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川崎重工が伊藤忠傘下に? 商社が安全保障会社を買う
川崎重工は飛行機も潜水艦も発電所もつくっているが、実は一番儲けているのはバイクである。
バイクを含むパワースポーツ& エンジン事業の売上高は、川崎重工全体の27%を占める。
また、川崎重工には約4万人の従業員がいるが、その28%はバイク関連に従事している。
川崎重工は「バイクもつくっている重工会社」ではなく「バイクに支えられている重工会社」なのである。
このことを踏まえると、以下のニュースは大事件である。
カワサキモータース、伊藤忠が株式20%取得へ 米国での販売強化へ
(朝日新聞、2024年11月8日)
川崎重工業は8日、完全子会社で二輪大手のカワサキモータースと伊藤忠商事が資本業務提携を結んだと発表した。川重が持つ株式の20%を、来年4月に伊藤忠へ800億円で売却する。主力の米国市場での販売強化を進める一方、株式の売却益を水素など注力事業の投資にあてる。
バイクやオフロード四輪を手がけるカワサキモータースは、昨年度の売り上げの半分以上を米国事業が占める。両社は米国で金融事業を行う合弁会社を立ち上げ、ローンの審査や供与、顧客サービスを強化してシェア拡大を図る。さらに伊藤忠が強みを持つ新興国における需要の取り込みや、物流の効率化をめざす。
川重は調達した資金で、脱炭素に向けた水素のサプライチェーンづくりや、配送や手術支援といった産業用以外のロボットなどの分野に投資する。山本克也副社長は「売上高が伸びていて運転資金も増えている。成長投資にかなり回していかないといけない」と話す。
商社が安全保障会社を買うのは許されないから、バイク子会社を買う形にしたのか
カワサキモータースは川崎重工のバイク部門なので、伊藤忠の関心はバイク事業にある、とみることができる。
したがってこのニュースは、素直に読めば、伊藤忠がバイク事業に乗り出すことを伝えている。
しかし先述のとおり、バイクは川崎重工のメイン商品なので、この提携は伊藤忠による川崎重工支援とみるほうが妥当だろう。
記事にも、カワサキモータース株を売って得たカネで、水素と手術ロボットをやると書いてある。
商社が武器をつくっている重工会社を買うことは、どちらも日本企業とはいえ安全保障上の問題になりかねないので、伊藤忠は川崎重工のバイク会社だけを買う形にしたのではないか。
そうだとしたら川崎重工がバイク部門を、完全子会社とはいえ分社化したのは上手な采配だった。
カワサキモータースができたのは(分社化したのは)2021年のことであり、つい最近のことだ。
もしかしたら伊藤忠が川崎重工を買いやすいようにしたのかもしれない--などと邪推したくなる。
モノづくり会社がモノ売り会社に買われるのである。
日本の製造業、結構やばいのかもしれない。