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線引きという合理から逃れる組織開発

ワークライフ・バランスを整えるためには、前提として仕事とプライベートを分けて考える必要があります。そこで、1日24時間を、どのように配分するかが検討の中心になってきました。具体的には、労働生産性の向上というお題目も踏まえながら、残業に厳しい目が注がれることになりました。とくにコロナ禍を経て、通勤(移動)時間に対する非合理性が強調され、テレワークが推奨されることになりました。もっとも通勤時間については、阪神・淡路大震災のとき、自治体が設けた仮設住宅に対し「通勤に40分もかかるところに建てるなんて酷い」とう訴えが出たことで、被災者に対する国民的同情を一気に失ったり、「車で15分もかかるほど遠い勤務地」という感覚が当たり前の地域も少なからず存在していたりする一方、首都圏では、理想の通勤時間は1時間以内だが、現実は1時間半超になっていることが普通だという格差があるため、あまり注目されていませんが。
いずれにしても“バランス”という考え方では二項対立が起こり、誰もが満足のいく結果を導き出すことができません。そこで最近は、ワークライフ・インテグレーションという、仕事とプライベートを一体的に捉える概念が注目されています。根底にあるのは、「従業員が幸せだからこそ顧客に最高の満足を提供できる」という考え方です。つまり、労働者自身が幸せを感じる働き方(幸せな人生だと実感できる働き方)をすれば、結果として労働生産性や利益が向上するというものです。コロナ禍で「不要不急」とは何かが問われたり、1年中休みなく働いても精神に変調をきたさない人がいたり(芸能人や経営者に多くみられる)、何日・何時間という線引きに対して疑問が湧いたり(100時間はダメで99時間はいいのか?)し、物理的な時間の確保だけが必要なわけではないことが、広く感じられているように思われます。
すなわちワークライフ・インテグレーションとは、高度成長期から維持されてきた、自らの利益を極限まで抑えることで生存していくという考え方とも、時間管理がすべてであるかのような考え方とも、一線を画すものと思われます。
さて、実運用ですが、趣味も大切な人生の一部として承認していくとする企業が多いようです。しかし、プライベートを仕事以外の時間と広く捉えれば、出産・育児・家事・介護も同じように考えることができるでしょう。そして何より大切なことは、仕事以外のことも仕事の進め方や成果などに影響し、仕事も仕事以外のことのやり方や意義などに影響を与えるという相互補完的な関係にあることを理解する必要があります。
したがってワークライフ・インテグレーションに基づく柔軟な働き方とは、それぞれに合った制度を作るのでもなく、また、その効果を測定できる必要があるわけでもなく、あくまで個々人の幸福度を個人の裁量に委ねた働き方となるではないでしょうか。だから、何の夢も目的もモチベーションもなく、ただ生きるために働いているという『静かな退職』に対して、「目標(生きがい)を持て」と強制することもまた、ワークライフ・インテグレーションから離れることだと思います。『静かな退職』をも含めて認めていくことが、ワークライフ・インテグレーションに基づく柔軟な働き方になるものと考えます。
秋霜烈日とは、秋の霜や夏の強い日差しのように、気候の厳しい様を表しています。ここから、刑罰・権威・意志などに対し、特段に厳しくまた厳かであることを旨とする検事の職務とその理想像を表しているとされます。だから検事は、春風駘蕩(景色がのどかであったり、風がそよそよと気持ちよく吹いたりする春のように、温和でのんびりした人)であってはならないようです。しかし、秋霜烈日を検察官が付ける記章のデザインとして採用したのは、霜の如き厳格さばかりでなく、陽射しのような暖かさも必要という意味を込めてのことだという説もあるようです。
狭義の秋霜烈日が批判され、あたかもすべてが春風駘蕩であれとする風潮があるように感じますが、秋霜烈日から春風駘蕩までがグラデーションであり、その中をあるがままに移動できる組織、そして秋霜烈日に寄り添える組織が、今は必要なのではないでしょうか。

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