【若い医師必見】医局人事の決まり方を解説。異動時期や傾向、左遷と向き合うコツ
若い医師が「医局に入る」と決めた瞬間に人事の問題が発生します。いわゆる医局人事です。
医局に入局するとさまざまなメリットが得られるのに、それでも医局を出て、または、医局に入らずフリーランスの医師を選択する若い医師がいるのは、医局人事も大きな原因になっています。
しかし医局人事のネガティブな部分は、工夫次第で回避したり減らしたりすることができます。
そこでこの記事では、医局人事の決まり方や異動時期、傾向について解説します。さらに深掘りして「田舎」病院に「左遷」されたときの向き合い方も紹介します。
本稿は本音ベースで説明していくので、「左遷」や「田舎」といったきわどいワードも使っていきます。
医局人事は医師の異動。拒否できない仕組み
医局とは、大学医学部と大学病院のなかにある、教授をトップとする組織です。医局人事とは、医局に所属している医師(医局員)の勤務先を決めたり変更したりする人事異動のことです。
医局は大学の近隣にある病院などと提携していて、医局人事ではそれらの関連病院に医局員を派遣しています。
医局人事の最終的な決定権者は教授になるわけですが、ほとんどの決断は医局長が下します。医局長は教授の意を汲んで医局人事を決め、教授がそれを承認するという形です。
医局長はさらに年度途中に医局員の希望を聞き、可能な限り希望に沿う形で異動先を決めます。医局員の希望が100%かなう保証はありませんが、医局員の希望を完全に無視するということもありません。
医局人事は、関連病院の医師の空き状況や退職、欠員補充によっても発生します。
医局に在籍している以上、医師は医局人事を避けて通ることはできません。医局人事の決定を受け入れることも、医局に所属する条件になるからです。それで、医局人事は拒否できない、といわれています。
なぜ医局人事が必要なのか
一橋大学大学院社会学研究科の猪飼周平教授は医局を次のように説明しています。
■医局とは(一部編集)
医師免許取得後、新米医師の大部分は医局と呼ばれる組織に入局し、その後医局員として長期にわたって医局の統制下で、臨床経験を蓄積し、研究し、生活費を得、専門医資格を取得する。
医局制度における医局は、大学病院診療科組織と大学臨床系講座(教室)との統合体を含んでいる。医局員の相当部分が大学外の市中病院に公式の身分(常勤医)を有している。
大学外の医局員が医局組織に帰属しているといい得るのは、彼ら彼女らが実質的に医局の人事統制下にあるからである。
この文章は医局人事の構図と特性を端的に説明しています。
本章ではさらに、1)医師の経験、2)関連病院への医師の派遣、3)田舎・地方の医師不足の解消、の3点について解説します。
参照:https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_files/lp_10_2010/8/notes/ja/ijihou_shiryou_20100601.pdf
医師が経験を積むため
医局員は医局人事によって複数の病院を転々とするわけですが、この経験は臨床医の成長に役立ちます。同じ診療科でも、同じ治療法でも、病院や医師によって治療の進め方が異なるからです。
医局員が複数の病院に在籍することで、複数の治療法を学ぶことができます。医局人事を経験すると、より良い医療技術を効率よく身につけることができます。
関連病院に医師を送るため
医局は大学の近隣などに複数の関連病院を抱えています。よく「この病院は○○大学系」といわれたりしますが、これは「その大学の医局の関連病院である」という意味です。
医局は医局人事を使って関連病院に医局員を派遣します。派遣といっても医局員はその病院に正式に勤務することになり、正職員、あるいは常勤医になります。給与もその病院から支払われます。
関連病院は医局員に臨床経験を積む場(職場)を提供する代わりに、医局から医師の補充を受けることができるわけです。医局、教授、関連病院、医局員は共存共栄の関係にあります。
地方・田舎・僻地の医師不足を解消するため
医局の関連病院が地方や田舎や僻地にある場合、医局員は医局人事によってそこに異動することもあります。それを左遷と呼ぶ医局員もいるでしょう。
僻地や左遷はネガティブな言葉ですが、地方の病院に赴く医局員には、地方医療を学ぶ重要な機会になります。地方医療の重要性は厚生労働省が力説しているところでもあるので、この経験も医師を成長させます。
そして少なからぬ医師は都会志向なので、地方の病院は常に医師不足に悩んでいます。したがって地方の病院の経営者にとっては、自院が医局の関連病院になって医局員の派遣を受けることは最重要経営戦略になっています。
医局と医局員は、医局人事を通じて地方の病院の経営と存続をサポートしているのです。
医局人事の仕組み。異動時期とタイミング
医局人事は教授の意向、医局員の希望、関連病院の要望などを加味して医局長が決めます。これだけの過程を経る必要があるので、医局人事の確定には時間がかかります。
医局人事のスケジュールを紹介します。
人事異動による勤務開始は4月
医局人事の勤務開始日は、一般企業と同様に4月1日が多く、次いで10月1日が多いでしょう。勤務開始日とは、新しい勤務先での勤務初日のことです。
人事異動の勤務開始日の前に、対象になる医局員に告知または発令されます。事前に異動先を知ることができるので、医局員は引っ越しの準備などができるわけです。
余談ですが、4月1日は医局と一般企業の人事異動だけでなく、学生たちも大移動します。そのため引っ越し業者の手配に苦労することになるでしょう。しかも引っ越し料金は繁忙期価格が適用されます。
医局人事の告知は12月末
4月1日が勤務開始日の場合、人事異動の告知または発令は12月末ごろに行われます。10月1日が勤務開始日の場合は8月末ごろです。告知・発令でどの地域のどの病院で働くのかが決まります。
したがって医局内の医局員たちは、11月または7月ぐらいからソワソワし始めます。
10月に希望調査が取られる
医局では一般的に医局員たちに人事異動の希望を聞きます。大学内または大学病院内の医局員だけでなく、すでに関連病院に派遣されている医局員にも希望を取ります。これを異動希望調査と呼ぶ医局もあります。
医局員に第5希望まで記載できる用紙が配布され、医局員はそれに記入して医局長などに提出します。
「希望が通ったためしがない」と言う先輩医局員もいると思いますが、それでも教授や医局長が医局員の希望をまったく加味しないということはないので、第5希望まですべて記入したほうがよいでしょう。白紙で出すとハードな職場や不人気病院に決まりやすくなってしまいます。
【年代別】医局人事で動く年齢、傾向と異動頻度
医局人事は良い意味で不平等に実施されます。経験を積ませたい若い医師は頻繁に異動命令が出て、ベテランになると異動頻度は減ります。
年齢と異動頻度の関係と、そのときの医局員たちの心理を解説します。
【20代〜30代半ば】2年に1回移動
20代~30代半ばは2年に1回異動が行われることがあります。10年で5回以上、勤務先病院が変わることもあります。
このころは医師も結婚適齢期です。入籍や結婚式、一緒に住むための引っ越し、子供が生まれたことによる引っ越しが行われているさなかに人事異動による引っ越しが重なると、生活が混乱しかねません。しかも、20代であればまだ仕事に慣れず、それなのに2年に一度、初めての職場が到来するわけですから、勤務先での人間関係の構築にも苦労するでしょう。さらに専門医資格を取得するための準備にも追われるでしょう。
ワークライフバランスを調整することは相当難しいはずです。
【30代後半〜40代半ば】6年に1回
30代後半に入ると異動頻度は減り、6年に1回ということも珍しくありません。異動先の土地にしっかり根を下ろして治療に取り組むことができます。
40代半ばになると関連病院の医長や副部長に就く人が増えてきます。売上管理などの病院経営に関わる仕事が増えますし、後進の育成にも携わらなければなりません。
プライベートでは子供の受験が始まったり住宅を購入したりと出費が増える時期でもあります。この時期、高額収入で迎えてくれる僻地病院に異動を希望する医局員もいます。
【50代以降】異動はなし
50代に突入すると異動はめっきりなくなります。順調にいけば医局の関連病院の1つである地域の総合病院の部長に就任できるかもしれません。
そのまま異動を希望しなければ、同じ病院内で部長から副院長、院長へと昇格することもあります。そこで定年退職を迎えることもあるでしょう。
このころになると勤務先病院への帰属意識のほうが強くなり、その結果医局への帰属意識は相対的に低下します。
しかし医局員が病院長になっても医局との関係が切れることはなく、むしろ今度は医局から優秀な人材を誘致しなければなりません。つまり病院長になった医局員は、今度は医局人事を頼る立場になるのです。
医局人事で田舎に飛ばされたくないなら左遷されないようにする
地方の病院で行われている地域医療は日本の医療にとって最も重要な医療の一つであり、医局人事のお陰で医局員は地域医療を経験することができます。
しかし、医師のなかには都会生活を満喫したい人もいるでしょうし、自分の子供に都会の優れた教育を受けさせたいと願う医師もいます。
そのため医局長から地方病院への転勤を命じられた医局員は「田舎に飛ばされた」「左遷された」と感じるかもしれません。
そうならないようにする方法を本音ベースで紹介します。
希望調査はすべて埋める
異動希望調査の用紙の希望異動先欄はすべて埋めましょう。「田舎に行きたくない」と思っている医局員は、地方の病院の名前を書かないようにしてください。行きたくない病院がある医局員は、白紙委任すべきではありません。希望異動先欄が5つあったら、希望する5つの病院を書きましょう。
「異動希望調査用紙を白紙で出せば、医局に忠誠心を示すことができ、左遷を回避できるはずだ」などと考えないほうが無難です。白紙を受け取った医局長は、「どこでもいいってことか。それなら誰も行きたがらないこの病院に行ってもらおう」と考えるだけです。
左遷されたくないなら先に言う
左遷は誰でも嫌なものです。しかし多くの医局員が左遷と感じる関連病院があれば、誰かが左遷の犠牲にならなければなりません。
「犠牲」という言葉は当該関連病院に失礼ではありますが、ここではあえて使っています。
これを医局人事の責任者である医局長の立場で考えてみましょう。医局長も医局員から嫌われている関連病院の存在を十分知っているわけですから、医局長は「誰かを犠牲にしなければならない」と考えるはずです。
では医局長は誰を犠牲にするのか。
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