鏡筆のショートショート「仲間割れのコスト」
下流社会を、奪われている人の集団、とする。
上流社会を、強奪者たちの集まり、とする。
下流社会の人たちが一致団結すれば、上流社会なんてすぐにつぶせるのに、下流社会の人たちはそうしない。
下流社会の人たちは、上流社会をつぶすことより、仲間割れに熱心になってしまうからだ。
仲間割れのコストは高いので、下流社会はますます弱体化する。
それで下流社会の人たちは、上流社会の者どもがつくったルールに、つまり下流社会の人たちに不利なルールにしたがわざるをえなくなる。
下流社会で仲間割れが自然発生的に起きるのは、下流社会の人たちが下流社会にいたくないからだ。
下流社会の人たちは、自分の周囲の下流社会の人たちのことを、そもそも仲間とは思っていない。
だから仲間割れを起こしても平気なのである。
上流社会で仲間割れが起きないのは、上流社会の人たちには「下流社会に落ちたくない」という気持ちが働くので、社会を維持するコストを小さくしようという知恵が芽生えるからである。
上流社会の人たちはその知恵を、仲間意識と呼ぶことすらある。
上流社会の人たちは、自分の周囲の上流社会の人たちから嫌がらせを受けても、仲間割れを起こしたくないから反撃せず、我慢してしまう。
上流社会は今日も安泰である。
下流社会が弱いままなのは、下流社会から優秀な人を輩出できて、その人が上流社会に移行しても、その人が下流社会を救済しないからである。
上流社会が強いままなのは、上流社会の落第者が下流社会に転落しても、救済してもらえないからである。
下流社会が地下部分、上流社会が地上部分というイメージは正しくない。
下流社会は泥のプールで、そこから這い出たところが上流社会、というイメージのほうが、より現実的だと思う。
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