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日米政府がアップルとグーグルのアプリストアを規制へ「何が問題なのか」


公正取引委員会が2023年2月、アップルとグーグルが展開するアプリストア事業が、独占禁止法上の問題になる可能性を示唆しました(※1)。

アメリカ政府も同時期に、アップルとグーグルによるアプリストアの寡占状態を是正すると表明しています。

日米の規制当局や政府が同時に、かつ、これほど強く特定企業の特定ビジネスを警戒するのは異例です。

世界のITを牽引してきたGAFAMを構成するアップルとグーグルは、どのような問題を引き起こしたのでしょうか。

※1:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/feb/230209mobileos.html

アプリストアのビジネスモデルとは

アップルといえばスマホやパソコン、グーグルといえばインターネット検索やメールサービスを思い浮かべる人も多いと思いますが、それらのビジネスは問題になっていません。

両社はアプリストアという事業を行っていて、それがやり玉にあがっています。

アプリを販売する店

アプリはアプリケーションのことで、アプリストアの対象はスマホ向けアプリが多いのですが、その他にも動画や音楽、パソコン向けソフトウェアやシステムも対象になっています。

ストアは店のことなので、アプリストアとはアプリなどを販売しているWebサイト上の店というイメージです。

アプリストアはOSごとに開設されていて、アップルのOS向けにはアップルが「アップストア」を運営し、グーグルのOS向けにはグーグルが「グーグル・プレイ」を運営しています。その他の企業もアプリストアを持っていて、例えばウィンドウズ向けにはマイクロソフトが「マイクロソフト・ストア」を運営しています。

アプリ・ビジネスとアプリ利用の基盤

アプリストアはアプリ・ビジネスとアプリ利用の基盤になっています。

アプリストアで販売しているアプリは、アップルやグーグルもつくっていますが、その他のアプリ開発会社も自社アプリをアップストアやグーグル・プレイで販売しています。

アプリ開発会社は、多くの利用者に自社アプリを使ってもらうことで利益を得ます。アプリ開発会社はアプリストアに自社アプリを出品するだけで販売することができます。

アプリストアを運営するアップルやグーグルなどは、アプリが売れたら売上の一部を販売手数料として得ることができます。

スマホの利用者は、必要なアプリをアプルストアで探して買うことができます。

このような構図になっているので、アプリストアがアプリ・ビジネスの基盤になっているといえるのです。

何が問題なのか~強すぎること

アップルとグーグルのアプリストアの問題は、ビジネスモデルにあるわけではありません。アプリストア・ビジネスに違法性はなく、他社の同様の事業はまったく問題視されていません。

ではなぜアップルとグーグルのアプリストアが問題になるのかというと、強すぎるからです。

スマホもアプリ入手経路もアップルかグーグルしかない状態はやはり問題

生活者が使うIT端末の主流は今、スマホになっています。そしてスマホのOSのほとんどは、アップル製のiOSか、グーグル製のアンドロイドです。

さらに、アップルもグーグルも、自社OSのスマホで使うことができるアプリを、自社アプリストア経由のものにほぼ限定しています。他社アプリストアからも購入できますが、それはほんのわずかです(※2)。

多くの人がスマホしか使わない、スマホといえばアップルかグーグル、アプリといえばアップル経由かグーグル経由――。このような状況下では、アプリ開発会社は2社のアプリストアに出品するしかなく、これではアプリ・ビジネスに公正な競争が起きません。

そしてアップルとグーグルは、アプリ開発会社からの手数料をほぼ独占しているわけです。

※2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA097VI0Z00C23A2000000/

日本の公取委が指摘する問題点

公正取引委員会はどのような問題認識を持っているのでしょうか。

その内容は公正取引委員会が2023年2月9日に公表した「モバイルOS等に関する実態調査報告書について」に盛り込まれています(※1)。

公正取引委員会はアプリ開発会社や消費者に対して調査を行い、この報告書を作成しました。この報告書はアップルとグーグルを名指ししています(※3)。

※3:https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/feb/mobileos/point.pdf

公取委は「人々にとってのスマホ重要性」を重くみている

先ほど「生活者が使うIT端末の主流は今スマホ」「多くの人がスマホしか使わない」と紹介しましたが、公正取引委員会も似た印象を持っています。

同報告書のなかで「人々が多様なデジタルコンテンツ・サービスにアクセスする際、その主要な接点/入口となっているのがスマートフォンである」「消費者にとってスマートフォンは生活必需品となっており、今やスマートフォンの利用率や利用時間は、パソコンのそれをはるかに凌ぎ拡大を続けている」と述べています。

スマホが生活者の重要アイテムになっているからこそ、公正取引委員会はアプリストア・ビジネスの異変を看過できないのです。

公取委のアプリストアの理解

そしてアプリストアについて公正取引委員会は次のようにみています。

■公正取引委員会のアプリストアの理解

スマートフォン上で提供されるアプリ、デジタルコンテンツ・サービスのほか、スマートフォンと連携して用いられる商品・サービスが拡大し、多様化していくなかで、これらの提供のために必須となるのがモバイルOSおよびアプリストアといったアプリ流通ルートへのアクセスである

アプリストアがアプリ・ビジネス(アプリ流通)で欠かせない存在になっていると認定しています。

公正取引委員会はOSも問題視していますが、本稿は紙幅の関係上、アプリストアのみに言及しています。

アップルとグーグルが「二重の立場」にあるからアプリ・ビジネスに競争圧力が働かない

同報告書はさらに、アップルとグーグルは、アプリストアを運営しながら、アプリ市場で他社と競合している二重の立場にあると指摘(※3)。

そのせいで、アプリ・ビジネス(アプリ流通サービス市場)に十分な競争圧力が働いていないと結論づけています。

二重の立場とは、土俵をつくった人が、その土俵の上で相撲をとっているようなものです。つまり、自分が勝てるように土俵をつくることができてしまいます。

公正取引委員会の調べでは、スマホを含むモバイルのOSのシェアは、アップルのiOSが46.6%、グーグルのアンドロイドが53.4%で、この2つで100%です。

アプリストアのシェアでは、iOSではアップストアのシェアが100%になっていて、アンドロイドでもグーグル・プレイのシェアは90%台後半と圧倒的です。

公正取引委員会は売上高も公表していて、アップストアは1兆5,900億円、グーグル・プレイは1兆400億円です。

公正取引委員会は「問題がみつかれば厳正に対処する」と宣言

これらの調査結果から、公正取引委員会は今後、OS提供事業者とアプリストア運営事業者に関し、独占禁止法上問題となる具体的な案件をみつけたら、厳正かつ的確に対処するとしています。そのうえで、競争環境を整備していくとしています。

さらに各国・地域の規制当局と意見交換を行っていきます。

この「OS提供事業者とアプリストア運営事業者」はもちろんアップルとグーグルのことです。

つまり、公正取引委員会はまだアップルとグーグルを「黒」と断定したわけではないが、限りなく黒に近い灰色であり、黒と判定でき次第厳正に取り締まる、といっているのです。

アメリカ政権が問題視すること

アメリカでもアップルとグーグルのアプリストア・ビジネスは問題視されています。

米政権はアップルとグーグルがスマホ内で自社製品と自社サービスを優遇し、なおかつ寡占状態に陥っていると認識し、両社を規制する法律の整備に動き始めています(※4)。

米政権が問題視するポイントは次の4点

●アップルとグーグルは自社OSを使うスマホなどに自社アプリを標準搭載しているが、これは非競争的であり問題である

●サービス検索で自社アプリを優遇しているのは問題である

●消費者に自社決済システムを使うよう要求するのは禁止すべきである

●アプリをダウンロードする手段を増やすべきである

日本の公正取引委員会の指摘より強い内容になっています。

※4:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN014P70R00C23A2000000/

アップルCEOが日本の首相に懸念を伝えた

アプリストア規制に対し、アップルは対抗姿勢を鮮明にしています。

アップルのCEO、ティム・クック氏は2022年12月に来日した際、日本の首相と面会しました。クック氏は首相に対し、アプリストア規制の強化について利用者保護に配慮するよう要請しました(※5)。

アプリストアこそ消費者の利益を増やしていると主張

つまりアップルは、現状のアプリストア・ビジネスこそスマホ利用者の利益を増やしているのであり、日本政府が行おうとしているアプリストア規制はスマホ利用者の利益を減らすことになると懸念を示したわけです。

これは公正取引委員会や米政権の「現状のアプリストア・ビジネスはスマホ利用者の利益を害しているようだ」という見方の真逆です。

日本経済への貢献度を猛烈アピール

クック氏はさらに首相に、アップルは日本のスマホ業界などに過去5年間で13兆2,000億円支出したと強調しました。

さらに、首相がクック氏に、マイナンバーカードの機能をiPhoneに搭載できるよう要請すると、クック氏は「取り組みたい」と答えたといいます。

「アップルは日本経済に貢献しているのだから、規制について見直して欲しい」と言ったわけではないのですが、気になる言動です。

※5:https://www.asahi.com/articles/ASR294SF2R27ULFA00G.html

まとめ~強者ゆえの責務

この記事の内容を箇条書きでまとめます。

●アップルとグーグルのアプリストアについて、日米政府が重大な懸念を示していて、規制を強化する動きをみせている

●アップルとグーグルのアプリストア・ビジネスは強すぎて、公正な競争を阻害しているとみられている模様

●日本の公取委はグーグルとアップルを名指しして、問題がみつかれば厳正に対処すると宣言した

アップルもグーグルも違法なビジネスをしているわけではないので、規制強化は面白くないはずです。しかし日米にとどまらず世界中の人々がアップル製品とグーグル製品をこれだけ強く頼りにしている以上、両社は、他社が公正な競争を展開できるビジネス環境をつくらなければなりません。

規制当局と2社の動きはこれからも注視していく必要があるでしょう。

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