いわゆる「普通の心電図」検査です。これで不整脈、狭心症、心筋梗塞、心筋症、心室肥大などのリスクがわかります。
ただ心臓病の症状は多くの場合、激しく動いているときなど、心臓に大きな負荷がかかったときに起きます。そこで負荷心電図検査を行います。受診者にルームランナーで運動してもらいながら心電図を取ります。
心拍数の心電図検査では、不整脈のリスクがより正確にわかります。
まとめ~納得して受けてください
人間ドックがバージョンアップ版だとすると、職場などで受ける健康診断は標準版と考えることができます。
標準版は無料で、バージョンアップ版は有料なので、「健康診断だけでいいかな」と考えるのはもっともなことです。
しかし、毎年必ず人間ドックを受けている人もたくさんいます。そのような方は「健康診断の検査メニューだけでは足りない」と感じています。
人間ドックは、検査内容をしっかり把握して納得してから受けることをおすすめします。
この記事は以下の資料を参考にしました
推奨グレード(2014年度版まで) | 社会と健康研究センター (ncc.go.jp)
腫瘍マーカー検査とは:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)
上部消化管X線検査でわかること | e人間ドック~いい人間ドックを選ぼう~ (e-ningendock.jp)
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